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「インクルーシブ」という考え方をスポーツに当てはめ実践 P&Gが「Create Inclusive Sports」開催

2021年06月29日 16:31  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

「インクルーシブ」という考え方をスポーツに当てはめ実践 P&Gが「Create Inclusive Sports」開催

 多様な人々が参加し、誰もが仲間外れにならならない「インクルーシブ」な社会。それをスポーツを通じて考えてみようというP&Gのイベント「Create Inclusive Sports」が、2021年6月28日に都内で開かれ、様々な属性の参加者が話し合い、誰もが楽しめる「インクルーシブなルール」のもと、サッカーを楽しみました。


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 様々な人が暮らす人間社会において、誰もが仲間外れになることなく参加できる「インクルーシブ(Inclusive=包摂された)」な仕組みは、激動する現代において適応能力を高める生存戦略の1つとしても注目されています。しかし、まだ馴染みのない言葉のため、具体的に思い描きにくい概念でもあります。


 この「インクルーシブ」という考え方をスポーツに当てはめ、そこにいる誰もが楽しめるルールを作ることにより、実践してみようというのが、都内で開催されたP&Gの「Create Inclusive Sports」というイベント。サッカー(フットサル)を題材に、様々な身体的特徴やLGBTQ+といった心的属性を持つ参加者が、互いの特性を理解した上で、それぞれが楽しめる競技を作り上げていこうという、一種の実験です。


 イベントのナビゲーターを務めるのは、P&G熱血応援リーダーの松岡修造さん。日本障がい者サッカー連盟会長で元サッカー日本代表の北澤豪さんと、プライドハウス東京理事で元プロサッカー選手の野口亜弥さんが解説役を務め、イベントの様子はインターネットを通じて配信されました。


 競技に参加するのは、AチームとBチーム、それぞれ7人ずつの計14人。LGBTQ+の方を含む男女混合で、様々な身体的特徴や背景を持つ、それぞれのメンバーは以下の通りです。


【Aチーム】
エンヒッキ・松茂良・ジアスさん(アンプティサッカー日本代表選手)
菊島宙さん(5人制サッカー選手/埼玉T.Wings)
中澤佑二さん(元サッカー日本代表)
丸山桂里奈さん(元なでしこジャパン)
マテンロウ アントニーさん(お笑いタレント)
おかずクラブ オカリナさん(お笑いコンビ)
りんごちゃん(ものまねタレント)


【Bチーム】
落合啓士さん(5人制サッカー元日本代表キャプテン/松本山雅B.F.C.監督)
下山田志帆さん(なでしこリーグ1部スフィーダ世田谷FC)
本並健治さん(元サッカー日本代表)
宮田夏実さん(デフサッカー・デフフットサル女子日本代表)
おかずクラブ ゆいPさん(お笑いコンビ)
JOYさん(タレント・モデル)
村上佳菜子さん(プロフィギュアスケーター)


 このメンバー、見事なまでにバラバラで、チームを組んで何かをするのも初めて。まずはウォーミングアップでパス回しをして、3つの障がい者サッカーを次々体験するという「インクルーシブ メドレーサッカー」に臨みました。


 最初に経験するのは、主に四肢の切断障害を持った選手がプレーする「アンプティ(Amputee)サッカー」。アンプティサッカー日本代表選手のエンヒッキ・松茂良・ジアスさん(下肢切断)と同じように、両手にクラッチ(松葉杖)を使用し足は1本だけ使うという形で実施します。


 エンヒッキさんが見本を示してくれましたが、巧みなリフティングや力強いシュート、流れるようなドリブルなど、日本代表の実力が良く分かりました。


 ゲームがスタートしてみると、クラッチの扱いに不慣れなせいか、両足を地面につけてしまう人が続出。ボールを蹴りだす際はクラッチに体を預け、1本の足を振ってキックする訳ですが、地面につけた足を「軸足」と思い込んでしまうケースが目立ちました。


 特にサッカー経験者の場合、つい浮かせている(使ってはいけない)足でボールにタッチしてしまうことも。元なでしこジャパンの丸山さんも苦戦していました。


 続いては、聴覚に障がいを持つ選手がプレーする「デフサッカー」。デフサッカー・デフフットサル日本代表の宮田さん以外は、音を聞き取れないようヘッドホン(イヤーマフ)で聴覚を遮断します。


 宮田さんがパス回しなどのアドバイスをしてくれましたが、声による意思疎通ができないため、身振り手振りやアイコンタクトでパスを出すことに。審判もホイッスルが使えないので、旗で判定をします。


 アンプティサッカーに比べ、サッカーらしいゲームとなったデフサッカー。おかずクラブの2人をはじめ、全員いきいきとプレーします。


 ゲームの途中では、中澤さんと本並さん、元日本代表同士のマッチアップも。本並さんがフィールドプレーヤーとして中澤さんと競り合うのは貴重ですね。


 メドレーの最後は、視覚に障がいのある選手がプレーする「目隠しサッカー」。ゴールキーパーを除いたフィールドプレーヤーは、視覚をさえぎる目隠しをし、転がると音の出る鈴の入ったボールを使います。


 ボールは転がると音が出るのですが、静止していると見えない分、どこにあるか分かりません。ウォーミングアップ開始時、りんごちゃんはボールの場所が分からず、周囲からスイカ割りのようにアドバイスを受けながらボールを探します。


 ゲームが始まっても、みんなが声を出してコミュニケーションを取ろうとするため、小さな鈴の音が聞き取りづらく、普段からプレーしている菊島さんと落合さん以外は、ボールの行方をなかなか追い切れません。ボールの位置が分かっても、今度はパスを出す相手の位置が分からず、うまくパスがつながりません。


 ボールを探し、そしてパスする相手を探すのは難しいようです。丸山さんは、ゲーム終了後「生まれて初めて、サッカーでボールを触らないまま終わりました」と悔しさをあらわにしていました。


 さて、これら3つのサッカーを経験したところで、ここにいる全員が同じように楽しめる「インクルーシブ」なサッカーのルール作りをしてみます。「音の鳴るボールを使う」と「チームごとに選手の位置確認用の鈴を着用する」という2つの固定ルールを設定し、Aチームは4種類の「動きのルール」から1つを、Bチームは3種類の「ゴールのルール」から1つを選び、持ち寄りました。


 Aチームは「走るのは禁止!歩いてプレーしよう」を選択。そしてBチームは「相手チームがゴールを入れたら、1分間プレーヤーを追加!」を選んで、ルールが完成しました。


 始まった当初は、転がるボールを追って小走りになってしまったオカリナさんが反則を取られる場面もありましたが、徐々にルールに慣れ、フェアな形でゲームが進みます。歩くせいでドリブルでの突破ができない分、周りの味方にパスを出すケースが増え、結果的に全員がボールに触ってパスを出す機会を得ることができました。


 A、B両チームとも1点ずつ取り合ったところでゲームは終了。「インクルーシブ」なサッカーを通じ、参加者はそれぞれの立場でゲームを楽しめたようでした。


 今回はスポーツを題材とした実験でしたが、その場にいる人が全員参加でき、仲間外れになる人がいない「インクルーシブ」な取り組みは、同じような手続きを踏めば、ほかの分野でも実現できます。それぞれの特性を理解し、尊重し合うことで、より社会は豊かになり、多くの人が恩恵を受けるようになるといえるでしょう。


取材協力:P&Gジャパン合同会社


(取材・撮影:咲村珠樹)