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不倫の代償はこんなに重い……証拠集め、弁護士、慰謝料までリアルに描く『サレタガワのブルー』

2021年07月06日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『サレタガワのブルー』

 某俳優の関係スクープによって、再び「不倫」が話題にのぼることが増えている。今回は「された側」が3児の母で、その不倫期間が第3子妊娠中だったことで育児・出産の大変さを知る層からの怒りが爆発している点が特徴だ。


参考:『来世ではちゃんとします』多様な性を肯定する作風


 ところで、不倫がバレたら「した側」はどんな代償を払わなければならないのか? 「された側」にはどんな防衛・報復手段があるのだろうか? そういうことをリアルに描いたダブル不倫もの縦スクロールマンガが、セモトちか『サレタガワのブルー』だ。


 集英社の女性向けマンガアプリ「マンガMee」で独占配信中の作品で、同アプリ内で長くランキング1位をキープしている人気作だ。縦スクロールだからできる長い「間」の取り方を活かし、登場人物の疑惑の高まりや緊迫感などを巧みに描いている。本作を読むと、不倫の大きなリスクやコスト……そのおそろしさが疑似体験できる。


■あらすじ――ダブル不倫の「された側」の逆襲を描く


 『サレタガワのブルー』は、新婚夫婦の夫が、妻がやけに休日出勤や深夜残業などが多いことから不倫を疑い、確信に至ると愛も醒め、弁護士に相談して離婚と慰謝料獲得に向けて行動していく……というのがあらすじだ。


 なんと妻は同じ会社の妻子持ちと不倫しており、途中からはそちらの「された側」女性が未就学児を抱えた専業主婦からいかにして独り立ちするか、というストーリーも膨らんでいく。


■読みどころ――浮気の証拠の集め方、弁護士の使い方、慰謝料相場がわかる


 本作の読みどころは、された側が「もう離婚したい。でもただ別れるのでは気が済まない」と思った場合に、どんな証拠を揃えればよいのか、いったい慰謝料の相場はいくらなのかといった法律に関わる部分が、登場する弁護士を通じて生々しくも自然と描かれていくことだ。


 また、不倫が会社側にバレた場合のリスクも描く。しかし、不倫をした女性に比べて、同じく不倫をした仕事ができる男に対しての処遇が甘いのが、こう、リアルではあるものの、日本社会の醜悪さを感じざるをえなくて吐き気がしますね……。


 それから作中で作者自身が「実際はこんなにうまくいかない」と何度も断っているのだが、子持ち専業主婦が不倫されて離婚を決意した場合、この作品ではすんなり就職も保活も成就し、育児に積極的な次のパートナー候補もすぐに見つかるものの、現実ではムリゲーが待っている。


 保育園に預けるには働いていないといけないので就職活動をしなければならず、しかし就活するにも面接に子どもを連れていける会社は限られており、民間の委託サービスはお金にまったく余裕のない家庭が何度も利用するのは難しい(今はベビーシッターも幼保同様、無償化の対象になったから多少状況は変わっただろうが)。


 しかも就職が決まっても保活がうまくいくとは限らない。保育園が決まらないと仕事をやめざるをえなくなり、収入が途絶える。


 さらに、たとえ元妻に対する慰謝料や養育費の支払いが裁判所から命じられてもバックれる元夫が絶えない(作中では2020年2月更新分時点でまだ離婚は成立していないが)。


■どうして『失楽園』は炎上しなかったのか?


 そんなわけで、『サレタガワのブルー』を読んでいると、妻子持ち男がする不倫に対して怒りが湧き、嫌悪感が増してくる。


 逆に90年代後半に話題になった渡辺淳一の小説『失楽園』は不倫する側の話なのになぜ社会的に許容されていたのかが疑問になってくる。あれは不倫する男が妻子ありと言っても子どもがすでに社会人になって結婚している年齢だから「子育て中の母親の苦労を知れ!!!」的な怒りが起こらなかったのだろうか。あるいは読者が中高年男性だったから気にもされなかったのか……。


 ともあれこうして不倫ものを2作並べると、時代の変化を感じることができる。


 ここ20年余りで不倫に対する世間の視線が厳しくなり、社会的な制裁が強まっているのは、「された側」の苦痛に対する配慮、同情心の高まりがあるのだろう。


 もし既婚者であれば、もし万が一されたときの対策を学ぶのに、あるいは不倫している人であればバレたときに何が起こるのかのシミュレーションとして最適な一作だ。(飯田一史)