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シトロエン初のPHEVは誰向けのクルマ? 「C5エアクロスSUV PHEV」に試乗

2021年07月12日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●グループPSAの電動化戦略とは
積極的に電動化戦略を推し進めているグループPSAジャパン。同社ではプジョーとDSでフルEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)が導入されているが、シトロエンブランドに今回、初のPHEVとなる「C5エアクロスSUV PHEV」が加わった。フル充電で65キロのモーター走行が可能との触れ込みだが、電気で走るシトロエンの乗り味はどうなのか。さっそく試乗に連れ出し、240キロほど走ってみた。

○3つのパワートレインが選べる「C5エアクロスSUV」

「C5エアクロスSUV」は、シトロエンブランドのフラッグシップに位置づけられるモデル。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンにPHEVが加わり、3つのパワートレインがそろったことになる。そこで、以下のように違いを表にしてみた。

ボディサイズはすべて共通ながら、車重はガソリン、ディーゼル、PHEVの順に重くなる。特にPHEVは、ディーゼルより200キロ、ガソリンより300キロほど重いことを覚えておいていただきたい。

出力関係を見ると、ガソリンとPHEVでは出力は同じだが、トルクはPHEVの方が50Nm大きい。ここにモーターが加勢するので、数値だけを見ると、PHEVには相当力強い走りを期待したくなる。燃費はガソリンとディーゼルの中間がPHEVというイメージだが、実際にはモーターのみでの走行が加わるので、航続距離はさらに伸びるはずだ。

ひとつのクルマに複数のパワートレインを用意するのがグループPSAジャパンの電動化戦略だ。「外見は同じなので、お好きなパワートレインをどうぞ」というスタンスである。パワートレインはガソリン、ディーゼル、ピュアEV、PHEVがあり、ピュアEVは街中がメインとなるコンパクトモデルに、PHEVは長距離にも頻繁に出かけることを想定してミディアムクラス以上に設定している。従って、このC5エアクロスSUVもPHEVが選択されたわけだ。

ここで走行モードについても触れておきたい。C5エアクロスSUV PHEVには「エレクトリック」「ハイブリッド」「スポーツ」の3つのモードがあり、駆動用バッテリーに電力が残っている場合は「エレクトリック」(電気のみで走行)がデフォルトとなる。電力がなくなると「ハイブリッド」に切り替わり、減速時に蓄えた電力は次の発進や加速時に使ってガソリンの消費を抑える。「スポーツ」はエンジンによる走行がメインとなり、電力消費を抑制するモードだ。シフトアップスケジュールやステアリングのパワーアシスト量もコントロールされ、よりスポーティーな走りのイメージが感じられるようになる。

●ハイブリッドの制御は今後に期待?
○乗員のことを考えたクルマづくり

シトロエンというと読者諸兄はどのようなイメージをお持ちだろうか。どちらかというとコンパクトなクルマのイメージが多いのではないか。しかし、過去を振り返ると、シトロエンは大統領専用車になるような大型車を作ったこともある。C5エアクロスSUVのようなサイズのクルマも、彼らにとっては得意な分野ということができる。

C5エアクロスSUV PHEVは、近くで見ると数字以上に大きく感じるクルマだ。ボンネットの位置が高いから、そう見えるのだろう。ただ、運転する上で高いボンネットはメリットになる。このボンネット、左右がわずかに盛り上がっているので、車幅をつかむのに大いに役立つのだ。

ドアを開けて乗り込もうとして気付いたことがある。それは、ドアがボディの下側まで覆うような形状になっていることだ。これには少なくとも2つのメリットがある。ひとつは遮音だ。これにより、ロードノイズなどを大幅に遮断することができる。

もうひとつは、特に車高の高いSUVでは重要なことなのだが、天候が悪いとき、あるいは悪路を走った後にクルマから降りるとき、パンツやスカートの裾を汚さずに済むということだ。多くのクルマはドアがボディの下まで回り込んでいないため、「サイドシル」と呼ばれるドアの下の部分がむき出しになっているので、泥跳ねなどがそこに付着してしまい、裾周りが触れて汚れてしまうのだ。C5エアクロスSUVではそれを防げるのがありがたい。ドアを閉めるときの音も重厚感があり、いいクルマだなと思わせてくれる。

