2021年07月16日 10:11 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスのワクチン接種が進む中、ネット上では科学的根拠のないデマも飛び交っている。こうしたワクチンに関するデマの現状や対策について共有する「ワクチンデマ対策シンポジウム」(主催・一般社団法人セーファーインターネット協会)が7月15日、オンライン開催された。
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ジャーナリストの古田大輔さんや国際大学GLOCOMの山口真一准教授が登壇し、メディアやプラットフォームに求められる対応などについて発表した。
新型コロナワクチンには「マイクロチップ」や「劇薬」が含まれている——。こんな荒唐無稽なワクチン言説が2021年3月、ツイッターに投稿された。古田さんはこうしたデマについて「影響力はそれほど大きいとは言えない」と指摘する。
一方、一定の影響力を持つものとして「コロナワクチンが不妊を引き起こす可能性がある」という言説をあげた。厚生労働省は「ワクチンが妊娠、胎児、母乳、生殖器に悪影響を及ぼすという報告はありません」と否定している。
なぜこの「不妊」デマが広がりやすいのか。古田さんによると「非常に関心が高い分野で、専門性が高く一般人は確認が難しく、情報量が多すぎて誰を信じていいか一般の人にはわかりにくい」ためだ。同じクラスタが何度も情報を拡散するため、なかなか消えていくこともないという。
「デマ」というと、意図的に偽造や改ざんがされた「偽情報(Disinformation)」や利益を得たり対象を貶めたりする目的で流す「不正情報(Malinfomation)」を思い浮かべる人が多いが、古田さんは「意図せずに誤った『誤情報(Misinformation)』も強い影響力を持ちうる」と指摘した。
また、ソーシャルメディア分析ツール「NetBase」で主にツイッターを中心に「コロナ ワクチン」に関する情報のポジティブ・ネガティブ分析をしたところ、月を追うごとにネガティブな反応が増えていることが分かった。具体的には「怖い」というワードが多く発信されていた。
こうした漠然とした恐怖が広がっている背景には、「ワクチン接種後女性死亡」「ワクチン接種後の死者が●人になった」といった情報が影響しているという。
「家族や知人が亡くなったなどのツイートや、ワクチン接種後の死者が何人といったニュースが、恐怖の共感を広げている。情報自体は間違っていなくても、ワクチンのせいで亡くなったという印象を与えてしまい、科学的な見地をかいたミスインフォメーションになる」(古田さん)
そのため、メディアなどが副反応について報道する際は、文脈を加えてミスリードを避けること、読者の疑問や需要に先んじて答えること、見出しで情報を伝えることが大切だと指摘した。
国内外でどのようなワクチンに関する言説が広まっているのか。山口准教授によると、大きく以下の5つに分類できるという。
(1)接種者が死亡したとされる言説
(2)ワクチンの副反応に関する言説
(3)ワクチンの危険性に関する副反応以外の言説
(4)ワクチンの効果に関する言説
(5)そのほか陰謀論などのデマ言説
中でも(1)は報道による注目を集めやすく、人々に与えるインパクトは大きい。
山口准教授も「本当に亡くなった事例でも、両者の因果を強調するような情報は過度に人々の不安を煽る」と指摘し、「『●人死亡』と伝えるだけでは、いたずらに不安を広げるだけの可能性がある。データをもとに、統計的に妥当な情報発信をしていくことが重要」と話した。
また(5)の「マイクロチップが埋め込まれており、人々を管理する」「ワクチンは人口減少をもくろむもの」など大きな背景が裏にあるとする陰謀論は、公権力や大企業に対する批判的態度と連続的になっているという。
「政府への信頼度が低い人ほどワクチン陰謀論に騙されやすいという研究結果もある。陰謀論はファクトチェックが容易だが、思考を変えるためには、否定するとむしろ逆効果だとも指摘されている。否定しないで、粘り強くコミュニケーションすることが必要」(山口准教授)
以上から、メディアには、速やかなファクトチェックとエビデンスを元にした正確な情報伝達、因果を強調しない報道、プラットフォーム事業者には、事実誤認や誇張する表現に対するタグ付けや政府のウェブサイトなどへの誘導などが求められるとした。
また、ツイッターのデータ分析をしたところ、2021年4月からワクチンを含むツイート数は増え続けており、この3カ月で8倍に増えていた。
海外ではワクチンデマに関する調査結果も発表されている。NPO「Center for Countering Digital Hate(CCDH)」がおこなったFacebookとTwitterの80万件以上の投稿分析結果によると、わずか12のアカウントがワクチン関連のデマ投稿の65%を作成、拡散していることが分かった。
日本ではまだ実態は分かっていないが、過去のフェイクニュースの調査結果などから山口准教授は「ワクチンデマにおいても一部のインフルエンサーによる拡散がかなり影響を与えているのではないか」と予想した。