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八街児童5人死傷事故、「危険運転致死傷罪」が成立するポイントは?

2021年07月02日 10:01  弁護士ドットコム

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子どもたちが巻き込まれるやりきれない事故が再び起きてしまった。千葉県八街市で6月28日、集団下校していた小学生の列にトラックが突っ込み、児童2人が亡くなった。


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運転していたトラック運転手は、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕された。報道によると、運転手は飲酒を認める供述をしていることもあり、県警は危険運転致死傷容疑も視野に捜査を進めるという。



はたして危険運転致死傷罪はどのような場合に適用されるのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。



●運転手がどれだけアルコールを摂取したのか?

危険運転致死傷罪は、自動車運転死傷行為等処罰法という法律の第2条と第3条に規定されています。



第2条は、8つの危険運転行為を規定し、それらの行為によって人を負傷させたら15年以下の懲役、人を死亡させたら1年以上の有期懲役となります。



この8つの中にアルコールに関する規定もあります。第2条1号は「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」を危険運転行為としています。



——「正常な運転が困難な状態」というのは?



「正常な運転が困難な状態」とは、アルコールの酔いの影響により、現実に、前をしっかり見て運転することやハンドル、ブレーキの操作が難しい状態となっていることです。



そして、同法2条1号の危険運転致死傷罪が成立するためには、運転者に自己が「正常な運転が困難な状態」であることの認識(故意)が必要です。運転者に正常な運転が困難な状態であることの認識があってはじめて成立するのです。



ただ、運転者のこうした認識を刑事裁判において検察官が立証するのは困難な場合が想定され、処罰してしかるべき危険な飲酒運転行為を処罰できなくなる可能性があります。



そこで、同法3条1項は、「アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」での死傷事故についても、適用の対象としました。



これにより人を負傷させたら12年以下の懲役、人を死亡させたら15年以下の懲役となります。



——「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは?



これは、自動車を運転するのに必要な注意力、判断能力または操作能力が相当程度減退している状態、あるいは、そのような状態になり得る具体的なおそれのある状態のことをいいます。



アルコールの場合、一般に、道路交通法の酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを身体に保有している状態にあれば、「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」に該当するとされています。



——運転者の認識は問われないのでしょうか。



運転者の認識としても、端的に言って酒気帯び運転罪に該当する程度の量のアルコールを摂取して運転するという認識があれば、故意が認められます。



先ほども述べましたが、第2条1号の危険運転致死傷罪は、運転者に正常な運転が困難な状態であることの認識があってはじめて成立し、検察官がこのことを立証できなければ有罪となりません。



一方、第3条1項の危険運転致死傷罪は運転手に酒気帯び運転罪に該当する程度のアルコールを飲んで運転するという認識があれば成立します。



第3条の危険運転致死傷罪は、第2条1号の危険運転致死傷罪と比較すると、運転手が自らの行為の具体的危険性を認識していない点で非難の程度が低いことから、法定刑が軽くなっています。



●今回の事故は?

——今回の事故では、どう考えられますか。



今回の事故の運転手に危険運転致死傷罪が成立するかどうかは、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態となり死傷の結果が発生したかどうかを客観的に判断します。



それが認められなければ、危険運転致死傷罪は成立せず、過失運転致死傷罪や酒気帯び運転罪などを検討することになります。



アルコールの影響により正常な運転が困難な状態となり死傷の結果が発生したことが客観的に認められるならば、運転手に「正常な運転が困難な状態」であるとの認識があったか(立証できるか)を判断します。



運転手にそうした認識があれば(立証できる)ならば同法2条1号の危険運転致死傷罪が、運転手にそうした認識がなければ(立証できない)ならば同法3条の危険運転致死傷罪が成立します。



もっとも、同法3条の危険運転致死傷罪の場合にも酒気帯び運転罪に該当する程度の量のアルコールを摂取して運転するという程度の認識がなければなりません。



危険運転致死傷罪の罪に問うためには、運転手がどれだけアルコールを摂取したのか、事故態様はどのようなものであったのか(アルコールを摂取していなくても事故が発生していた可能性を排除する必要があります)、運転手の事故前後の言動はどのようなものであったか等の事実を綿密に立証していかなければならず、捜査のハードルは高いものと言えます。




【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/