2021年F1第7戦フランスGPレーススタート1時間5分前の午後1時55分、FIAから1枚のリリースが出された。それはレースに向けて、各チームが何を交換したかというリストだった。
土曜日の予選で、タイヤバリアにリヤからクラッシュした角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が交換したパーツは、ギヤボックス、リヤウイング、リヤサスペンション、ステアリングなど多岐に渡った。そのなかにはフロアも含まれていて、そこにはこんな注釈があった。
『フロアは異なるスペック』
レギュレーションによって現在のF1は、予選開始後に最初にコースインした瞬間に、そのマシンにはパルクフェルメ・ルールが適用され、予選中からレーススタートまで、車体のセットアップは基本的に変更できないだけでなく、パーツなどの変更も原則できないことになっている。しかし安全性の観点から、交換が認められているものに関しては国際自動車連盟(FIA)に交換リストを提出し、認められたものに関してのみ、ガレージマーシャルの監視の下、変更が許可される。
ただし、その交換するパーツは交換する前と同じスペックでなければならない。
フランスGPの予選で角田のマシンに取り付けられていたフロアは、最新スペックだった。この最新スペックにはスペアがなく、角田のマシンに取り付けられたのは、旧型スペックだった。旧型とはいえ、予選時と異なるスペックのフロアでレースに参加することになった角田に対して、FIAはレギュレーションに則ってピットレーンスタートを命じた。
つまり、予選でクラッシュした角田は、自分の予選を台無しにしただけでなく、レースでのパフォーマンスも犠牲にすることとなったわけである。
予選でクラッシュした角田にとって、レースをピットレーンからスタートすることは決して悪いことばかりではなかった。それはスタート直後の1コーナーでのアクシデントに巻き込まれるリスクを小さくすることができるという点だ。
結果的に今回のレースでは1コーナーでアクシデントは発生しなかったが、後方からのオーバーテイクを試みるためにミディアムタイヤを選択してスタートを切った角田は、1周目にハース勢の2台を抜いて、2周目にはジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)、そして4周目にニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)を立て続けにオーバーテイクし、16番手まで浮上した。
しかし、ここでハードタイヤを履いてスタートしていたランス・ストロール(アストンマーティン)とアルファロメオ勢に遭遇。その後方で抑えられてしまった角田に対して、チームはアンダーカットを試みようとピットインを指示。15周目にピットインした角田はハードタイヤに履き替え、レースを再開。早めのタイヤ交換が功を奏して、全車がピットストップを済ませると11番手までポジションを上げていた。
しかし、「レース後半は完全にタイヤが終わってしまっていた」という角田はストロールとラッセルにオーバーテイクを許し、最終的に13位でフィニッシュ。あと一歩でポイントを逃してしまった。
それでも、1周目にクラッシュした前日の予選に比べれば、この日はチェッカーフラッグまで52周を走破した。
「いまの自分にはレース経験を積み、走行距離を伸ばすことがとても大切なので、僕にとってはとても経験になりました」
次はポイント獲得のチャンスを増やすために、もっと上位のグリッドからスタートするよう、予選でのタイムアタックの組み立て方について取り組んでいってほしい。