【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が、Netflixから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。
今回ピックアップするのはNetflix ドキュメンタリーシリーズ 『大坂なおみ』(2021年7月16日より配信開始)です。
日本人で初めてグランドスラム優勝、世界ランキング1位と輝かしい成績を残しているテニス界のトッププレイヤー大坂なおみさん。
今年、SNSで「アスリートの心の健康が無視されている」と試合後の記者会見に応じないと表明した報道があり、世界がざわめきましたが、このドキュメンタリーを見ると、わかるんですよ、彼女の心の内側が。こんなに繊細な女性だったのかと!
ではこのドキュメンタリーのストーリーからいってみましょう。
【大坂なおみの素顔を紐解く3つのストーリー】
大坂なおみさんを2年間追いかけたドキュメンタリーは3話構成。1話は、ホームビデオの映像による幼い頃の思い出話から、全米オープン初優勝をして、殺到する取材をこなしたり、プライベートでまったりしたりという姿を映し出すサクセス編です。
2話はひとことでいえばスランプ編。頂点に立った彼女ですが、そこからプレッシャーに押しつぶされるように勝てなくなってしまう。加えて親交のあったバスケットボール界のスーパースター、コービー・ブライアント選手の死に衝撃を受け、悲しみにくれる姿も……。
第3話はなおみさんが立ち直っていくカムバック編。何かをきっかけに「よっしゃー!」と立ち上がるのではなく、静かにもくもくと練習に励み、ドン底から力を積み上げていきます。自己主張をしないタイプだった彼女が「Black Lives Matter」の抗議活動を行い、自身で発信していく姿も描いています。
【シャイで自己主張が苦手なチャンピオン】
テニス界のトッププレイヤーを映し出したドキュメンタリーですが、意外なのは、アスリートのドキュメンタリーというより、ひとりの23歳の女性の素顔を追いかけたドキュメンタリーという印象が強いことです。
テニスの試合や練習する姿はありますが、スポーツ選手にありがちな汗、根性、ストイックといったわかりやすい描写はなく、テニス界のトップに上り詰めた大坂なおみという女性の素顔を映し出しています。
このドキュメンタリーの一番の魅力は彼女から発せられる言葉。なおみさんはシャイで小さな声でかわいらしい話し方をするのですが、印象深い言葉が多いんですよ。
「私が強くなるために払ってきた犠牲は誰も知らない」
「言いたいことはあるけど、声をあげるのは怖い」
「おとなしい善人のイメージで」
など、心身ともに強くなければチャンピオンにはなれないと思うけど、彼女は肉体的にはタフだけど、心はとても繊細であまり自己主張をするのが得意じゃないんだなというのが、彼女の語りからよくわかる。
ファッション関連の仕事でドレスアップしてステージに立っても、どこかオドオド。「私を見て!」みたいにならないところが大坂なおみなのですね。
【国籍や人種への言及はあるけど…】
このドキュメンタリーを演出したのは米国人の女性監督ギャレッド・ブラッドリー。
人種や階層をテーマにした作品を制作してきたブラッドリー監督だからか、この映画でもなおみさんの人種についての言及はあり、「Black Lives Matter」の抗議活動に深い関心を示し「国籍と人種は違う。そこを理解してもらえない」と語ったりするのですが、あまり日本国籍について語ることはないんですよね。
「もっと日本語話した方がいいのかな」とつぶやくシーンはあるんですけど、日本人のお母さんが何度も登場してくるわりに、このドキュメンタリーは日本とのかかわりが薄くて。
ブラッドリー監督が大坂なおみと日本の関係に興味がなかったのかもしれませんが、そこは少し物足りませんでした。
とはいえ、スランプから2度目の全米オープン優勝への軌跡はたのもしく、試合のシーンはエキサイトするし、本当にかっこいい!
試合しているときのたくましさとコート外でのシャイな素顔のギャップが彼女の魅力でもあり、そんな大坂なおみの魅力の一端が映し出されたドキュメンタリーであることに間違いはありません!
執筆:斎藤 香 (c)Pouch
Netflix ドキュメンタリーシリーズ『大坂なおみ』7月16日(金)Netflix にて全世界独占配信