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カレー沢薫が語る“モテ”の弊害 「“不都合なモテ”を許容できないなら、モテない方がマシ」

2021年07月10日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先日、“モテ”をテーマにした『モテるかもしれない。』を上梓した作家・カレー沢薫氏。ZOZOTOWNを創設した実業家・前澤友作氏やジブリ映画に登場する男子、インド映画が生んだスーパースター・バーフバリなど、“モテる”人たちはどのようにモテているのかを独自の視点から鋭く分析し、話題となった。


 プライベートでは20代後半で5年付き合ったパートナーと結婚。ADHDの治療を赤裸々に綴った『なおりはしないがましになる』も大きな反響を呼び、作中で描かれる独特な夫婦関係は多くの読者を驚かせた。“モテ”と結婚には明確な違いがあると常日頃から主張するカレー沢氏に、恋愛や結婚観について詳しく話を訊いた。(ふじこ)


――本書を読んで前澤友作さんのモテについて書かれた章が、特に面白く印象に残っているのですが、カレー沢さんは前澤さんと付き合えることになったら付き合いますか?


カレー沢薫(以下、カレー沢):私ではちょっと釣り合わないかなあと思います。何だかんだ凄い人だし、頭もいいし、収入も国内トップクラスなので……。付き合ってもどう接したらいいかわからないですし、彼と付き合える自信もないし、卑屈になって病んでいくと思います。一緒にいたら「私の方が気に入られなきゃいけない」とどうしても考えてしまうと思うんですよね。元カノでもキツイと思ったものが私にどうにかできるとは思えないので、お付き合いはできないと思います。


(参考:【画像】「ちょっと釣り合わない」と思わせる前澤友作氏のお金持ちエピソード


――ジブリ男子の章では、『天空の城ラピュタ』の悪役にあたるムスカが一番好きだと書かれていますが、彼のどんなところが好きですか?


カレー沢:実は『ラピュタ』をきちんと観たことがなく、人から聞いた情報しかないんですが、立場は上の人だけどなんかうまくいかなくて、最後かわいそうな感じで物語が終わってしまう……ということは知っていて。性質的に私の好きな感じなのですが、でも最後が悲しい感じで終わるならちょっと観られないな、ということで映画はチェックできていないんです。“ハイスペ男子”がうまくいかないところに萌えを感じるんですよね。生まれが良くて頭もよくて地位もあるのに、うまくいかない。そういう俺様男子がヒロインに翻弄されるという図が好きなんです。世間でもこういう設定が人気ですけど、俺様男子が下剋上されるところが見たいと常に思っています。余裕がなくなるところが見たいんですよね。


――なるほど。そうした”カッコわるさ”というか、不意に表に出てしまう人間味も、場合によっては“モテ”につながるということですね。カレー沢さんにとって「モテる」とはどういうことだと思いますか?


カレー沢:まずは人間的に好かれるということだと思います。“モテ”というのは種類がたくさんあり、異性に好かれる人もいれば同性に好かれる人もいるし、必ずしも本人が望まない、どうしようもない人ばかりにモテてしまう場合もある。むやみにモテたいと言っても「どうモテたいのか」が明確でなければ、意図しないモテに振り回されることになると思います。そうした“不都合なモテ”を許容できないなら、モテない方がマシだと私は思っています。


ーー結婚できるかどうかと、モテるかどうかは違うと日頃からよく発言されていらっしゃいますね。


カレー沢:私は「結婚してるのに非モテを気取るな」といまだに言われます。正真正銘“モテない”方からすると、「結婚しているだけいいじゃないか」というご意見もわかるんですけど、結婚=モテは違うということはこれからも主張していきたいです。私の考えでは、結婚にその人の能力はそんなに関係なく、例えば「誰でもいいから結婚したい」と思っている人同士が出会ってしまえば結婚すると思いますし……。既婚者というだけでアイデンティティを否定されるのは納得がいかないですね。


――カレー沢さんから見て、旦那さんはモテる方ですか?


カレー沢:人間的には好かれる人なんじゃないかなと思います。頼りにされることが多いというか。職場でも何かあったら相談されるタイプですね。モテる人って男女問わず他の人を惹きつける魅力を持ってる人だなというのは感じます。人から自然と声がかかって、自分ひとりの時間がなかなか持てなかったり、自分以外のことで悩まないといけないことも多かったり。


ーー確かにモテる人はいつも忙しくしているイメージがあります。


カレー沢:モテないと基本的に人から声をかけられないし、頼られることもないので、100パーセント自分のために時間を使えるんです。負け惜しみに聞こえるかもしれないけれど、その意味で私はモテなくてよかったなと思います。もっというと、モテるということは他人と関わるということであって、例えば、告白されたら否応なくその人のことを考えないといけないですよね。断るにしてもどう断るか悩まないといけないし、人間関係がこじれる場合もありますし。モテないとそういった煩わしさから一切解放されるので楽だなと。


ーーモテも楽じゃないですね……。


カレー沢:そもそもモテない人ってひとりで居ることが好きな人が多いと思うんです。他人に関心がなければモテないのは当たり前なので、ないものねだりだなって。実際にひとりの特定の人が好きなモテない人が、急にモテたとしても困ると思うんですよね。モテを持て余すというか。


