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森口将之のカーデザイン解体新書 第43回 顔と中身は革新派? デザインで考える新型「ゴルフ」

2021年06月25日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
輸入車ハッチバックの代表格といえるフォルクスワーゲン「ゴルフ」の新型が日本でも発売となった。通算8代目となる「ゴルフ8」だ。プラットフォームやパワートレインは先代の進化形だが、デザインはどう変わり、どこが見どころなのか。実車を見て考えた。

○「ゴルフ」を「ゴルフ」に見せている部分とは?

今回の新型で通算8代目となるフォルクスワーゲン(VW)の「ゴルフ」が、もともとはイタリア生まれのカーデザイン界の巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロの手により生まれたことを知っている人はどのくらいいるだろうか。

当時のVWは、第2次大戦直後から販売を始めた「ビートル」(正式名称はフォルクスワーゲン・タイプ1)をはじめとする空冷リアエンジン方式のラインアップを一新しようと考え、水冷フロントエンジン前輪駆動の経験が長いアウディの協力を得て、前輪駆動への転換を画策していた。

エンジンの搭載位置からして違うので、当然ながらデザインも一新する必要がある。それをジウジアーロに依頼したのだ。ゴルフだけでなく、上級セダン/ワゴンの「パサート」、日本でも一時販売していたクーペの「シロッコ」も、初代は彼のデザインだ。

つまり、現在のVWのデザインは、かなりの部分がジウジアーロによって築かれたといっても過言ではない。

ゴルフはその中でも、彼のデザインコンセプトをもっとも忠実に継承している1台だ。基幹車種なので大胆な変革が難しいこともあるが、肝を守り続けていることも、定番商品として世界中の多くの人に親しまれている理由になっているのだろうと思う。

実は新型ゴルフ、フルモデルチェンジではあるものの、プラットフォームは先代で初採用した「MQB」の進化形「MQB evo」を採用しており、エンジンも先代に搭載していた「EA211」をバージョンアップした「EA211 evo」となっている。

ボディサイズもさほど変わっていない。全長4,295mm、全幅1,790mm、全高1,470mmで、先代と比べると30mm長く、10mm狭く、5mm低くなっているにすぎない。なので、骨格そのものは先代から踏襲していると思われる。静岡県御殿場市で開催されたメディア向け試乗会で実車に対面しても、特にキャビンまわりはそっくりで、ドアのウインドーは共用しているのではないかと思ってしまうほどだ。

でも、このキャビンがゴルフをゴルフらしく見せている核の部分であることは、VW自身も認めている。

具体的には、リアドア後方の太い「く」の字型パネルだ。これはジウジアーロ・デザインの初代から連綿と受け継がれている。そういえばゴルフ同様、ドイツ車の定番商品であるBMW「3シリーズセダン」も、リアドア後方のライン「ホフマイスターエッケ」を初代から受け継いでいる。

○一新した表情をどう考えるか

ただし、ボディサイドそのものが先代とまったく同じというわけではない。今まではドアハンドルの下を走っていたキャラクターラインは、ドアハンドルを貫く位置に上昇した。それ以外は、ドア下部に先代に似たアクセントが入るぐらいで、すっきりしている。

ゴルフの弟分である「ポロ」は、現行型になってキャラクターラインが一気に増え、やや煩雑なデザインになってしまったことを残念に思っていたので、ゴルフが新型になってもシンプルさを保ってくれたことには安心した。

寸法面で個人的に興味を引かれたのは、ホイールベースである。全長がやや伸びたのに対し、こちらは15mm短い2,620mmになった。わずか15mmなので肉眼で短くなったとは感じないのだが、試乗会で聞いてみると、ワゴンの「ゴルフ・ヴァリアント」の新型との差別化を図るためという答えが返ってきた。

試乗会から戻って早速検索してみると、すでにドイツ本国では発表済みだった新型ヴァリアントのホイールベースは、逆に先代ゴルフ7より約50mm長くなっている。

「Cセグメント」と呼ばれるゴルフと同じクラスで、ハッチバックとワゴンの両方を持つ欧州車としてはほかにプジョー「308」、ルノー「メガーヌ」がある。いずれも伝統的に、ハッチバックよりワゴンのホイールベースを長くとってきた。

