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伊是名夏子さん語る「乗車拒否問題」後の中傷の嵐、それでも目指す「誰もが生きやすい世界」

2021年06月18日 10:21  弁護士ドットコム

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電動車イスを利用するコラムニスト・伊是名夏子さんが、本人のブログで4月4日に「JRで車いすは乗車拒否されました」と発信してから、2カ月以上が経過した。


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階段しかない無人駅(静岡県熱海市の来宮駅)での降車の介助を駅員から拒否され、合理的配慮を求めたとする内容だ。



この問題は、障害を持つ人の移動の権利について議論を進めるきっかけとなりえたが、「議論の場」よりも、それを覆い尽くすような誹謗中傷が巻き起こった。



ネット上の悪意に満ちた言葉を浴び続けたこの2カ月を振り返り、伊是名さんが、改めて目指す「移動の権利」を語った。(聞き手:編集部・塚田賢慎)



●1日2~3回、感情を吐き出し、どうにか冷静に

――ブログでの発信から2カ月たちました(インタビューは6月4日に実施)。バリアフリーや合理的配慮の話がメインテーマとなるよりも、伊是名さんへの中傷が目につきます



あのときは、誹謗中傷でぐちゃぐちゃにされて、夜も眠れず、つらい毎日を送ることなど予想していませんでした。



合理的配慮を広めたいという思いからの発信が、別の問題にすりかえられてしまいました。



今回のこととは全く関係のない、過去の行動や、家族のことを調べられ、拡散されました。今はネットを触ることすら怖いです。





電話やオンラインで話を聞き合うグループのメンバーに向かって、泣いたり感情を吐き出したりすることで、どうにか毎日の生活を送れています。



1日2~3回は利用しているでしょうか。そうでもしなければ、私のブログの書き方が悪かったのかもしれないとか、過去のブログで冗談めいたことを書いた私が悪かったと、自分をどんどん責めてしまいます。



話を聞いてもらっているおかげで、自分が責められることではなく、誹謗中傷であると気づくことができています。



●中傷する者の思惑にまんまと乗ってしまった

――ブログ記事や様々なメディアでの発言等が掘り起こされ、炎上しました



私を含めて、結婚や子育てを反対される障害者が少なくなかったことから、障害者の生活を可視化することを目指して、子どもを妊娠した約10年前から、今までの経験の発信を始めました。



また、右も左もわからない大学生だった2004年からブログを始めたときは、友だち向けの発信がメインで冗談のような内容や、写真をたくさん載せていました。それらが今回すべて裏目に出て、揚げ足をとられることになっています。



言及されていることのほとんどがデマや私の人格を非難するための印象操作です。デマの事例としては、たとえば、「ヘルパー制度利用による不正受給」を指摘されましたが、していません。一部だけを切り取って「不正受給である」と言うデマが拡散されています。



また印象操作としては、私が過去に子ども食堂を利用したことも炎上しました。



〈我が家も、こども食堂使用してます!ママ友ができたり、子ども同士もたのしそうで、なにより夕食の準備、片付け、しなくていいから幸せーーー。広まれ!〉(ツイッターの引用)



助けを求める子どもほど可視化されにくく、自分だけが特別扱いされることを避けがちになります。誰でも利用できる楽しい場所として開放されることで、子ども食堂に行きやすくなり、子どもはSOSを出しやすくなります。私の住むエリアの食堂には、ママ友同士や、大人一人でも、誰でも来てください、と明記されています。



中傷する人は「片付けしなくていい」に反応したのかしれません。でも、共働きで余裕がない時に、片付けが楽だから、ママ友同士で楽しいからと言う理由でも、利用する人が増えたらいいと思います。



そうすることで、問題を抱えている人も入りやすくなり、解決のきっかけになるかもしれません。



ほかにも、ネット上の動画の一部を切り出して、ヘルパー体験に来たボランティアの人にケチをつけていると書かれたりしました。



私は完璧な人間ではないので、間違ったことや、批判を浴びるようなことをした過去もあります。しかし、この2カ月、私を悪く見せるため、次から次に情報が切り取られ、事実とまったく異なる情報がどんどん広がり、怖くなって、どのように対処してよいのかわからなくなりました。



