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「妻との喧嘩が激増」「仕事の方が楽!」それでも僕が育休を取って良かったと思う理由

2021年06月29日 10:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース

今年6月に、男性が育児休業を取得しやすくなる制度が盛り込まれた育児・介護休業法の改正法案が衆院本会議で成立しました。男性の育休取得には追い風が吹いているようにも感じられますが、まだまだ周囲には育休を経験したパパが少ないのが現状。男女ともに「夫婦での育休、うまくいくかな?」と不安に思うこともあるかもしれません。

そこで今回は、第一子の誕生にあたって2カ月の育休を取得し、著書『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!~ママの社会進出と家族の幸せのために~』を出版された前田晃平さんにインタビュー。理想通りにはいかない育休生活の現実や、育休を通して気づいた社会課題に至るまで、赤裸々に語っていただきました。

○前田晃平さん/プロフィール

1983年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部中退。認定NPO法人フローレンスでマーケティング、事業開発に従事。政府、行政に政策を提案、実現するソーシャルアクションもおこなっている。妻と娘と3人暮らしの毎日で、子育てに奮闘中。2021年5月に『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ!~ママの社会進出と家族の幸せのために~』を上梓。

「大人2人で子どもを見るなんて余裕だろう」を覆す、壮絶な育休期間

――まず、育休を取ろうと思われたきっかけを教えていただけますか?

私が勤務しているNPO法人フローレンスは、男性の育休取得率が100%の組織なので、当たり前の選択として育休を取得することになりました。ただ、今振り返ると育休の実情はあまり理解できていなくて、取得前は「なんだかんだ言って、小さい子どもを大人2人で見るんだから余裕だろう」なんて思っていたんです。

読書でもしようと本をたくさん買ってウキウキしていたくらいで……でもフタを開けてみたら、育休期間は1冊も本を読むことなんてできなかったですね(笑)。

――想定していた育休とは全く違うものだった?

育休期間は、妻の体もズタボロだし、想定していたよりもはるかに壮絶な期間でした。

例えば授乳だって、これまでメディアを通じて見たことがある神々しい授乳シーンみたいなものはうちには全くありませんでした。産後しばらくは娘もうまくおっぱいを飲めないし、妻は乳腺炎を発症していたので痛みもあるし……「授乳=修羅場」という感じだったんです。

そうした壮絶な場面を間近で見ることで、これまで男性は仕事や組織に対して責任を負う姿勢が一般的なあり方だったけれど、組織よりも家族を優先するべきなんじゃないかと考えるようになりました。

組織は、僕1人がいなくなったところで、正直いかようにでも回りますよね。だけど、この家族は自分1人がいなくなったら本当に立ち行かなくなる、そう実感しました。産後の大変な時期に、サポートする人がいないのはどう考えてもおかしいと思ったし、夫も育休を取れるなら絶対に取るべきだと感じました。

――育休は大変だけれど"取るべきものだ"と感じられたんですね。

はい、ただし大変なだけではなくて、その大変さを補って余りある幸せをもらったと思っています。僕にとって、娘の成長を間近で見られたのはすごく幸せなことでした。

今でも僕が「ただいまー」って帰ると、娘は満面の笑みで「きゃー!」って言いながらダッシュで駆け寄ってきてくれるし、こんな嬉しいことって他にないなぁって思うんです。当時からの積み上げがあるからこその今なのかなぁと思うし、妻との信頼関係も育休中に強くなったなと感じています。
夫婦喧嘩が激増した背景にあったもの

――本書では育休中の夫婦喧嘩についても赤裸々に綴っていらっしゃいますね。

育休中は家事や育児の方法を巡って妻との喧嘩が激増しました。その多くは、妻からの「なんでそういうことするの? ちょっと考えればわかるでしょ!」という一言から始まっていて、こちらとしては"良かれと思って"やったことが地雷となり妻を怒らせてしまう。しかも、なぜ怒られているのかわからない。そんなことが続きました。

――どうしてそうなってしまったのでしょうか?

「育児に関する意思決定が妻に偏っている」ことが問題だったと思います。我が家は母乳育児をしていたので、育児スケジュールは妻の授乳の状況に直結します。そのため僕は、妻の意思を優先するようになり、育児全般に関して「指示待ちマン」になっていたのです。その結果、育児に対する意識や知識に大きな差が生まれてしまいました。

もし育休を取得したいと考えている男性がいたら、陥りがちなケースだと思うので意識してみるといいかもしれません。

――その後、お互いの家事・育児についての衝突はどのように解決されていったのですか?

喧嘩になったことをきっかけに、お互いが担当している家事と育児を全てリストアップしてみました。やってみたら、まるで玉入れの後で玉の数を数えるときのように、僕のタスクリストがとっくになくなった後も、妻のタスクがいつまでもあがりつづけるんです(笑)。気づけば僕の想像を超える量のタスクが妻に偏っていました。

「こんなことになっていたのか」と目から鱗だったし、意識が劇的に変わりました。今はゆるい役割分担の中で、それぞれが主体的に家事・育児に取り組んでいます。

ただ、時間がたつとまただんだんとお互いの期待値がずれていくので、今でも喧嘩は定期的に勃発していますよ。その都度話し合って、溝が埋まり、また開いて喧嘩してということを定期的に続けていますね。

――きちんと話し合えているから改善もできるし、家族のいろいろなフェーズに合わせて変えていけるんですね。

会社の中では、同僚とのコミュニケーションやワンオーワンの重要性が認識されていますが、コミュニケーションを1番大切にしなければいけないのって、家族だと思うんです。忙しい日々の中では相当強く意識しないと話し合いの時間って確保できないので、例えば私たち夫婦は在宅ワークの間に一緒にランチをしたり、子どもを預けて2人でお出掛けしたりしています。2人だけの時間は大事だなと思います。


