2021年06月23日 10:21 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスのワクチン接種後に、発熱などの副反応が出るケースが報告されています。そんな中、弁護士ドットコムには「接種後に熱が出ても仕事はしてもらう」と出勤を強制されたという相談が寄せられています。
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相談者は1回目のワクチン接種後、体がだるく頭痛などの副反応が見られました。ですが、2回目の接種を前に、施設長から「熱が出ても、薬を飲みながら仕事はしてもらう。夜勤でも薬を飲みながら仕事をしてください。病気じゃないから」と言われたそうです。
これからいよいよ本格化するワクチン接種ですが、ワクチン接種を強要されたり不当な扱いを受けたりする「ワクチンハラスメント」という言葉も出てきています。
山田長正弁護士は、今回のケースのように副反応が出ても出社を強要することは「パワハラに当たると考えるべき」と話します。詳しく聞きました。
——そもそも、パワハラとは?
「パワハラ」とは、「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)~(3)までの要素を全て満たすもの」とされています(パワハラ防止法など)。
今回の場合、(1)は施設長からの言葉ということで満たされます。
また、(3)について、このような発言を受けた場合、平均的な労働者としては、精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなると考えられ、(3)も満たすといえます。
——(2)については、どうでしょうか。
(2)の具体的内容としては、「社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの」とされており、反対に、「客観的 にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とされており、一概に判断することが難しいです。
判断にあたっては、その事案における様々な要素が総合的に考慮されることになりますので、個別事案ごとに検討が必要となります。
——今回の事例はどう考えられますか。
「熱が出ても、薬を飲みながら仕事はしてもらう。夜勤でも薬を飲みながら仕事をしてください。病気じゃないから」と出社を強要しているとのことです。
実際にはワクチン接種前ですので、まだ体調を崩してはいません。ただ、仮に接種後に働くことが難しい状況になったとしても、薬が効くか否かも分からない中で無理矢理薬を飲むことまでをも求め、出社を強要していると判断される以上、労働者の体調への配慮は不十分です。
かつ、労働者に対してもかなり圧力がかかる言い方であり精神的にも苦痛を与えるため、社会通念上態様が相当でないと判断される可能性が高いです。ここからだけでは分からない事情もあり断定まではできませんが、一般的にはパワハラに該当すると考えておくべきです。
この考え方は、福祉施設等であれ、一般企業であれ、変わりません。
ところで、「厚労省の新型コロナウイルスに関するQ&A」では、「医療従事者等や高齢者施設等の従事者については、ワクチン接種によって生じた健康被害について、労働者の業務遂行のために必要な行為として、業務行為に該当するものと認められることから、労災保険給付の対象となる」とされています。
そのため、福祉施設等の場合、ワクチン接種による体調不良が業務に基づく以上、労働者の要保護性が一層高くなると考えられます。
よって、今回のケースのような言い方をされた場合、価値判断的には、よりパワハラに該当しやすくなる結果、社会通念上態様が相当ではないと判断され、パワハラとして違法になると考えるべきです。
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
山田総合法律事務所 パートナー弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/