富山市企画管理部情報統計課の小林氏によると、この時に配備されたのは「Power Macintosh 7100/80AV」だという。これは1995年に発売された、CPUにPowerPC 601-80MHzを搭載したPower Macintoshシリーズの第一世代で、拡張性(NuBusスロットx3)も備えたデスクトップモデルだ。「AV」の型番が示すように、Sビデオとコンポジットビデオ入力端子も備えているのが特徴だ。
おそらく、このビデオ入力の存在が、Power Macintosh 7100が選択された理由だろう。というのは、当時Appleが提供していた(そしておそらく仕様上の要求項目だった)ビデオ会議システム「QuickTime Conferencing」のキットに含まれるカメラが、ビデオ端子接続だったのだ。山田村ではこのQuickTime Conferencingを使ってテレビ電話が(Mac同士のみではあるが)可能となり、家庭や福祉施設で利用されていたようだ。
とはいえ、ここまでくれば大まかな命名パターンは予想できる。「FM」の「M」はMacではないかと推測できるし、「A71」の「71」は「7100」からだろう。「A」も「AV」から取った可能性が高い。「F」の謎は残ってしまうが、とにかく結論は「山田村仕様の、QuickTime Conferencing同梱仕様のPower Macintosh 7100/80AVセット」が「FM-A71」という名称を与えられていた、ということだ。FMといえば富士通のFMシリーズを連想してしまうが、本件に関しては、富士通は無関係だったようだ。
山田村では、その後も希望者に対してパソコンの無償交換(貸与)を続けていたようなので、おそらく最初期に貸与された「FM-A71」はもやは1台も残っていないだろう。「お宝」と言えばこれ以上ないマニアックなお宝だが、ハードウェア的にはPower Macintosh 7100そのものであり、おそらく専用のネームバッジなどもなかったと推測されるため、旧山田村から「これが当時のパソコンです!」と出てこない限りは識別も難しい。まさに「幻のMac」と言える存在だったようだ。
記事公開後、いくつかご指摘をいただきましたが、Power Macintosh 7100/80AVのメモリ搭載量は16「MB」(最大136「MB」)です。GBではありません。お詫びして訂正いたします。
そして謎の「FM」の型番ですが、情報元であった林様より「FaceMateの略だったようだ」とのご指摘をいただきました。調べてみると、NTTから発売されていたテレビ会議システム「フェイスメイト(FaceMate)」シリーズの一環として企画・販売されたものだったようです。FaceMateシリーズはCODECだけを行う製品からこうしたPCを利用したものまで、さまざまな製品を含むシリーズでしたが、NTTとAppleが共同でビデオ会議システムを販売することになり、その際にPower Macintosh 7100+QuickTime Conferencingキットのセットが「FM-A71」と命名された、というのが名前の由来だったようです。(海老原昭)