2021年のERCヨーロッパ・ラリー選手権開幕戦ラリー・ポーランドが6月18~20日に開催され、昨季2度目のタイトルを獲得したディフェンディングチャンピオン、アレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3ラリー2)が"“ロシアンロケット”の異名どおり、他を寄せ付けぬスピードを披露してグラベル戦を制覇。タイトル防衛に向け幸先の良いスタートを決めた。
2020年の早期に暫定カレンダーがアナウンスされながら、度重なる日程変更を受けてきた2021年ERCもようやく開幕のときを迎え、FIAの車両規則編成により本格的にRally2(ラリー2/旧称:R5)となったマシンをドライブする、実力派ドライバーたちが集結した。
その輪の中心となるはずだったチャンピオンをラリー開始前にアクシデントが襲い、シェイクダウンに望んでいたサンテロック・ジュニアチームのシトロエンが、5回転ものロールオーバーを喫する激しいクラッシュに見舞われる。
車体は無惨にひしゃげ、ロールケージにもダメージが及んだことで開幕戦への参戦が危ぶまれた王者ルカヤナクだが、チームは急遽、南フランスの本拠地から交換用のボディシェルを輸送し、金曜日のセレモニアルスタートに間に合うようにまったく新しいクルマを仕立て上げるという離れ業を演じ、チャンピオンは無事SS1のスタートを切ることができた。
この余波で充分なセットアップ作業が行えなかったシトロエンに対し、レグ1で飛び出したのはニコライ・グリアシン(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)で、SS5まで連続トップタイムを奪ってラリーを完全に支配する速さを披露する。
しかし後続に40.5秒ものマージンを築いて迎えたSS7で、ラリーリーダーはまさかの事態に見舞われる。
「何かにぶつかったと思うんだけど、フロントサスペンションのボルトが破壊されて前輪2本ともパンクでタイムを失った。スペアは1本しかなく、ホイールなしでの走行は禁じられている。このステージはダストの中で路面を見極めるのが難しく、どうしようもなかった」と、まさかのリタイアに追い込まれる。
この日は同じSS7でその他のトップコンテンダーにもトラブルが発生し、今季もチームMRFタイヤのエースとして開発を担うクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20 R5)は、5番手につけながらもフィニッシュ1km手前地点でサスペンションを破損してリタイアに。そのチームメイトでフォルクスワーゲンをドライブするシモン・カンペデッリも、午前の段階でパワーステアリングに問題を抱えて離脱。
5度のルーマニア王者シモーネ・テンペスティーニ(シュコダ・ファビア・ラリー2 Evo)はギヤボックス、6番手走行中だったファビアン・クルム(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)も、電気系のトラブルで戦列を去ることとなった。
■「困難に打ち勝って勝利を挙げることができた」とルカヤナク
そんな難しいレグ1ながら優位な風向きとなったのがルカヤナクで、SS7で最初のベストタイムを記録すると、初日8つのSSを終えて2番手のアンドレアス・ミケルセン(シュコダ・ファビア・ラリー2 Evo/トク・スポーツWRT)に対し29.7秒ものギャップを築いた。
「いい感じだ。午後の戦略には満足しているし、みんなに素晴らしい日をプレゼントできてうれしいよ」と、サービスに戻り安堵の表情を浮かべたルカヤナク。
「チームには本当に迷惑を掛けたし、昨季以来のグラベル・セットアップも満足にできないなか、いいバランスが見つけられたのは素晴らしいことだね」
明けたレグ2に充分なマージンを持って臨んだチャンピオンは、最初のSS9こそ最速で駆け抜けたものの、その後はタイム差をマネジメントするクレバーなドライビングを披露。ミケルセンや復帰組のブリーンにベストを譲る走りに徹し、18.4秒差を持って開幕初戦を制覇してみせた。
「ラリー開始前は映画のように極端なドラマが発生したが、とても速いドライバーたちに対し、厳しいステージでも困難に打ち勝って勝利を挙げることができた。シーズンを優勝で始めることができて最高だよ」と、ERC通算12勝目を手にしたルカヤナク。
2位ミケルセンに続き、最後の3位表彰台には地元勢のミコ・マルチェク(シュコダ・ファビア・ラリー2 Evo/オーレン・チーム)が入っている。
続くERC第2戦は7月1~3日のラリー・リエパヤとなるが、エントラントの実質的参戦費用削減措置として、シリーズはこのポーランドと次戦開催地ラトビアとの間でラリーカーやトランスポーター、トレーラー、サポート車両を保管するための安全な駐車施設を無料開放する“ダブルヘッダー・コンセプト”を導入している。