シートに腰掛けると、これまでに味わったクルマのシートのかけ心地とは全く違う印象に驚くに違いない。ぎっしりと中身が詰まった肉厚なシートに腰を下ろすだけで、疲れずにどこまでも走っていけそうな気持ちにさせてくれる。

○ハイブリッドの制御はいまひとつ

残念ながら、センターコンソールは左ハンドルのままのレイアウトになっているので、スタート・ストップスイッチは前方助手席側にあり、ドライバーからは最も遠くに配されている。それを長押ししてエンジンをかけるのだが、もしこの時点で充電残量があればエンジンは動き出さない。これもまた左ハンドル用のままで助手席側に寄ったセレクトレバーを手前に引けば、準備万端、いつでもスタートができる。

ゆっくりとアクセルペダルを踏み込むと、多くの場合、モーターのみでスタートする。この時はほかのEVと同様、極めてスムーズの一言に尽きる。内燃機関から乗り換えても全く違和感はないし、アクセルペダルを踏み込めば思い通りの加速が開始されるので、そういった面でのストレスもない。

しかし、電力を使い果たし、ハイブリッドモードになると少々具合が悪くなる。日本車のハイブリッドだと、いつエンジンがかかったのか気付かないくらいの制御が施されているクルマも多いのだが、C5エアクロスSUVはしっかりとエンジンのオンオフを主張してくる。特にスタート時は顕著だ。まずモーターでスタートし、タイヤ1回転程度でエンジンがスタートするのだが、その際にゴツンというショックが伝わってきてしまう。そこから3,000回転弱までエンジンを引っ張ってシフトアップするときも、若干のショックを感じることがある。そういった面での洗練が足りていないようで、ひとつひとつの動作が手に取るようにわかってしまうのだ。

ブレーキにも違和感が残る。信号の手前でブレーキペダルに足を掛け徐々に踏み込んでいくと、まず初めは思ったほどの制動力が得られず、より強く踏むと、今度は急激に減速力が立ち上がってしまい、制動力のコントロールが少々やりにくい印象を受けた。そこで、試しに一定の踏力でブレーキペダルを踏み減速していくと、その時々で減速力に変化が生じており、特に停まりがけで強くなる傾向にあった。これは想像だが、こういった挙動には回生ブレーキが影響していそうだ。回生ブレーキとは減速時のエネルギーを電気に変えるシステムで、それをバッテリーに充電し、再び電力として使う仕組みなのだが、その際にブレーキのサーボに影響を与え、その結果、踏力に変化を生じさせてしまっているものと思われる。

もうひとつ、街中で気になったことを挙げておこう。それは、渋滞時などでの停止中、充電のためにエンジンが始動したときのことだ。このときの回転数は、タコメーターに細かい目盛りがないためおおよそだが、1,500rpm程になる。それはそれでいいのだが、発進しようとブレーキペダルから足を放すと、アイドリングまで回転を下げようとする。ただ、そのタイミングが少々遅く、アクセルペダルを踏み込むタイミングとバッティングして、回転が落ちかかりながら、再び回転を上げるというギクシャクした動きを伴い、スムーズな発進を妨げることが度々あった。このあたりは、もう少し緻密な制御を望んでおこう。なお、こういったことはPHEVのみのことであり、ガソリンやディーゼルモデルでは感じられなかったことを付け加えておく。

●PHEVを選ぶ理由とは?
○乗り心地は秀逸

気になる点もあるC5エアクロスSUV PHEVだが、街に出ると少し大きさは感じるものの見晴らしはよく、すいすいと走り抜けられる。最も感銘を受けたのは乗り心地だ。ふわっとした、何とも形容できない心地よさがある。

これには「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」が大きく貢献している。ショックアブソーバーの中にセカンダリーダンパーが組み込まれている(つまり、ダンパーが2つ組み合わされている)ことにより、ショックをうまく吸収しつつ、しなやかな乗り心地を提供することが可能なのだ。さらに、この乗り心地に貢献しているのが、前述したぶ厚いシートであることは間違いない。

