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「RAV4」がライバル? ジープの新型「コンパス」に試乗!

2021年06月30日 11:51  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
ジープの小型SUV「コンパス」がマイナーチェンジして新型となった。最も安いグレード「SPORT」は346万円からと、価格だけを見れば人気の「RAV4」や「ハリアー」などの競合となりうるクルマだ。アメリカ生まれのコンパスは、日本生まれの人気SUVと勝負できるのか。試乗して魅力を探った。

○SUVの歴史と「コンパス」の立ち位置

コンパスの印象を語る前に、まずは「SUV」というクルマの来歴を押さえておきたい。

「SUV」という着想のはしりはジープの「チェロキー」に遡る。初代は1974年に誕生したが、日本を含め海外で人気を伸ばしたのは1984年に登場した2代目で、一時はホンダの店でも販売していた。初代に比べ車体寸法が小型化し、車幅1.7mを超える3ナンバー車ではあったが全長は4.4m以下と小型車に近く、国内でも取り回しがよかった。その人気から、2代目チェロキーは2001年まで販売が続く長寿モデルとなった。

ただ、当時はチェロキーのことを「SUV」と呼ぶことはなく、気軽に乗れる4輪駆動車の位置づけだった。SUVという言葉が意識されるのは、1997年にトヨタ自動車が「ハリアー」を発売して以降ではないだろうか。

その少し前、米国のビバリーヒルズあたりで、富裕層の人たちが英ランドローバー社の「レンジローバー」に乗ることがはやりだしていた。本格的4輪駆動車としてはランドローバーの「ディフェンダー」、実用性においては「ランドローバー」といった選択肢もあったが、レンジローバーはアルミ製車体やフルタイム式4輪駆動方式(当時のランドローバーは、2WDと4WDを用途に応じて切り替えるパートタイム式だった)の採用などにより、より日常的な利用も可能なクルマとして人気を博したのだ。

外観もディフェンダーやランドローバーに比べ武骨過ぎず、スポーツカーや高級車、あるいはストレッチリムジンが走るビバリーヒルズで独特な存在感を示した。ある英国通にいわせると、レンジローバーは英国で城を持つ貴族が領地を見回る際に乗る4輪駆動車だったという。実際、車両価格もディフェンダーやランドローバーより高かった。

そうした背景から生まれたのがハリアーだ。こちらは、米国で人気を得ていた4ドアセダンのカムリを基に開発されたクルマであり、今日でいえば「クロスオーバー車」というほうが適切かもしれない。したがって、外観はオフロード車のようでもあるが、つくりは4ドアセダンが基なので日常の利用にはうってつけで、快適性も抜群によい。価格はレンジローバーが買えない人でも手が出しやすい設定だった。しかも、多くの人は過酷な未舗装路を走ることもないので、気分だけを味わうのに好都合だったのだ。

改めて「SUV」(Sport Utility Vehicle)という言葉の意味を確認すると、日本語では「スポーツ多目的車」となる。「スポーツ」には「運動競技」だけでなく「遊戯」の意味もある。「ユーティリティ」は「役に立つ」という意味だ。すなわち、SUVは休暇などの際に遊びに出かけるのに役立つクルマと置づけられる。なので、つくりとしては未舗装路へ入り込むことも想定し、最低地上高が高く、4輪駆動であればなお安心になる。

トヨタのSUVとしては、ハリアーより先に「RAV4」が世に出ている。1994年のことだ。こちらはもとから4輪駆動を前提としていた。それでも「ランドクルーザー」ほど本格的ではなく、日常的な実用性を備えながら悪路もそれなりに走破できて、雪道なども安心して運転できる、まさにSUVというべき車種だ。RAV4は「カローラ」や「セリカ」の部品を利用しながら、それでも床は専用設計で、4輪駆動車としての性能を確保した。車両重量が1,200キロ以下という軽さは、ハッチバック車のような軽快な運転感覚ももたらした。

都市部を離れると未舗装部分のある米国で、RAV4は人気を博した。米国では乗用車販売で16年にわたり1位の座を守り続けていたカムリを抜き、RAV4が1位を獲得した。

ジープのチェロキーに始まり、ハリアーやRAV4によって普遍的となったSUVは、いまや世界の新車販売を席捲するまでになった。
○アメリカ産SUVの魅力とは

チェロキーよりひと回り小さいジープのSUVが、今回試乗した「コンパス」だ。同じくジープの小型車である「レネゲード」との違いとして、コンパスはよりクロスオーバー的なクルマだといえる。レネゲードは4輪駆動の老舗であるジープ本来の機能を優先した小型車だ。