SNSの炎上が起こる背景について調べてみると、荒らしや嫌がらせ行為をする人たちの目的は、中傷のターゲットを孤立させ、SNSやネット上から追い出すことにあるようです。私も何も発信できなくなり、ツイッターで人と繋がることができず、自分は消えた方がいいと思ってしまうこともよくあります。



●私を擁護すると炎上に巻き込まれるから、まわりも発言できない

――攻撃を受けて、どのように孤立していったのでしょうか



周囲の人からの誹謗中傷を止めるような発信を期待するのですが、私を擁護するとアンチに絡まれるので声をあげにくいようです。



孤立したままの私は、それこそ中傷してくる人たちの狙いにまんまと乗ってしまっています。しかし、解決方法がわかりません。



相手は匿名で、話し合うこともむずかしい。どうしたら、炎上の後に巻き起こる誹謗中傷の嵐に対処するべきか。この2カ月、今でも悩んでいて、どうすればいいかわからない状態です。



●仕事のつながりも絶たれて、生き方まですべて否定された気分

――実生活でどんな被害が出ていますか



何をされるか不安なので外出がほとんどできなくなり、買い物をしながらでも誰かに見られているのではないか、子どもを叱ったら虐待と通報されるのではないかと常に不安です。



2カ月の間に、私は今まで通り新聞や雑誌などにも仕事で寄稿しています。私のコラムをツイッターで紹介することで、新しいつながりができ、別の媒体の編集者のかたから、仕事を依頼されることもありました。それがいま、一切できなくなりました。



先日発売されたばかりの「支援」(生活書院)という雑誌に、私のコラムが載っています(記事=「感染リスクが高い中で生き抜く、総勢10人のヘルパーとの生活を通して」)。



15年前に「生活書院」の本を読んで、修論を書いたこともあり、憧れの専門誌への寄稿は本当にうれしいです。でも、それすらつぶやけません。仕事のつながりも絶たれて、生き方まですべて否定された気分です。



――中傷を続けるアカウントを特定し、損害賠償を求めるなど、法的手続きをとるのでしょうか



あまりに広まっている誹謗中傷に対処するため、弁護士さんにも相談しています。どんな対応をしていくか未定ですが、命を奪うサイバーハラスメントを見過ごすのではなく、何らかの対応を求めていきたいと考えています。



●健常者による障害者への誤解は、外国人による日本人への誤解に似ている

――誹謗中傷を受けて、新たに気づいたことは



私がコラムや講演会などで伝え続けていた「障害者の生活」は、多くの人にとってまだまだ想像のつきにくいものだということに気づきました。



車イス利用者が電車に乗るには、歩ける人と比べて2~3倍の時間がかかります。



車イスに乗っていると、今回のように「ご案内できません」と言われることが時々あり、案内されないことは乗れないことと同じで、車イス利用者同士では「乗車拒否」と表すことがあります。しかし、障害のない人にとって、電車に乗れないなんて想像がしにくく、「乗車拒否」という言葉はきつく感じてしまうと初めて知りました。



ヘルパー制度についてもそうです。私の障害は体調次第で、普段はできることが、できなくなることがあり、それを見越してヘルパー制度の申請をします。



時には、親切心からではありますが、障害のある人の置かれている状況をあまり知らずに「タクシーがありますよ」と教えてくれる人もいます。



今回の炎上でも、「タクシーやバスを使えばいいじゃないか」「ヘルパーに車イスを運ばせればいいじゃないか」「どうして軽い手動車イスで旅行をしないのか」とアドバイスのようなことを言われました。



しかし、電動車イス利用者が乗れるタクシーは限られていて、使いたいと思ってすぐに乗れるケースはほとんどありません。ノンステップバスの台数も限られていて、障害者の毎日は、選択肢が少ないのです。



