トップへ

映画化で人気再熱『胸が鳴るのは君のせい』 著者・紺野りさが語る、過去の自分に伝えたい“奇跡“

2021年07月18日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『胸君』著者が過去の自分に伝えたいこと

 紺野りさによるコミック『胸が鳴るのは君のせい』(小学館)。主人公は明るくてしっかり者の篠原つかさ。そんな彼女が恋をしたのは、中2のときに転校してきたマイペースでクールな有馬隼人。仲は良いし、周りの友人からも「両想いなんじゃない?」と言われて勇気を出して告白するも卒業直前に玉砕してしまう。同じ高校に進学した2人はそれからも仲の良い友人として、クラスメイトとして接していたが……。つかさの一途な片思いを描いたラブストーリーだ。


 そんな『胸が鳴るのは君のせい』が浮所飛貴、白石聖で実写映画化された。今回は原作者の紺野りさと、担当編集の河氏に映画の魅力、漫画制作秘話について訊いた。(ふくだりょうこ)


(参考:【画像】浮所飛貴、白石聖が出演した映画版のビジュアルはこちら


■そこに有馬とつかさがいると思った


――映画公開おめでとうございます。映画化が決まったことを聞かれたときはどのようなお気持ちでしたか?


紺野りさ(以下、紺野):自分が描いた作品を映像化していただける、実際に役者さんに演じていただけるとは夢にも思っていなかったので、まずは心臓が止まるぐらいのびっくりでした。一生の記念にと思ってもう二つ返事で。


 以前、声優さんに声をあてていただいて、動画になったときも、ものすごく感動したのですが、今度はさらに映像がつくということにワクワクしていました。


――つかさ役を白石聖さん、有馬役を浮所飛貴さんの印象はいかがでしたか?


紺野:本当にイメージ通りで爽やかな……。多分、おふたりが作品に寄せて表現してくださったからだと思うんですが。実際に身近にいそうな、でもキラキラした存在という、絶妙なラインで表現してくださっているな、と思いました。


 あと、私がキャラクターを描くとき“目”にこだわっているんですけど、それに合わせてキャストさんを探してくださったんだろうな、と。有馬だったらちょっと切れ長で涼しげな釣り目で、長谷部と繭はいとこ同士だから垂れ目で、とか。


――つかさは描く上で力を入れていたポイントはありますか?


紺野:つかさはとにかく素直。年齢よりちょっと幼いぐらいの天真爛漫さがある女の子というイメージでした。快活さを現すために、シュシュとか小道具は元気寄りなイメージでデザインしてました。つかさを演じてくださった白石さんは「あっ、生きてる」「漫画から出てきてくれてる」って思いました。


――撮影の見学に行かれた際のレポートがコミックにも収録されていますが、実際お二人にお会いになった印象はどうでしたか?


紺野:学校での撮影だったんですけど、私達が到着してまだ外にいる段階で浮所さんご本人が自ら走って外に出てきてご挨拶してくださったんです。


河:基本的にはこちらからご挨拶に伺うことが多いんですけど、浮所さんはすごく無邪気に走ってこられて「先生―!」「お会いしたかったんです!」って。


紺野:気さくに接してくださって、一気に壁も取っ払われた感じでした。


――現場で印象に残ったことはありますか?


紺野:この日初めて現場を見学させていただいて、いろんな方が一丸となって作ってくださっているのを実感しましたね。浮所さんが現場の雰囲気作りをされていて、白石さんやほかの方々とも楽しそうに話をされていました。


 休憩時間には私にも話しかけてくださったんですけど、コミックスを手に「ここにキュンキュンしました」とか「ここを自分でも伝えたいと思ってるんですけど、解釈合ってますか」とか。


河:コミックスには附箋もたくさんついていました。自分が好きなシーンを伝えてくださって。本編以外に収録されている読み切りまで読んでくださっていて、このタイトルのこの話が好きです、というのを全部紺野さんに真摯に話してくれていました。


紺野:ご自身のオリジナルの有馬にしてくださってよかったんですけど、私がどんなふうに感じるかというのを、重視してくださっていること、そのために一生懸命考えてくださっているんだということを感じました。


――白石さんはいかかでしたか?


