トップへ

時代を超えたシリーズ最新作『ときめきトゥナイト それから』に感じた“変わらない夢”

2021年07月10日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

「Cookie(クッキー)」7月号

 池野恋による人気少女マンガ『ときめきトゥナイト』の江藤蘭世編に登場するヒーロー・真壁俊が好きすぎて、『ときめきトゥナイト それから』になかなか手を出せずにいた筆者ですが、ついに意を決して読んでみることにしました。


 月刊雑誌「Cookie(クッキー)」の方はすでに売り切れてしまっていたので、デジタル版を購入したのですが、購入前に数ページほど試し読みすることで心の準備ができたのがありがたったです。改めて試し読み機能に感謝しました。


 というわけで今回は、真壁俊のことを考えるだけで胸が高まっていた筆者が、実際に『ときめきトゥナイト それから』を読んでみてどう思ったのかを綴っていきたいと思います。


関連:懐かしい『ときめきトゥナイト(1)』表紙など


■こじんまりとしている


 『ときめきトゥナイト それから』の第一印象は、「設定の規模が小さい」でした。


 江藤蘭世と真壁俊といえば、人間から魔界人/魔界人から人間になってみたり、魔界に変化をもたらしたり、2000年から魔界の征服をもくろむ冥王と戦うために命を犠牲にしたり、天上界にいって生命の神から新たな命を授けられたり、魔界を救ったりした救世主カップルです。シリーズを通しても、成し遂げたことのスケールが違います。


 確かにふたりの恋は成就し、結婚後は脇役に徹してはいましたが、ふたりが主役となって戻ってきたからには「なるみ編」や「愛良編」にはない壮大さが相応しいのでは、と密かに思っていました。


 それが、真壁俊はプロボクサーになって35歳で引退したのち、神谷ジムのトレーナーを務めたあと、自分探しにメキシコに向かっているのです。正直、あまりのこじんまりさに拍子抜けしてしまいました。


■そもそも真壁俊は望んでヒーローになったわけじゃない


 しかし、落ち着いて考えてみれば、真壁俊は大きな運命の渦に身を任せていただけであり、1度たりとも自分からどデカいことをしてやりたいと行動してきたことはないのです。


 魔界の王子として生を受けるも、実の父親によって人間界に追放され人間として生きてきました。魔界人として生まれ変わってからは、不吉をもたらし魔界を破滅に導くものだと言われ、双子の弟と父親に命を狙われてしまいます。どうにか誤解を解いて魔界の王子として人間界で生活し、徐々に日常を取り戻しつつあると感じられたのも束の間、今度は2000年前から魔界を狙う冥王が復活。同時に、真壁俊と江藤蘭世が2000年前に冥王と戦い命を落とした王子と王女の生まれ変わりであることが発覚し、魔界の運命はふたりの手に委ねられます。


 最終的に、冥王を滅し大業を成し遂げたふたりですが、真壁俊は一貫して「自分はこんなことをやりたくない」というスタンスを保っていました。運命に抗うように、アルバイトをしながら安アパートで自活したり、魔力を封印してボクシングを続けたり、冥王との戦いから目を逸らすようにルーマニアに行ってジャン・カルロの後継人を演じていました。自分が何者なのかすらわからないまま、魔界の王子としての責任と重圧に苦しみながらも普通の人間として生きたいと必死にもがいてきました。


 そして、それは江藤蘭世も敏感に嗅ぎとっています。真壁俊の独立心の強さをサポートしたいと思いつつも、人間界に住む魔界人として真壁俊の力を借りないわけにいかず葛藤してきました。


 結婚後は特に問題もなく過ごしているようですが、鈴世をはじめとする江藤家の秘密が世間にバレてしまったことで魔界に身を隠さなければならなくなるなど、自分の意思に反して相変わらず翻弄されていました。


 そんな真壁俊なので、彗星衝突回避後(『星のゆくえ』参照)に自分探しの旅をしつつ、魔界人である自分がどうやって人間界に貢献できるかを模索してもおかしくありません。過去の栄光を考えると、非常にこじんまりした展開に感じますが、彼の人間性を考えると当然の流れなのでしょう。


 まだ第一話しか読めていないので今後の展開はわかりませんが、真壁俊がメキシコに行っていることから考えて、『ときめきトゥナイト それから』は、運命に抗いたくとも受け入れて流されるしかなかった真壁俊がやっと自分らしく生きようと歩き出した「第二の人生ストーリー」と、そんな夫を全面サポートできることに喜びを感じる蘭世の物語なのではないでしょうか。


■愛良と開陸のその後も追えそう


 真壁俊以外に注目したいのは、愛良と開陸のその後の展開です。家庭の中心である母親が主役ということは、必然的に子どもたちや両親にもスポットライトが当たり、登場回数も増えます。


 蘭世の娘である愛良は第3部の主役でしたが、彼女の物語はあまりスッキリしない終わり方を迎え、番外編の『星のゆくえ』で、憧れの人が実は時空を超えてやってきた旧友だったというド級展開を見せました。諸々の設定に無理があったため、話の回収をしてほしいと思うファンも少なくないでしょう。『ときめきトゥナイト それから』は、そんな2人のストーリーを追うこともできそうなのです。


 それだけでなく、息子 卓とココのロマンスや、鈴世となるみ家族のその後も読むことができるかもしれません。なんなら神谷夢々とレオンのロマンス展開も。


■昭和臭の漂う平成にタイムスリップしたかったら、ぜひ


 時代設定は、愛良が開陸と共に彗星を撃退したあと。つまり、単行本が発行された2000年くらいだと予想されます。江藤蘭世のファッションは、80年代が意識され、髪型も当時はやったふわふわソバージュ。慣れ親しんだ物語の人々の設定はそのままキープされ、今のようなテックまみれの世界に無理矢理調節させられている体でもありません。若かりし頃に楽しんだ『ときめきトゥナイト』の世界観から『それから』にすんなり移行することができました。


 心配していた真壁俊への恋心に悩まされることなく、ソフトランディングな感じで物語を楽しめましたし、昭和と平成初期のノスタルジックも感じられました。かといって、懐かしさ一辺倒ではなく、すでに不穏な空気も流れ始めているので、これから物語も盛り上がっていくこと間違いなし。どちらにしても、ずっと追い続けます。


 「Cookie」は奇数月の26日頃発売。2話目が読めるのは今月下旬なので、未読の方はデジタル版で読んでおいてみては。


 とりあえず筆者は、いまだにラブラブ熱々な蘭世と俊をみながらキュンキュン中。同時に自分の生活と比較して色々考えるところがある次第。やっぱり少女漫画には夢が詰まってますね。


■書籍情報
『ときめきトゥナイト それから』
定価:700円(税込/電子版)
出版社:集英社