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『東京卍リベンジャーズ』影の支配者、稀咲鉄太 卑劣な人間性に隠された悲しい過去とは?

2021年06月26日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 実写映画の公開まで約2週間、原作コミック23巻の発売日まで1ヶ月を切った今、着実に注目度が高まってきている『東京卍リベンジャーズ』。中学時代の恋人だった橘日向が死亡してしまう未来を変えるため、主人公である花垣武道がタイムリープを繰り返して過去を変えていくという物語だが、最大の敵として存在感を示しているのが稀咲鉄太だ。


※以下、ネタバレあり


 稀咲は、現代において「東京卍會」が凶悪犯罪集団になってしまっている元凶の人物。小学生の頃から頭脳明晰で「神童」と呼ばれるほどの切れ者だったが、成長するに連れて狡猾で卑劣な手段を躊躇なく選択してきた。絵に描いたような「悪」で間違いないのだが、その心中に思いを馳せると一抹の悲しさを感じてしまう。


 原作の中で、稀咲は次々と所属するグループを変えている。それもこれも、とある野望を叶えるべくマイキーこと佐野万次郎に近づくためだ。まずはただ喧嘩が強いだけだった長内信高に近づいて「愛美愛主」の総長へと押し上げ、自らは幹部の座へ就く。


 「東京卍會」との抗争のきっかけを作って「8・3抗争」でドラケンこと龍宮寺堅を殺害し、自分がナンバー2の座に就き「東京卍會」を操るという計画を立てていた。しかし、武道の働きにより失敗に終わる。急遽計画を変更した稀咲は、上手く取り入り「東京卍會」の参番隊隊長の座に座り、トップのいない「芭流覇羅」を作って「東京卍會」の創設者の一人であった羽宮一虎をマイキーに殺害させる「血のハロウィン」を計画。


『東京卍リベンジャーズ』6巻(講談社)

 闇に落ちたマイキーにつけ入り、「芭流覇羅」のトップにマイキーを据えて操ろうとしていたが、またもや武道の活躍によって失敗に終わってしまう。さらに、壱番隊隊長となった武道や副隊長の松野千冬とタッグを組むも、裏切りに走った「聖夜決戦」ではその裏切りがマイキーにバレ、「東京卍會」から除名処分。


 そこで横浜に拠点を置く暴走族「天竺」の黒川イザナ(マイキーの異母兄)に接触し、総参謀に就任する。「天竺」をけしかけて「東京卍會」を潰し、マイキーを操る計画を練る。


 「関東事変」当日にマイキーの妹・エマを殺害してマイキーの戦意を喪失させたものの、武道が自分たちを救おうとタイムリープしていることを知ったマイキーは抗争の場へ姿を現す。形勢逆転となって逃亡を図った稀咲だったが、最終的にトラックに轢かれて敢え無く最期を迎えてしまった。


 彼の行動を振り返ると、自分の手を汚さない緻密な画策を練ってきたことがわかる。やっていることは外道極まりないのだが、これだけ意のままに人心掌握できるということは頭脳明晰かつ、ある種のカリスマ性がある人物なのだろう。


 良い方向でその能力を使えば、別世界で天下を取れたであろう稀咲は、どうして裏の世界でその能力を使うに至ったのだろうか。目的は、橘日向である。小学生の頃、日向と同じ塾に通っていた稀咲は日向に恋心を抱くようになった。だが、日向はその頃から武道に好意を寄せていた。その武道が「日本で一番のヒーローになる」と発言したことがきっかけとなり、日向の関心を引くために同じく日本一の不良になることを決意したというわけだ。


 12年後の現代において、稀咲はマイキーと並ぶ「東京卍會」のツートップ。言わば日本一の不良になり、満を持して日向にプロポーズするものの玉砕。「モノにできないなら殺してしまえ」という常人には理解できない思考で、日向を殺害してしまうのだ。


 もちろん、許されることではなく歪みに歪んだ感情なのだが、始まりは小学生の頃の淡い恋心。そして、中学生にいじめられそうになっていた日向を助けるために負けるとわかっていても登場した武道に、少なからず憧れがあったはずだ。実際、現代で武道を銃殺しようとした際も、稀咲は涙を流しながら「じゃあな…オレの“ヒーロー”」と言っている。日向への淡い恋心と、キラキラ輝いて見えた武道への憧憬。極悪非道の稀咲も、もとはどこにでもいる子どもだったはずだ。しかしあらぬ方向へ歪み、悲惨な結末に繋がってしまう……。そう考えると、どこかやるせない感情が湧いてくる。


 心に闇を抱え、一癖も二癖もある稀咲を実写映画では間宮祥太朗が演じる。間宮と言えば交友関係も広く、絵に描いたような“陽キャ”だ。だが、これまでコメディな演技もシリアスな演技もこなしてきており、出演作品は数知れない。鋭い眼光がどことなく稀咲を彷彿させる間宮が、今回はどんな演技を見せるのか。稀咲の歪みをどう表現するのか。実写映画からも目が離せない。