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【レシピ挑戦】スーンヌーン、ガパオライス、カムジャタン……「パクチーボーイ」のエスニックごはんを作ってみた

2021年06月30日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ナンプラー、コチュジャンにオイスターソースなど、買ってはみたもののなかなか減らない、というアジアの調味料が家にないだろうか。かくいう我が家にも、出番の少なさゆえにフタが固着しかけたスイートチリソースがある。そんな、買いっぱなしのアイテムをフル活用できそうな『できるだけうちにある調味料で作る! エスニックつまみとごはん』(エダジュン/主婦と生活社)をタイトル買いしてみた。


 結論からいうと、「パクチーボーイ」の異名を持つ著者が足繁く通ったタイ・ベトナム・韓国・台湾の現地料理を、日本でも入手しやすい調味料で簡単に再現させてくれる最高に便利なアジア料理の書だった。


 特筆すべきはそのレシピ数。なんと全115品もの麺・飯ものやクイックおつまみレシピを、これでもかと収録。さらに、旅の“指さし注文”を思い出させるローカル屋台料理コーナーもある。ページをめくるにつれ、空港に降り立った時に包まれるあの調味料に支配された独特の空気や、ストリートの熱気が脳裏をよぎり、しみじみと旅が恋しくなる。まるで食べるガイドブックのように旅好きをワクワクさせるニクい構成だ。


 折しも今は梅雨。ジメジメ、蒸し蒸しの気候を逆手にとれば、現地気分でエスニック料理を楽しむにはうってつけのシーズンではないか。思い立ったらいい日、旅立ち。調味料の蓋をゆるめて、4カ国に渡って6品を作ってみた。


関連:【写真】料理の完成写真


■豚肉のスーンヌーン(炭火焼き)のせライス【ベトナム】


 甘辛く味付けした豚肉の炭火焼きは、ベトナムの屋台名物。一昨年、ホーチミンで惚れこんだ一皿に、フライパンひとつであっけなく再会できた。


 味の決め手となるナンプラーとはちみつの糖分、そして片栗粉で焦げ感が見事に再現され、家にいながらにして屋台気分! 香り高いにんにくが四日市名物のトンテキを彷彿とさせるのは新たな発見だった。テリヤキが生まれたこの日本で、もっともっと広まって欲しいベトナム料理だ。


■簡単ガパオライス(バジル炒めごはん)とラープ・ムー(豚ひき肉のサラダ)【タイ】


 心飛んで、タイへ。


 「うちのはね、野菜ナシ。肉とバジルのみよ! あとカリッカリの目玉焼きね! 以上!」と、竹を割ったようにさばさばした性格の食堂のおっちゃんがチャチャっと作りそうな、簡単にもほどがあるガパオライスだ。


 肉、バジル、卵。音楽で例えるならドラムの3点セットのようなこのシンプル・イズ・ベストな具材を、ナンプラーとオイスターソースで味固め。そこに砂糖の甘みと、唐辛子のピリリがアクセントに加わり、ごはんがモリモリ進む。本場で使われるホーリーバジルの代わりにスーパーで買えるスイートバジルを使うのもポイント。


 さてと、次のフライト(脳内)まで時間があるようだ。せっかくだからラープ・ムーも食べておこう。ラープとは、肉や魚をスパイシーに味付けしたサラダで、ムーは豚肉を意味する。つまり「豚肉のサラダ」だ。


 こってりした豚肉の高カロリーさを、ミント葉とレモンが帳消しにしてくれそうな錯覚までもたらす爽やかさがヤミツキの美味しさ。バターピーナッツのカリカリも楽しく、ごはんにのっけたり、野菜ごとパンにドカッと挟むのもおすすめだ。


■カムジャタン【韓国】


 アンニョンハセヨ。お次は、食もエンタメもホットな韓国で、カムジャタンを食べてみよう。


 じゃがいもの「カムジャ」、スープの「タン」からなるカムジャタンは、通常は骨つき豚肉が入る料理だが、エダジュンバージョンでは火の通りが早い豚バラ肉スライスが使われ、煮込み時間が肉じゃがレベルに短縮されている。


 家にあった合わせ味噌とコチュジャンが、さじ加減一つで韓国料理になるのが魔法のよう。じわっと浮いた赤い油が映えて、なんとも食欲をそそる。本書のタッカンジョン(唐揚げの甘辛ソースがけ)、キンパ(のり巻き)、チヂミなどもテーブルにズラリと並べて、チャミスル(韓国のお酒)をクイクイやりたくなってしまった。


■鹹豆漿(シェントウジャン 台湾風豆乳スープ)【台湾】


 「今年こそ台湾に行こう!」と計画し始めた矢先にコロナ禍に見舞われ、あれよあれよと身動きが取れなくなってしまった。というわけで、妄想アジア旅行の最後は、宙ぶらりんになってしまった旅の食べたいものリストにメモした鹹豆漿(シェントウジャン)で締めたいと思う。台湾では朝ごはんの人気メニューだそうだ。


 黒酢などの材料をどんぶりに入れたら、温めた豆乳を上から注ぐ。すると、酢の効果で凝固反応が起き、もろもろっとした豆乳スープが出来上がる。現地では油条(揚げパン)を添えるのが定番だそうだが、エダジュンさんおすすめのガーリックトーストと共に食した。スープのふるふる感が優しく胃を目覚めさせ、良い香りのトーストがお腹を満たす。確かにこれは、毎日でも食べたい、最高のおめざセットだ。


 そろそろ現実に戻ろう。この記事に登場した料理で使ったアジアの調味料は、コチュジャン、ナンプラー、オイスターソース。ハーブ類は、パクチー、バジル、ミント。あとは、ごま油や料理酒、味噌やはちみつなど、家にあるものをプラスしたのみ。エダジュンさんが提案する「できるだけうちにある調味料でつくる」コンセプトが文字通りキッチンで功を奏し、半ば眠りかけていたスイートチリソースも、エスニックナポリタンで日の目を見た。


 若かりし頃に著者が旅の先々で大影響を受けたという本書の各国料理の数々は、きっと多くの読者の旅行欲に火をつけるだろう。ひょっとすると、その中から、第二のパクチーボーイやパクチーガールが生まれるかもしれない。優れた料理書に一度ならず人生の舵を切られてきた私は、そんな明るい予感さえも抱いた。


(文・写真=大信トモコ)