ママたちが味わってきた"理不尽"に気づいた

――育休中には、子育て中の女性が抱えているつらさや社会課題についても、気づくことがあったとか。

生後2カ月の娘を連れて、地元から都心にある会社へ挨拶に出掛けようと地下鉄に乗っていたとき、娘が何をしても泣き止んでくれず、同乗していた中年男性から舌打ちをされたことがあったんです。

普段なら笑顔でスルーできるのですが、連日の激しい夜泣きによる寝不足で、精神的にも参っていた私の心に、この舌打ちは見事にトドメを刺しました。

「子どもと一緒に電車に乗っただけなのに。私は、人様に舌打ちをされるようなことをしているのだろうか」と、暗澹たる思いでしたね。私は、ママたちがこれまで味わってきた理不尽のほんの一部を体験したと感じました。

それから今の日本では、「子育てしながらキャリアを積むなんてとても無理」とも思いました。

「女性の社会進出を促そう」とか「女性の役員比率を上げよう」とは言うけれど、実際にはなかなか進んでいません。「女性のやる気がないから」という考え方もあるようですが、子育て中の親はどんなに大切な仕事があっても保育園のお迎えは絶対にあるし、家に帰ってきたら家事と育児があって、さらに予測不能な事態も次から次へと起こります。

仕事に長時間を費やさなければ昇進できないようなシステムでは、とてもじゃないけれど、やっていけないと思いました。

――キャリアアップを目指さないというのも選択肢の一つですが、現状では「選択」するハードルが非常に高いということですよね。

今の女性や男性のあり方を、社会が固定化させてしまっているということが問題だと思います。家族を持ちたくても持てない人もいるし、本当は働きたくても働けない人もいる。そういった構造的な問題をなくして、みんなが本当にどうしたいのかを考えて選択できるといいですよね。もっと社会のくびきをなくして、フラットに考えられるようになったら今の一般的な「家族の形」というのは絶対に変わると思います。

――たしかに、育児において「お母さんでなければいけない」というマインドがまだまだ当たり前のように見られますよね。

お母さんにしかできないことって、実は授乳しかないんですよ。母性本能について語られることは多いですが、男性にも父性はちゃんとあって、子どもと一定期間しっかり触れ合うことで、父親になっていけることが研究でもわかっているんです。

重要なのは性差ではなく、個人差。お母さんの方が得意なこともあるし、お父さんの方が得意なこともあるはずです。その家庭ごとで、お互いに何をどう担当するかを考えていければいいと思います。
自分自身の幸せを正面から見つめてみよう

――改正育児・介護休業法が成立し、男性の育休取得には追い風が吹いているようにも思えます。この流れについてどのように受け止めていますか?

男性の新卒社員の8割が育休取得を希望しているというデータもあります。育休取得について、男性の心のあり方はすでに変わっているけれど、組織が変わらないから行動に反映されていないのが今なんですよね。

改正法では、企業の男性育休取得率が公表されることが示されています。そうなれば、今後企業も努力をすることになると思いますから、大きな変化が期待できると思います。

――男性の育休取得が増えて、さらに女性の社会進出も進めるためには、家庭単位ではどのようなことが大切なのでしょうか?

せっかく育休を取ったのに、妻から「家事や育児ができないから育休を取ってもらった意味がない」と言われてしまう男性は少なくないようです。でもきっと家事や育児ができていないのではなくて、「妻が想定する家事と育児ができない」ということだと思うんです。

ママたちは、最初は夫に対して「非効率だな」とイライラすることがあっても、中長期的な目線で見守ってもらえるといいなと思いますね。ママたちには"自分が最後の砦だ"という意識があると思いますが、思い切って1日くらいパパに子どもを預けてみるのもいいのではないでしょうか。

逆に男性側が、ちょっとイライラされたくらいですねて「じゃあもうやめた!」なんていうのは言語道断です。そしてもし信頼して子どもを預けてもらったら、ぜひこれまでのパートナーの大変さとか、苦労を想像してほしいのです。きっと、家事育児の見え方が変わると思います。

――では、会社では男性の育休取得率を上げるために、どのような取り組みが必要だと考えますか?

前職は民間企業に勤めていて、午後8時~10時くらいに仕事の電話がかかってくることも当たり前だったし、その電話は絶対に取らなければならない風習がありました。そんな風土の職場で全員が育休を取得するって、ハードルが劇的に高いじゃないですか。

でも今の職場に転職してみたら、午後6時以降は電話もかかってこないし、かかってきたとしても取らないと聞いて、とても驚きました。

日頃から業務時間内に収まるように業務設計して、顧客との関係性もしっかりと構築しておけば、それが可能なのだと気づいたんです。

――そんな職場であれば、育休中だけでなく、復職後もパパが育児に関わりやすくなりますね。個人でも職場でも社会でも、できることはまだまだたくさんあると感じます。

真面目な話になりますが、「何のために生きているか」と考えるとみんな「幸せになりたいから生きている」のではないかと思います。少なくとも僕自身は自分が幸せになりたいから頑張って生きているのですが、その幸せってなんだろうと思ったときに、家族を大切にすることは自分自身の幸せだなと感じるんです。

一人ひとりがもっと自分自身の幸せを正面から見つめることができれば、結果的に社会のより大きな幸せにつながっていくと思うんです。ですから、まずは目の前の幸せを実現するにはどうしたらいいのか、できることから始めてみていただきたいなと思います。(高村由佳)