――本に登場した男性たちも、みんな人が好きという方ばかりでした。


カレー沢:本当にそこに尽きると思います。顔が良くてハイスペックであれば人から興味を持たれると思うんですけど、そういったタイプでない人がモテたいのであれば、まず他人に興味を持つところからですよね。人は自分に興味を持ってくれない人のことを好きにならない。逆に好きと言われたら、眼中になかった人でも急に気になる、みたいになることもありますし。「あ、この人自分に興味持ってくれてるんだな」って思わせるのがうまい人はモテると思います。前澤さんなどもそうなんですけど、注目を集めるのがとにかくうまいですよね。アンチも含めて「こいつのことを調べてやろう」と思わせるというか。


ーーどうでもいいと思っていたら、調べたりしないですもんね。ちなみに、旦那さんはどんな女性が好みでカレー沢さんと一緒になったのでしょうか。


カレー沢:それが本当に謎なんです。そういうことを普段全然言わないんですよね。ひとつだけ覚えてるのが、付き合いたての頃にどういう女性が好きかを聞いたら「強いて言えば山田まりやが好き」と。でも、「その質問、困るな」という感じでした。何を意図して聞いているかわからないから恐さを感じているというか。山田まりやが好きと言われても、私は山田まりやにはなれないですし、山田さんみたいな人が好きなんだって勝手にイラッとされても困ると思いますし……この手の質問はカップルや夫婦には不要だなと悟りました。向こうからしても私に「土方歳三がめっちゃ好きなんだよね」って言われても困りますよね(笑)。


――確かに無駄な諍いを招いてしまう質問ですね。今お名前が出た土方歳三は、実在した新撰組の土方というより、「Fate/Grand Order」のキャラクターだと思いますが、“モテ”の王道をいくキャラクターだと思いますが、本書には収録されていないですね。


カレー沢:いずれ土方さんだけで一冊出したいです。需要があるかどうかわからないですが(笑)。


ーー土方さんには、モテエピソードがたくさんありそうです。


カレー沢:自分はカッコいいと思ってなくても、ある人を周りがカッコいいって騒いでたらカッコよく見えてくることってあると思うんですけど、創作に出てくる土方さんはカッコわるいことがほぼないんです。大体カッコよく描かれていて、それを見た人が新たにカッコいい土方さんを描いて、カッコいいが連鎖していく。土方さんは「モテそう」というイメージがかなり先行している人なんですけど、そういうイメージはモテには大事なのかなと思います。人はCMの宣伝文句より、口コミを信用しますよね。モテもそれと同じで、自分で「モテます」と主張するより、他人に言ってもらうことで意味が生まれてくるのかなと。


――先ほどハイスペ男子が余裕がなくなるところがお好きだと仰ってましたが、土方さんはずっとカッコいいのにそれでもお好きなんですね。


カレー沢:だから自分にとって特別なのかなと思います。他のキャラクターは隙がある方が好きになるんですけど、土方さんに対しては余裕をなくしてほしいとか全然思わないんですよね。ただ純粋にカッコいいところをずっと見てたいというか。好きすぎて直視できない領域まできています(笑)。


――(笑)。カレー沢さんはマンガ家としてデビューした後に、文章のお仕事も多く手掛けていますが、どんなきっかけで執筆をされるようになったのですか?


カレー沢:雑誌にマンガが載るときに柱のコメントを書いたり、並行してブログもやっていました。マンガの担当さんがそれらを読んでくれて「文章も面白いからコラムの仕事もどうですか?」と提案してもらったのがきっかけです。デビューした講談社から同じ媒体でコラムの連載のお仕事をいただいて、後にそれがまとまって『負ける技術』として本になりました。


ーー文章を書くようになって変わったことはありますか?


カレー沢:文章の仕事をするようになってから、自分が全く知らない分野やコンテンツについて書いてほしいと言われることが増えました。最初は全く調べずに正直に知らないこととして書いたりもしてたんですけど、最近は書く前にある程度調べるようにしています。調べてみて興味が湧くこともありますし、知らないことを知るいいきっかけになっているなと思います。私は元々興味の幅が狭くて、社会のことをまるで知らないというタイプだったんですけど、コラムの仕事をするようになって今世の中で何が起きているのかをきちんと追いかけるようになりました。『ひとりでしにたい』は社会問題について調べていく中で生まれた作品です。


ーーでは文章のお仕事が、新しい漫画作品にもつながっているんですね。


カレー沢:はい。ツイッターだけで話題になるニュースもあったりして、それがコラムのネタになったりもするので、「ツイッターも仕事のうち」というのは決して嘘じゃないです!


――ありがとうございます。最後にこっそり、カレー沢さんが最近いちばん課金したものを教えてください。


カレー沢:『ウマ娘』ですね。「このキャラクターが欲しい」とかならそんなに課金しなくても手に入るんですけど、レースをするゲームなので、上を目指したかったらちょっとやそっとの課金じゃ足りないですね。てっぺんを取りたいなら四桁万円必要な世界だと思います……。「勝ちたいんや!」になるとお金がいくらあっても足りない。それができるのって日本だと(前澤)友作くらいだと思うので、友作がてっぺんを目指したらいいと思います(笑)。


(取材・文=ふじこ)