紺野:白石さんの熱量も本当に高くて。つかさの言動や気持ちについてのお話をよくしてくださっていました。見学に行った日はすごく暑かったんですが、疲れを見せずに本当にニコニコしてくれたんですよね。浮所さんが天真爛漫に雰囲気作りしている一方で、白石さんが気配りをしてくださっている。そんな役割が見えました。


河:お二人の雑誌の撮影も見学させていただいたんですが、浮所さんは無邪気にワーッと、白石さんは待ち時間にススーッと紺野さんの隣に遠慮気味に来てるって感じでしたよね。


紺野:そうでしたね。雑誌の撮影は完成した映画を初めて観た直後だったので、「本当にすごかった」と感想を直接お伝えできたのも嬉しかったです。


――実際に、映画を観られていかがでしたか?


紺野:すごく原作に忠実に再現してくださっていることに何より感動しました。やっぱり描いた本人だから細かいところを覚えているんですよね。小物とか、キャラクターたちの性格に合わせたカメラワークっていうんでしょうか。漫画と映像って表現法が違うんですけど、絵の作り方とかは共通するものがあるんだな、と刺激を受けましたね。


河:漫画でつかさが着ていたTシャツもそのまま再現して着せてくれていたり、現場の方々が原作を尊重して作ってくださってる感じがしましたよね。


紺野:「この場面のときにつかさはドット柄のマフラーつけてたな」って思っていたら、映画でもドット柄のマフラーをつけていたりして……どれだけ読み込んでくださったんだろう、と感激しました。


――ファンとしては、映画と原作を読み比べるのも楽しいですよね。映画化に当たって、ご自分で読み返されたりしたんですか?


紺野:しました。


――当時の自分の気持ちとの変化はありましたか?


紺野:連載は7年前に終わったものなので、やっぱりありますね。今回、新しく読み切りを書くにあたって有馬とつかさがどんな子だったかなとか、どんな口調だったかっていうところをチェックしたんですが、当時考えていた「こういうところでときめいてほしいな」とか「共感してほしいな」という軸はいまだに変わっていなかったんです。私の中の理想とか、お届けしたい基本形がここにあるんだな、ということを再確認しました。


――時代の中でヒーロー像やヒロイン像が変わってきたというところはあるんですか?


紺野:そこは変わってましたね。今連載中の『AM8:02、はつこい』のヒーロー役の男の子は有馬とは正反対な位置にいるような人です。私が見せたい男の子のかっこいい部分は変わらないんですけど、今は令和の男子、という感じかな。やっぱりその時々に合わせた口調や、ファッションもそうです。有馬は当時の私が一番ときめく男の子を描いていて、そのときのスタイルが出ているんだな、と思います。


――どうしても次第に読者の方とは年が離れていくわけですが、今の子たちの気持ちはどうなんだろう? と悩んだりはされますか?


紺野:やっぱりジェネレーションギャップは感じます。以前、取材の場も設けていただいたりしたんですが、その時点で自分の学生時代とは違うんですよね。その時々の良さはなるべく追いかけたいなと思いつつ、できているやら。ただ、すごく意識しています。


――特に意識して見ていることやものってあるんですか?


紺野:とりあえずインスタとTwitterのランキングは毎日見ています。何が世の中の心を動かしたのかな、って。流行のものが知りたいのと、どんな言葉遣いでこの感情を表現しているのかっていうのが知りたくて。


河:言語が時代によって違いますからね。エモいとかなかったし。


紺野:でも最先端のものを漫画に使っちゃうと。


河:逆にすぐ古くなってしまうんですよね。


紺野:流行はちゃんと知っておくけど、作品ではなるべく普遍的な、何年経っても通用するような言葉遣いをと思っています。


■影響を受けたのは『ロンバケ』? 「溜めて溜めて胸キュン」がいい


――紺野先生が漫画を描くようになったのはいつからですか?