ゴルフもそれに倣って差別化を図ってきた。少なくとも欧州では、ハッチバックとワゴンはユーザー層が異なることを示している。ただし、キャビンの広さはホイールベース短縮の影響は受けていないとのことで、実際に乗ってもそれを実感した。

スタイリングでもっとも大きく変わったのはフロントだろう。先代はグリルとヘッドランプの下端をそろえ、ヘッドランプが両端に行くほどせり上がる吊り目顔だったが、新型は逆に上端をそろえており、ヘッドランプは下側に広がっている。ちなみにこの上端のラインは、サイドのキャラクターラインにつながる高さになっている。

グリル、ヘッドランプともに薄くなったこともポイントで、逆にバンパーの開口部は広がった。この変更のおかげもあって、空気抵抗係数Cd値は0.3から0.275に下がったそうだ。
しかしこれ、伝統を重んじるゴルフの進化の中では、かなり大胆な変更であることも事実。ヘッドランプについては、初代と2代目で採用した丸目が吊り目に変わった3代目以来の変革である。

メガネをかけたような新型の顔つきは、賛否が分かれそうだ。この辺りは時間の経過とともにどう評価が変わっていくか、見ていきたいと考えている。

リアまわりは「GOLF」のロゴがリアゲートオープナーを兼ねたVWエンブレムのすぐ下に移動し、グレード名を示すロゴは消滅した。このあたりは、先に登場したSUVの「Tクロス」や「Tロック」、マイナーチェンジしたパサートと共通する。これ以外ではルーフエンドスポイラー、コンビランプ、バンパーなども一新されているが、フロントに比べれば変化は控えめだ。
○インテリアは一気にモダンに

フロントマスク以上に大きく変わったのはインテリアだ。中でもインパネは、10.25インチと10インチのデジタルディスプレイを横に並べた今風の眺めに一新した。

感心したのは操作のロジックが考え抜かれたものであること。例えばメーターは、クラシカルなダイヤルからナビの地図メインまで4種類の表示が選べて、ステアリングスイッチで左右のサブメニューを呼び出すことができるのだが、いずれもすぐに使いこなすことができた。

センターディスプレイの操作はタッチパネル、その下の細長いスイッチ、ハザードランプスイッチ周辺のスイッチの3カ所に分かれていて、一部は音声で操作できる。ハザードスイッチの周囲にはエアコンやドライブモードのボタンを配置。いずれもオーディオやナビに比べれば操作の頻度が少ないことに気づいて納得した。

一方、オーディオのボリュームやエアコンの温度などを調節するディスプレイ下のボタンは、横方向に指をスライドさせると一気にレベルを変えることができるのだが、短い試乗時間では思いどおりに扱うことができなかった。

センターコンソールでは、シフトレバーが短い電気スイッチになったことが目を引く。従来はダイヤルだったメーター右側のライトスイッチもタッチ式に変身している。いずれも格段にモダンになった。

それだけに、ステアリングやその奥のウインカーやワイパーのレバー、ドアのパワーウインドースイッチが見慣れた造形なのは残念だ。トータルデザインという観点でいえば、こういう部分も一新してほしかった。大きなディスプレイを並べたためもあり、エアコンのルーバーが下のほうに位置していることも気になった。

走りについてはエンジンがマイルドハイブリッド化されたことがトピック。燃費も旧型より少し向上している。ボディの剛性感は相変わらずすばらしい。ただしそれ以外は、先代に初めて乗ったときのような驚きはなかった。

他のハッチバックが急速に実力を高めていることも、ゴルフのデジタル化と電動化を後押ししたのかもしれない。とはいえ、安心して選べるプロダクトであることは変わらないので、一新したフロントマスクが気に入り、デジタル化されたインパネに惹かれるなら、購入を検討してもいい1台なのではないかと思う。

森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)