したがってコンパスは、より日常的な利用での魅力を特徴としている。2017年にモデルチェンジをして2代目となったが、今回はマイナーチェンジを経た新型に試乗した。

エンジンは排気量2.4Lの直列4気筒ガソリンのみ。試乗したのは4輪駆動の「LIMITED」であったため、変速機は9速オートマチックとなる。ほかに前輪駆動(FWD)の「SPORT」と「LONGITUDE」があり、こちらは6速オートマチックとの組み合わせだ。

マイナーチェンジの改良点は、内外装と安全・快適装備の充実である。外観ではヘッドライトがLEDとなった。従来のキセノンに比べ明るさは約2倍とのことだ。デイタイムランニングライトも装備する。

大きな変更を受けたのが内装だ。ダッシュボードからセンターコンソール、またドアパネルまで大部分を刷新した。ダッシュボード上には10.1インチ(廉価なスポーツグレードは8.4インチ)の大型画面を装備。純正のカーナビゲーションはなく、スマートフォンを接続して「Apple CarPlay」や「Android Auto」を使う。米国は詳細な地図がなくても目的地に到着しやすいよう道路が整備されているので、カーナビへの依存度が低い土地柄だ。キャデラックなども同様の考え方で、純正のナビは用意していない。米国人にとってはこの方が合理的なのだろう。スマホであれば、地図も随時更新されるので便利だ。

装備面では前面衝突警報、歩行者・自転車検知機能付き衝突軽減ブレーキ、ブラインドスポットモニターなどが付いている。また、従来の車線逸脱警報に加え、ハンドルを自動補正するアクティブ・レーン・マネージメントをすべての車種で装備する。

運転はいたって快適だった。視界もよく、車両感覚もつかみやすい。都市部でも扱いやすいはずだ。室内の静粛性に優れ、乗用車としての機能は高い。ややタイヤ騒音が大きかったが、米国ではオールシーズン用のタイヤ装着が基本となるので、やむをえないところだ。それでも、うるさいというほどの騒音ではなく、逆に室内が静かなためにタイヤの音が目立つ程度だ。

2.4Lのガソリンエンジンはターボチャージャーによる過給のない自然吸気で、アクセル操作にしたがった的確な加速をもたらす。2.4Lという排気量の余裕もあって不足はない。アクセル全開を試したら高回転まで滑らかに回り切り、小型ハッチバック車を運転しているかのように元気あふれる運転感覚をもたらした。壮快で快適で、いいSUVだなぁと思わせる。

一方、車線維持機能はやや強く効きすぎる印象で気になった。ただ、これもアメリカ車らしいところかもしれない。というのも、米国のフリーウェイにはガードレールのないところがあり、そこを飛び出すと側溝などへ落ちる危険性があるからだ。プロゴルファーのタイガー・ウッズが交通事故を起こした際も、速度の出し過ぎといわれてはいるものの、クルマは道路を大きくそれて崖下に落ちていた。

コンパスの乗り味には、やや粗いところもある。だが、それもアメリカ車らしい特徴だと私は思う。米国は国土がとにかく広い。細かなことにはこだわらず、大自然を味わうことこそ米国の魅力だ。米国の地域性や生活実感を感じ取れるところが、あえて米国車を選ぶ大きな理由だろう。

後席の快適性は、座席の落ち着きを含め優れていた。米国のフリーウェイを何マイルも走るとしても、これなら気持ちよく過ごせるはずだ。

荷室は十分な広さがある。試乗車の荷室は床にゴム製のマットが敷かれ、濡れたり汚れたりした物でも気兼ねなく載せられるようになっていた。まさに、遊びに出かけても存分に使える実用性だと思う。

車両価格はFWDの「SPORT」が346万円、同「LONGITUDE」が385万円、4WDの「LIMITED」が435万円。比較としてRAV4の価格を確認しておくと、ガソリン車は274.3万円~353.9万円、ハイブリッド車(HV)は334.3万円~402.9万円となっている。コンパスにHVはないが、RAV4のHV(4WD)が359.6万円or402.9万円なので、価格的には競合となりそうだ。ハリアーはガソリン車が299万円~443万円で、こちらも競合といえる。FCAジャパンによると、コンパスの価格設定ではRAV4とハリアーを意識したという。

RAV4とハリアーの商品性は高い。中でもRAV4は、米国市場で販売台数1位を獲得するほどの人気だ。ただ、ジープのコンパクトSUVとしてコンパスの魅力に不足はない。広大な米国のおおらかさを暮らしに取り入れたいなら、国産SUVではなくコンパスを選んでみるのも悪くない選択だと思う。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)