2021年07月17日 09:21 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスについての電話相談に携わった人の約7割に不眠症状があるという調査結果を、東北大の研究グループがこのほど発表した。2020年9月~21年1月にかけて、仙台市を除く宮城県の保健所職員・関係者におこなったアンケート結果をまとめたものだ。
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原因の1つには、健康相談だけでなく、窓口ではどうしようもないコロナ関連の苦情が多く寄せられたことがあるという。給付金やワクチンのコールセンターなども含め、コロナ関連の窓口では、相談を受ける側が長時間罵倒されるなど、深刻な心理的ダメージを負いやすい。
研究グループの富田博秋教授は、「支援対象者から否定的なメッセージを受け取ると、自責感が高まりやすい。オーバーワークとあいまって、精神的負荷がかかる状況にあります」と説明する。
一方で保健所などの行政職員は弱音を吐くと市民からのバッシングも受けかねないため、SOSを発信できず、よりストレスを抱えやすい側面もあるそうだ。(編集部・園田昌也)
主に調査があったのは2020年9月~11月で、この期間に回答した23人を分析したところ、不眠症状(69.6%)のほか、心理的苦痛(56.5%)、心的外傷後ストレス反応(極度のストレス後にみられる心身の不調/45.5%)、抑うつ症状(31.8%)などの症状が見られた。
自由回答に目を移すと、サポート体制が不十分なまま、長時間拘束されるという有事対応ゆえの負担も大きいようだ。
しかも、ただ労働時間が長いだけでなく、「こちらに非がなくても叱責された」、「感情的に話し、電話担当者の人格を攻撃してくる」、「説明しても納得せずに何度も電話をかけてくる人がいて困った」など、相談者対応で心理的負担がかかっていたことがみてとれる。
富田教授らは災害による心理的被害やそこからの回復支援などについて専門的に研究している。富田教授によると、保健所の置かれた苦境は東日本大震災などの災害と共通する部分があるという。
「東日本大震災のとき、行政職員は自分の家も被災している中、役場に泊まり込んで仕事をする一方、被災住民や一般市民からの非難の矢面に立たされることが多くあった。行政は限られたリソースで〝災害〟に対応しないといけないので、全住民が満足することはない。その不満が窓口の職員個人に行ってしまう」
それが感情的であったり、理不尽に感じられる部分があったりしても、訴えの背景に相談者の困窮する状況を察することができることも多い。それゆえに、行政職員はストレスをため込みがちだ。
富田教授は「行政に自分が困っていることを伝え、解決に向けて相談をすることと、行政職員も大変な状況で仕事をしているんだと考えることは両立する。考え方の引き出しを増やしていくことが大切」と呼びかける。
宮城県もこうした現場の苦境に見てみぬふりをしていたわけではない。
調査があった期間の宮城県の新規コロナ感染者数は1日平均で20人未満。一方、月ごとの感染者数で過去最大だった今年3月は平均約80人と4倍になった。
だが、退職した保健師や事務職員を一時的に採用して増員をはかるなどの策が奏功し、パンクすることなく、業務を遂行しているという。
「電話にかかりっきりになると、保健師の専門業務に注力できない。県民の健康と命にかかわるので、民間のコールセンターに一部業務を委託したり、感染者数の増減に合わせて、県や市町村から数十人応援に入ってもらったりと柔軟に対応しています。
職員のメンタルヘルスについても、電話対応に苦慮している場合は上司や管理監督者がフォローにまわるなど、個人への負担が極端にならないよう、組織として取り組んでいます」(宮城県保健福祉部)
今回の調査対象は宮城県だけだったが、研究メンバーの臼倉瞳助教は、他の都道府県でも同様の傾向があるのではないかとみている。
「感染者数などからすれば、宮城県の保健所よりも深刻な地域もあったと思います。今回の調査結果が、保健所の負担にも目を向けてもらうきっかけになれば」(臼倉助教)