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【漫画】パチンコにハマったOLのクズっぷりに共感? なぜか憎めない『ぱちん娘。』の生態

2021年07月17日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『ぱちん娘。』

 実は、一度もパチンコをやったことがない。自分の性格的にもバクチは向いてなさそうだし、競馬のように予想の技術が絡む余地がなく、純粋に確率で勝敗が決まるというのも納得できなさそうだ。だから、今までパチンコをやる人のことがよくわからなかった。そんな謎に満ちた「パチンコにハマる人たち」のことが、非パチンコユーザーにも多少理解できるようになる……そんなマンガが、星海社から発売中の『ぱちん娘。』である。


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 『ぱちん娘。』は、パチンコ情報サイト「DMMぱちタウン」で連載されている、若林稔弥の作品である。ぱちタウン。すげえタウンもあったもんだ……。で、その内容なのだが、主人公は25歳のIT企業勤務のSE、あおい。「仕事はそれなりに楽しいけど、なんだか最近ちょっと退屈」という、「若い女性キャラクターがなにかしら新しい趣味などを始めるマンガ」にありがちな気持ちを抱えた彼女が会社の帰りに入ったのは、パチンコ屋だった……。そこでいきなり大当たりを出してしまったあおいは、同じくパチンコにドハマりしている3人の女子と共に、抜けたくても抜けられないパチンコの深みにはまり込んでいく。


 主題であるパチンコと、けっこう不思議な距離感で距離を取っているマンガである。「普通のOLがパチンコにのめり込んでいくマンガ」ということで、結末は借金まみれになって内臓でも売るのかな……と思って読み始めた。ところが別にそういう展開にはならず、「やめたほうがいいんだろうけどな~やめらんねえな~」という女子4人のダラダラしたパチンコライフが綴られることに。


 パチンコ情報サイトに連載されているなら「パチンコってこんなに楽しい!」という内容になってもよさそうなものだけど、そういうことにもならない。あおいがパチンコをする中で出会う開き直ったクズ、みどりの言動は正直かなりのクズっぷりだし、メンタルがガタガタのOLであるひかるののめり込み方も相当危なっかしい。「いや、もう君らパチンコやめときなよ……」という気持ちになる回もある。これは、パチンコ情報サイトに載っているマンガとしてはけっこう攻めているのではないかと思う。


 パチンコを決して楽しいだけのものとして描かず、かといって「社会の害悪」みたいな感じで突き放しもしない距離感、フラットなダメさの描写が、妙なリアルさに繋がっている。パチンコの専門用語は全然わからないが、彼女たちが彼女たちなりにパチンコから抜け出せなくなっている理由が、なんとも生々しいのだ。この衒いのない生々しさのおかげで、パチンコをやらない人間にも、パチンコをやる人間の心理がなんとなく理解できるのである。


 特に「なるほど~!」と思ったのが、ひかるがパチンコにハマっている理由である。あおいに「パチンコより楽しいことなんて色々あるだろう」と言われたひかるは、「パチンコより楽しいことって、何です?」と逆に問い返す。ゲームをするにしても練習したりレベルを上げたりしなくてはならないし、いい大人になってから趣味を持つのは、それなりにやる気がなければ難しい。その点、パチンコなら球が転がるのを見ているだけで感情が強く揺さぶられるし、技術やセンスがなくても台に金を突っ込むだけで参加できる。「難しいことをしなくても夢中になれる」のがパチンコなのである。


 ここを読んで、おれはようやくパチンコにハマる人の気持ちの一端が理解できた。なるほど、それなら金を賭けねばならんはずである。賭けた金がデカければデカいほど感情の揺さぶられ方もデカくなって楽しいし、なおかつ競馬のようにルールや血統についての傾向を学んだ上で予想するようなめんどくさいことをしなくてもいい。「これといった技術や知識がなくても、座っているだけで大きく感情を揺さぶられる体験ができる装置」だと思えば、パチンコ屋にあれだけ人がたくさんいるのもよくわかる。


 パチンコのエグいところはこの参入障壁の低さと、それとは不釣り合いなほど激しく感情を揺さぶる点だろう。その点を突き放しもせず、かといって大して肯定もせずに描いている点で、『ぱちん娘。』はパチンコをやらない人にとっていいガイドブックになる。まあ、他人事ならパチンコにドハマりしている人間というのは存外面白いものでもあるし、身近な人間がパチンコをしているのが不思議な人は、一読してみると得るものがあるかもしれない。