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『サレブル』著者・セモトちかが語る、ドロドロの不倫劇を描いた理由 「人間の多面性を楽しんでもらいたい」

2021年07月14日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『サレブル』著者が不倫を描いた理由

 集英社の女性向けマンガアプリ「マンガMee」で独占配信されている『サレタガワのブルー』(以下、『サレブル』)が、人気俳優の犬飼貴丈と元乃木坂46の堀未央奈を主演に迎えドラマ化された。


 読むと“不倫したくなくなる”漫画として評判を呼んでいる本作の著者であるセモトちか氏にメールインタビューを実施。ドラマ化への想いや、作品を描くことになったきっかけなどを訊いた。(編集部)


(参考:【漫画】気になる『サレブル』を読む


ーー実写ドラマ化おめでとうございます! ドラマ化されると決まった時の率直な気持ちをお聞かせください。


セモトちか(以下、セモト):ありがとうございます! 最初に聞いた時は、「夢かな? ドッキリ? モニタリング?」と思いました(笑)。子どもの頃からの夢だった漫画家のデビューが決まった時に、担当編集さんと「次なる夢は自分の漫画の実写化です!」と熱く語り合った日のことを思い出しました。多くの方の支えがあってのことなので、感謝の気持ちでいっぱいです。


ーー不倫“サレタガワ”田川暢役を人気俳優の犬飼貴丈さん、“シタガワ”の藍子役を元乃木坂46の堀未央奈さんが演じることになりましたが、配役が決まった際にはどう感じましたか?


セモト:私はキャラクターを描く時に、芸能人や友人や知人など実際にいる方を数人イメージして描いているのですが、犬飼さんはまさに暢のイメージの中の一人で「決まったよ!」と聞かされた時は、お腹の底から大きな声が出ました(笑)。『仮面ライダービルド』の頃から大ファンなので!


 堀さんは天使みたいに美麗で清楚でかわいらしい方ですし、ファンの方々にもご本人にも藍子という最強の悪女役を受け入れていただけるか、それだけがかなり心配でした。でも現場でお会いした際に、「藍子役、演じていてすごく楽しいです!」とキラキラした笑顔で言ってくださり、本当に安心しました。そして優しすぎて一気にファンになりました……! 仕上がりもあまりにも完璧な藍子で、堀さんの女優魂を感じて、胸が熱くなりました。


ーー撮影現場にも見学にいかれたとのことですが、生で見たお二人のお芝居はいかがでしたか?


セモト:本当に犬飼さんと堀さんが、暢と藍子でした。私の脳内で考えられたセリフが、お二人の口から発せられるのを実際に目の当たりにして、光栄すぎて泣きそうになりました。夢が叶った瞬間で、一生忘れません!


ーー本作のもう一人の主人公とも言える森梢役には高梨臨さんが、藍子同様に強烈なキャラクターで不倫“シタガワ”のモラハラ夫・森和正役の岩岡徹さんがキャスティングされていますね。


セモト:高梨臨さんも大好きな女優さんなので、決まったよと言われた時、私の中で拍手喝采でした。まさにイメージ通り! そして和正は『サレブル』の中でもトップを争う邪悪なキャラなので、イケメンでジェントルなイメージの岩岡さんにやってもらって大丈夫なのかしらと、こちらもすごく心配になりました。ただ、漫画の和正より魅力的で色気もすさまじい方なので、“不倫不可避な上司”として、見ている方にもドキドキソワソワしてもらえるんじゃないかなと思います。漫画では「こんなヤツのどこがいいのかわからない」とよく言われるのですが(笑)、ドラマ(三次元)で見たら良い男だった、と思ってもらえると思います。


ーー脚本を務める舘そらみさんは『来世ではちゃんとします』や『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』といった漫画原作のドラマでも脚本を務め、評判を得ていますが、セモトさんが原作者として舘さんにお願いしたことはあるのでしょうか。


セモト:舘そらみさんとお仕事できるなんて光栄で、ありがたいです! 漫画を愛してくれる読者さんにも楽しんでいただけるように、人気のシーンやセリフはなるべく残して欲しいという点や、シーンの意図も細かくヒアリングしていただけたので、ニュアンスまでしっかりお伝えすることができました。“不倫したくなくなる”がテーマなので、そこはブレさせずお願いします! というのが一番熱くお伝えした部分です。とても愛を持って脚本にしていただけたなぁと感じています。


ーーセモトさんはもともと働きながら漫画を描いていたということですが、“漫画家”を目指したきっかけを教えてください。


セモト:前作の『星になる前にキミと』を描きあげたいという熱い気持ちからでした。このストーリーを描きあげることは私の人生の使命だと思っていまして。漫画アプリ「comico」のチャレンジ枠に趣味で半分くらい投稿していたところ、公式にお誘いいただけてデビューとなりました。


ーー『星になる前にキミと』では、大人の“純愛”を描いていたセモトさんが、『サレブル』では打って変わって“裏切り”をテーマにドロドロの不倫劇を描いていて驚きました。『サレブル』を書こうと思った理由は何だったのでしょうか?