紺野:まともにコマを割ってノートに漫画っぽいものを描いたのは小学校3~4年ぐらいですね。多分、最初はラーメン屋さんに置いてあった雑誌の4コマ漫画に影響されたんだと思います。


――少女漫画じゃないんですね。最初に投稿されたのはいつなんですか?


紺野:投稿自体は大学3年生の終わりぐらいです。


――描き始めてから、投稿まで間が空いているんですね。


紺野:美術部に所属はしていたんですが、私の中でずっと漫画は読んで楽しむもので、自分がその世界に通用するとか、同じ土俵に立つみたいなことを考えてもなかったんです。でも、就職活動のときに自分の好きなことでお仕事してみたい、と思って初めてまともに原稿用紙を買って、ペンで描いたんです。それで、初投稿で担当ゲット賞という賞をいただきました。


――初めての投稿で賞を獲るのはすごいですね。


河:初回投稿だとあんまりないんですよ。


紺野:そうなんですか!?


河:光るものが最初からあったんだと思いますね。


紺野:嬉しい。正直、自分がこの業界で通用するものなのか、腕試ししたかったっていう部分があって。もしかしたら早々に挫折してしまっていたかもしれないですね。ありがたいチャンスをいただけました。


――作品を描かれる上で、影響を受けた作品はありますか?


紺野:たくさんあるんですけど……渡瀬悠宇先生の『ふしぎ遊戯』が入り口で小学館の漫画はよく読むようになりましたね。学園モノだと山崎貴子先生の『ポイッ!』。あの雰囲気がすごく好きなんですよね。学校の匂いを思い出すような、その時代の自分に立ち返れちゃうような表現法にすごく影響を受けました。でも一番キュンときたのはドラマの『ロングバケーション』ですね(笑)。もう心臓が痛いぐらいきゅんとするんです……! 全11話なんですけど、南ちゃんと瀬名くんが初めて男女の雰囲気になってキスしたのが6話目なんです。そこに至るまでの関係を丁寧に築いていく過程が描かれていて。溜めて溜めて……やっと胸キュンシーンっていうのが、私にすっごい刺さるんだと思います。


河:紺野さんは、関係性が変わっていくっていうところに多分萌えを感じるんですよね。恋じゃない関係性が恋に変わる瞬間みたいな。


紺野:多分そうだと思います。どうしよう、性癖がバレる(笑)!


――連載を重ねてきて、当時の自分に言いたいことはありますか?


紺野:当時は「今は良くても、3年先、5年先、生き残っていけるのかな」と不安だったり、自信がない、これでいいのかとか、独りよがりな漫画になってないかっていうことは常に考えて悩んでいました。でも、『胸君』の連載をさせていただいたときに読者の方からのアンケートやお手紙が届くようになって。1人で壁打ちしてるわけじゃなくて、誰かがどこかで受け取ってくれてるんだなということを感じて、力になりました。そこに至るまでが長かったんですが、奇跡が待ってるから頑張ってって言ってあげたいです。


――映画を観たことがきっかけで原作を読む方もいると思うのですが、最後にその方たちに向けてメッセージをお願いします。


紺野:7年前に連載が終わったものを、またこうして話題にしてもらえる状況が本当に嬉しいです。映画がきっかけで読んでださった方にとっては、映画と原作ではイメージが違うものもあるだろうなとは思います。でも、映画でドキドキしてくださったのだとしたら、漫画でも間違いなくキュンとしていただけると思うので、読んでいただきたいですし、その上で、感じたことを教えてもらえると漫画家冥利に尽きます。


(取材・文=ふくだりょうこ)