2021年07月10日 09:51 弁護士ドットコム
コンビニ加盟店の元従業員が起こした労働裁判で、雇用関係がないフランチャイズ(FC)本部が解決金(金額は非公表)を払うなどの内容でこのほど和解が成立した。
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判決ではないものの、コンビニに限らず、FC業界の働き方に影響を与えそうな画期的な事例といえそうだ。裁判の経緯などから、その射程を探ってみたい。(編集部・園田昌也)
訴えたのは、ローソン加盟店で正社員として働いていた元スタッフの男性(30代)だ。
男性側代理人の喜田崇之弁護士によると、男性は2007年ごろから、大阪府のローソン加盟店でアルバイトとして勤務を始め、2010年ごろに正社員になった。
しかし、オーナーのパワハラが激化。店の経営難もあって、2012年4月から退職する2014年6月までは無給だったという。実家暮らしであったことと、売れ残りの廃棄を食べられたことで、どうにか生活していたようだ。
労働時間の記録はなかったが、のちにローソンが開示したレジの担当記録から、少なくとも月平均284時間の労働が判明した。残業時間に換算すると月110時間ほどで、過労死ラインを超えている。もちろん、仕事はレジだけではないから、実際の労働時間はさらに長い。
オーナーが自己破産しており、本部も含めた形で未払い残業代など約1300万円を求めて、2015年9月に提訴した。
男性を雇っていたのは加盟店だ。直接の雇用関係にないFC本部の責任を問えるのだろうか。
実は20年前にファミリーマートを被告としたこんな裁判例がある。モップ掃除のあとの濡れた床で客が足をすべらせ、転んでケガをしたという事例だ。
判決では、乾拭きなどをするのは加盟店だとしつつ、従業員に対する安全指導、監督義務違反を認め、ファミマ本部に115万円の支払いを命じている(大阪高裁平成13年7月31日判決)。
加盟店側に非があったとしても、本部側が責任を負うことはあるのだ。
この裁判例も踏まえ、男性側は、男性が店舗を巡回する本部社員に長時間労働や休みがないことなどを相談していたことに着目した。
男性が働いていた店舗の1つ、ローソンストア100のFC契約書には、オーナーは本部の指導のもと、労働基準法や労働安全衛生法などを遵守するよう書かれていた。しかし、男性の相談を受けた本部がオーナーを指導することはなかった。
そこで、男性側は、本部がオーナーや男性に対して、必要な措置を講じなかったという法的構成をとったわけだ。
事件は今年6月10日に和解が成立。和解条項には、ローソンが加盟店従業員の労働環境について、指導に努める旨も盛り込まれた。
「被告(編注:ローソン)は、労働基準法、最低賃金法及び労働安全衛生法をはじめとする労働関連法規等の遵守等に関して、被告の加盟店に対する適切かつ相当な教育を行い、加盟店従業員が働く喜びを感じる職場環境の整備について不断の努力を行い、また、加盟店従業員が過重労働を強いられたり、適切な賃金や休日休暇を取得する権利を侵害されるなどしないよう注意を払い、必要に応じてオーナーに対する指導を行う旨規定する『ローソン倫理綱領』に従って、加盟店に対しての指導に努めるものとする」
担当した喜田弁護士は、「ローソンが、直接の雇用関係のない加盟店従業員の長時間労働・不払い賃金等の問題について、責任をもって解決していく姿勢を鮮明に表したものであり、大変重要」と指摘する。
セブンイレブンやファミリーマートのオーナーに確認したところ、この2つのチェーンの契約書では、ローソンストア100のように、契約書内で労基法などの遵守やそれについての本部の指導提供などへの言及はないようだ。
ただし、今回の和解は各チェーンにとって十分注意を払うべきものと言えるだろう。
喜田弁護士は、2016年に和解が成立した大阪府内のファミマ加盟店で働いていた男性アルバイト(当時62歳)の過労死事件も担当している。この事件では、労災が認定されたのち、加盟店オーナーと本部を相手取って、裁判も起こされた。
本部は当初、責任を否定していたが、報道によると加盟店と連帯して解決金計4300万円を支払うことで和解している。和解理由の1つには、加盟店から本部に過労死ラインを大幅に上回る男性の労働時間が報告されていたことがあるという。
今回のケースもそうだが、直接の雇用関係にはないとはいえ、加盟店の違法行為や生命を脅かす働き方に見て見ぬフリをしていると、本部側にも大きなリスクがあるということだろう。
コンビニ加盟店の中には、経営難から従業員を搾取するような店舗もある。オーナーを訴え、勝訴したところで回収の見込みは薄い。だが、本部の責任が認められるのなら、労働者にとっては救済の可能性が増える。
「オーナーに資力がなく、泣き寝入りするしかないと考える労働者もいるかもしれないが、そうではないですよ、と伝えたい。本部側も放置していたら、リスクがあるのだと意識してほしいですね」(喜田弁護士)
今後、コンビニ本部は加盟店スタッフの労働環境にもより注意を払っていくことが求められそうだ。その実現のためには、不正に手を染めなくても、加盟店が営業継続できるような仕組みも必要となるだろう。