セモト:元々ドラマや映画などで見る不倫モノが、エンターテイメントとして面白いなと思っていました。でも世の中にある不倫モノは“禁断の愛!”のようなロマンチックなモノが多くて、実際に不倫された側目線の、ロマンチックではない現実的なお話を描いてみたいなってずっと思っていました。


 『サレブル』を読んだ男性読者さんから、「暢に感情移入しすぎて初めて知ったけど、サレタ側ってこんな苦しいんだね。『サレブル』で勉強して一生妻だけ愛します」というありがたいお声もいただきました。“サレタガワ”の痛みを知ってもらえれば、少しでも不倫したくなくなる人が増えるのかなと思っています。それがこの作品を描いた目的のひとつです。


ーー今まで“サレタガワ”と言えば妻の心情を描いたものがほとんどだったと思います。描くにあたって実際に取材もされたのでしょうか。


セモト:弁護士さんや、シタ側、サレタ側、男女問わずたくさんの方にお話を聞きました。もう時効と言って笑い話に昇華できている方からは、とても前向きな「強さ」も感じました。「不倫されて離婚した」だけが人の物語ではないと思うので、そのあたりも描いていきたいです。


ーー『サレブル』は愛する者に裏切られた人の気持ちがリアルに描かれ、自分ごとの様に苦しくなるときもあります。一方でどこかドロドロの不倫劇がコミカルに描かれているのも印象的で、藍子や和正の言動にイライラしながらも、そのぶっ飛んだ様にクスリと笑わされることもしばしば……。シリアスとコミカルのバランスが絶妙だなと思うのですが、セモトさん自身がシリアスになりすぎないように気をつけている点などはありますか?


セモト:実はとっても気をつけています! 感じとっていただけて嬉しいです。テーマがテーマなので、暗くなりすぎないように心がけています。やっぱり漫画はエンターテイメントなので、“面白い”は必須な気がしていて。あとは私自身、ふざけたがりなので……。こういう取材などの真面目な場でも、担当編集さんに「ふざけすぎです」とお母さんのように注意されちゃいます(笑)。


ーー(笑)。『サレブル』はタイトルも印象的ですが、どうやって決まったのでしょうか。


セモト:仮タイトルは『された側の夫』でした。サレオット。『◯◯の◯◯』ってタイトルのヒット漫画は多いですし、売れるジンクスがあるような気がしていて、ゲン担ぎに。次に主人公の名前を、私の大好きな千鳥のノブさんからもらって“のぶくん”にしようと、決めまして(ノブさん勝手にごめんなさい)。「された側ののぶくん……の、ブルー!! され、たがわのブルー! これだ! 主人公は田川のぶる!」とブワッとダジャレがひらめいて決めました(笑)。ブルーは好きな色でもあるので、気に入っています。


ーー先ほどキャラクターの作り方のお話がありましたが、『サレブル』には非の打ちどころがないイケメンの暢、いかにもチャラそうなのに何故かモテモテの和正、暢の良き相談相手であるたみくん、一見爽やかなイケメンだけど後に豹変する水瀬葵と、多種多様な男性キャラクターが登場します。セモトさんご自身はどのキャラクターに惹かれますか? また、和正のような男性に惹かれる藍子や、ともみの気持ちも理解できるところはありますか?


セモト:前作の『星になる前にキミと』の主役の原優助というキャラで、私の理想のタイプの男性像は吐き出したので、ぶっちゃけ『サレブル』には理想の男性はいません。作中で成長していく姿や、逆にいつまで経っても変われない姿など、色々お見せできればと思っています。


 藍子とともみは、男性に依存して執着している部分も大きいので、女子あるあるだなと思いながら描いてます。ダメ男にズブズブになってる世の中の女の子たちの、反面教師になれば(笑)。


ーー「マンガMee」にはコメント欄があり、読者同士で感想を言い合って盛り上がれるのも一つの醍醐味だと思うのですが、セモトさんも読者の反応はチェックしていますか?


セモト:たまに見てます! 感想いただけて嬉しいです。いろんな意見があって然るべきですので、優しいコメントも厳しいコメントもなるべく受け止めようと思って見ています。ただ「(物語を今後)こうして欲しい」といったコメントに脳が影響されすぎないよう、気をつけて見るようにしています。


ーー最後にこれからドラマを観る方や、読者へのメッセージをお願いいたします。


セモト:読者の皆様の応援のおかげで、ドラマ化という夢が叶いました。感謝の気持ちでいっぱいです。皆様への恩返しは、これからもより一層努力して面白い漫画を生み出すことだと思っています! ドラマで初めて観る方は、『サレタガワのブルー』は割とクセの強いストーリーなので、イライラしたりモヤモヤしたりするかもしれませんが(笑)、こんな人たちもいるんだなぁと、人間の多面性を楽しんでもらいたいです。学びも多く散りばめていますので、タメになるドラマだと思います。時間の都合でドラマでは掘り下げられなかった部分もあるので、漫画も合わせて楽しんでくださると嬉しいです!


(取材=苫とり子)