この乗り心地だが、実は注釈が必要だ。ドイツ車のように少し固めで路面の凹凸をきちんと乗員に伝えてくるタイプではなく、段差などを文字通りふわっと乗り越えて、そのときに若干の姿勢変化も伴うものなので、慣れるまでは違和感を持つ人もいるかもしれない。しかし、慣れてしまうと、全てに身を任せどこまでも走っていきたくなるような、そんな快適さを感じられるようになる。

街中から高速道路に走行シーンが変わっても、印象はほとんど同じだ。魔法の絨毯さながらに、快適にA地点からB地点まで乗員を運んでくれるのだ。

バッテリーとモーターを積むPHEVは重くなるのが避けられない運命で、C5エアクロスSUVでも200キロから300キロの重量増となる。特に、リアシート下にバッテリーを搭載する影響でクルマの後ろ側が重くなっているのだが、C5エアクロスSUV PHEVは全くそれを感じさせなかった。パワーにおいても過不足はない。

ただ、少々不思議だったのは、ガソリンモデルと比較して、電力分のパワーアップがほとんど感じられなかったことだ。もしかしたら、それが重量増を相殺しているのかもしれない。
○大きく差が感じられない燃費

さて、ここで燃費について触れておきたい。C5エアクロスSUV PHEVは実測値で市街地:10.3km/l、高速:18.5km/lという結果だった。

この数値は電力を使い果たし、ハイブリッドモードで走行して計測したものだ。ちなみに、走り出した時はフル充電の状態だったのだが、実際にエンジンがかかるまでの走行距離は41.7キロであった。

今回はスケジュールの都合上、郊外路の計測はできなかったが、WLTCモード燃費と比較すると高速はかなり近く、市街地では若干悪化している程度なので、郊外路はWLTCモード燃費を参考にしていただければと思う。ちなみに市街地燃費が悪化した理由は、事故渋滞に遭遇し、30分以上もストップ&ゴーの繰り返してしまったからで、これが下限値と考えてもらえればと思う。

さて、この数値をどう評価するかだが、ガソリンと比較するとわずかに伸びているものの、ディーゼルとはそれほど大きな差はない。約41キロは電力で走行できるが、それ以外には、あまりメリットが感じられないようだ。

充電に関しては単相200V、6kWまでの普通充電に対応。所要時間は3kWで約5時間、6kWではその半分である。

何度も述べてきたように、現在、C5エアクロスSUVにはガソリン、ディーゼル、そしてこのPHEVの3つのパワートレインが存在する。長距離を走ることが多い方にはディーゼルがお勧めだが、ディーゼルならではの振動や音が気になる人や、それほど長距離は走らないという人にはガソリンがいいだろう。

では、PHEVは誰向けのクルマなのか。非常に悩むところなのだが、まずは充電器が身近にあり、常にクルマを満充電にしておける状況にあることが重要だ。そして、日常では街中のお買い物程度で、休日にたまに遠出するという使用状況の人ということになるだろうか。つまり、日常では常にモーターで走行し、遠出の時には最初はモーターで、その後はハイブリッドで走るというシーンが多い方にはお勧めだろう。

価格差を見ると、PHEVの車両本体価格は同じ装備レベルのディーゼルバージョンからプラス74万円となる550万円だ。PHEVのみに適用される自動車税減税と、クリーンエネルギー自動車補助金の恩恵で、実質価格差は50万円程度にまで圧縮できる。環境省事業や自治体による助成金を含めれば価格差はより縮まる。

惜しいのは、PHEVを選んでも走りにおいて大きな差異が感じられないところだ。例えばプジョー「3008」のように、PHEVを選択すると4WDになるなどの違いがあれば比べがいがあるのだが、C5エアクロスSUV PHEVはFFなので、ほかのパワートレインと変わらない。そのうえでこの価格差を踏まえると、果たしてどういったユーザーが実際に購入するのか、興味のあるところである。

内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら(内田俊一)