2021年06月23日 14:11 弁護士ドットコム
会計前の商品を食べたなどとして、窃盗などの罪に問われた迷惑系YouTuber「へずまりゅう」として活動していた男性の初公判が6月22日、名古屋地裁岡崎支部であった。
【関連記事:花嫁に水ぶっかけ、「きれいじゃねえ」と暴言…結婚式ぶち壊しの招待客に慰謝料請求したい!】
報道によると、男性側は、すぐに支払う意思があり窃盗は成立しないとして無罪を主張したという。
男性は、愛知県内の商業施設で、会計前の「刺身」を1パック食べた様子を映した動画をYouTubeにアップしていた。店の関係者がこの動画を発見し、警察に相談。その後、窃盗容疑で愛知県警に逮捕、起訴されていた。
問題となった動画では食べた後、空になった容器をレジに出し、会計を済ませていたようだ。このことが今回の主張につながったと考えられるが、本当にすぐに支払う意思があれば窃盗は成立しないのだろうか。
伊藤諭弁護士は、「一般的に、商品を食べてしまった段階で窃盗罪は既遂に達している」と指摘する。
「窃盗罪は、他人が物を支配している状態を保護することを目的とする犯罪です。『他人の財物を窃取した』ときに成立します。ここでいう『窃取』とは、他人の意思に反して、その支配(占有)を自分や第三者に移すことをいいます」
精算前の商品は店が支配しており、たとえば、買い物カゴに入れた段階では、まだその支配は店のままだ。通常は、店内のレジで精算を済ませた段階でその支配が客に移ることになる。
「つまり、精算前に勝手にその商品の支配を自分に移してしまえば、窃盗(既遂)罪は成立するわけです。
典型例は『万引き』です。商品を持ったまま精算をしないで店の外に出てしまえば、その商品の支配を店から自分に確定的に移したといえます」(伊藤弁護士)
今回のケースでは、店の商品を精算前に食べてしまったという行為が窃取にあたるかどうかが問題だという。
「精算を済ませる前に商品を食べてしまうという行為は、その時点で棚に戻すことができなくなるわけで、確定的に支配が自分に移ったといえます」(伊藤弁護士)
では、男性側の「お金を払うつもりだったから窃盗ではない」という主張にはどのような意味があるのだろうか。
「お金を払うつもりで、実際に食べた後で支払っている点をどう捉えるかという問題です。この点については裁判が続いていますので、本件でどのような判断がなされるか注目したいと思います。
ただ、先ほども述べたように、一般的には商品を食べてしまった段階で窃盗罪が既遂になっていますから、『後から代金を支払うつもりだったから無罪になる』という主張は苦しいといわざるを得ません。
もっとも、窃盗罪が成立したとしても、実際にお金を支払ったことは、被害弁償をしたという評価になり、単なる万引きよりは有利な情状として考慮されます」(伊藤弁護士)
【取材協力弁護士】
伊藤 諭(いとう・さとし)弁護士
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属(川崎支部)。中小企業に関する法律相談、交通事故、倒産事件、離婚・相続等の家事事件、高齢者の財産管理(成年後見など)、刑事事件などを手がける。趣味はマラソン。
事務所名:弁護士法人ASK市役所通り法律事務所
事務所URL:https://www.s-dori-law.com/