2021年06月27日 10:01 弁護士ドットコム
香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」は違憲だとして、高松市出身の男性と母親が県を相手取り、計約160万円の損害賠償を求めている訴訟。その第3回口頭弁論が6月14日、高松地裁で開かれたが、原告側と香川県側の主張は真っ向から対立している。
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この条例は、オンラインゲームやスマートフォンなどの依存症から子どもを守る目的で、全国で初めて制定された。保護者に対して、子どものゲームの利用を1日あたり60分までにするなどの努力義務を課している。
原告側は、このゲーム条例が施行されたため、自由な時間にゲームができず、憲法13条に定められた「幸福追求権」が侵害されているなどと訴えている。一方、香川県側は「権利侵害はない」と反論している。
訴状などによると、原告側は、次のような人権侵害を指摘している。
まず、親権者である母親は、自分の子どもについて、家庭でのゲームの時間を決める自由があり、親の子に対する親権、監護権、養育権、教育の自由(教育権)、リプロダクティブ権(子を産み育てる権利)が憲法13条が保障する人格権および幸福追求権に含まれる基本的人権であると主張する。
特に新型コロナの感染拡大下において、子どもたちの間で、これまで以上にインターネットを利用したコミュニケーションが増え、スマートフォンによるおしゃべりや、ゲーム「あつまれ動物の森」でのイベントなどが活発になっているが、条例があることにより、こうしたスマートフォンやゲームの利用を決める母親の権利が侵害されたとしている。
また、男性も、家庭で何時間ゲームをするか、どのように余暇を過ごすか自由に決めることができ、これも憲法13条で保障された人格権・幸福追求権・自己決定権・プライバシー権として保障されている基本的人権の行使であると主張する。
さらに、五輪種目になる可能性もある「eスポーツ」もゲームだが、家庭で「eスポーツ」を楽しむ機会を自由に持て、これも、憲法13条で保障された人格権・幸福追求権・自己決定権・プライバシー権の行使だとしている。
男性は、ゲーム条例によって、こうした権利を侵害されていると訴えている。
原告側の主張に対して、香川県側は5月14日付の準備書面において、次のように反論している。
「原告らが主張する、親権者が、子のゲームの時間やスマートフォンの利用の可否・時間などを決定する自由なるものは、憲法が保障する基本的人権ではあり得ない」
「親の子に対する教育権が憲法26条によって保障されていることは特に争わないが、その余は否認、ないし争う」
「原告らが指摘する、親権・監護権・養育権といった民法上で認められているものは、憲法13条において基本的人権として保障されているものではない」
「原告らが主張する『eスポーツを楽しむこと』は、憲法13条が保障する基本的人権ではあり得ない」
つまり、親の「教育権」のみは認めたが、原告側が主張するそれ以外の権利は、「憲法下において保障されている基本的人権ではない」と全否定した。
これ以外にも、原告側は「(条例の根拠となっている)ネット・ゲーム依存症という病気は存在しない」と指摘しているが、香川県側は「アルコール依存症やギャンブル依存症と同じように、医療の現場でも明確な定義付けはされていない」としつつも、「予防が重要」と反論している。
真っ向から対立する原告と香川県の激論は始まったばかり。今後、「ゲームする権利」は人権に含まれるのか否か、訴訟の行方が注目される。次回の口頭弁論は9月15日に予定されている。