障害のない人が障害のある人の状況を想像できないことは、日本のことをよく知らないアメリカ人の認識と似ていると思うことがあります。



アメリカ留学中、現地の人から質問され、私が驚いたことなのですが、「日本人って、寿司を毎日食べてるんでしょ」と時々聞かれたのです。



「毎日食べないよ。毎日食べてたら栄養的にもわるいじゃん」と答えても、「ミソスープが体にいいんでしょ」と返されてしまう。よくわかっていないこと、時にはデマともいえることを信じて、まるで常識のことであり、アドバイスのように言ってくるこの状況は、私の炎上と似ているとも思いました。



障害者の生活があまりに知られていないからこそ誤解や思い込みが生みだされ、批判も起こってしまう。この誤解を解くために、毎回細かく説明をしないとはいけないと思いますが、とてもつらく、疲れることです。



●あまりに中傷が多く、建設的意見がもはや耳に入らない

――賛成・反対問わず、少数でも建設的な意見はありましたか



大変申し訳ないことに、ネットをあまり見ることができていません。



「声をあげてくれてありがとう」「あなたは間違っていない」「バリアフリーは進んでなくて、後退しているね」と直接言ってくれるかたや、擁護する記事を書いてくれるかたもいます。



同時に、声のあげ方はどうかと思う、文章の書き方がどうかと思うという意見もあります。私も声のあげ方には他の方法もあったのかもしれない、もっと丁寧に、いろいろな配慮が必要だったかもしれないと省みることもあります。私もこれからもっと学び続けないといけません。しかし、誹謗中傷がとにかく多い今、あまり考えられず、批判を聞くのがつらい時もあります。



元「SEALDs」の福田和香子さんがネット上の投稿者を特定し、損害賠償が認められた裁判の判決が最近ありました。記事のヤフコメ(ヤフーニュースのコメント欄)のほとんどが「誹謗中傷はよくないのはわかる。でもあなたのやり方はおかしい」と書かれていました。「バリアフリー化は進むべき。でもあなたのやり方は間違っている」という私への批判とそっくりでした。



声を上げた内容ではなく、言い方ややり方を批判するトーンポリシングが散見されます。





●「味方」とは、「一緒に社会をよくしていくような仲間」のこと

――反響のあったブログで、伊是名さんが「味方を増やし」と書きました。ここでいう「味方」とはどういう意味ですか



「味方」という言葉の反対には、「敵」というイメージがあって、私をわざと戦わせるような構図につなげてしまった可能性があるかもしれません。



しかし、ここでの「味方」とは、「アライ」と呼ばれる障害者の理解者のことです。アライになるのは時にはつらいこともあります。たとえば、歩ける人は、自由に電車に乗れる特権を持っていますが、普段はそれに気づきません。



しかし、私のような車イス利用者は、介助をしてくださる駅員さんの人数や、駅を使う車イス利用者の数で、乗車まで待たされる時間が変わってきます。



車イス利用者から見ると、歩いている人には特権があるのです。その特権に気づくと同時に、差別の構造や、自分が誰かを差別していたと気づくわけですが、それはとてもつらいことだと思います。



一方でけがをしたり、子育てをしたりするときに、特権を失うこともあります。高齢者になれば、元気だった自分はいかに特権を持っていたことかと気づくでしょう。だから、いろいろな人にとって生きやすい社会を、一緒に目指したいのです。



そして特権を持っているか、持っていないかは、いろいろな場面、視点からみることができ、とても複雑です。私自身も、電車に乗る特権は持っていませんが、学歴から見ると特権を持っていて、差別に加担していることがあるので、特権を持っていない人に寄り添いたいと思っています。



想像力を働かせ、いろいろな人が生きやすい社会を築くため、お互いに支え合いたい、という意味の「味方をふやしたい」と言う意味です。決して、敵と味方と分けるつもりでは使っていません。



●労働環境や政策の問題と混ぜてしまうから、ややこしくなる

――5月28日に障害者差別解消法の改正法案が国会で成立しました。3年以内に施行される と、民間の事業者による合理的配慮の提供が「義務」づけられます



改正法が施行されて、実際にどれだけ事業者に拘束力があり、どれだけ事業者が本気で取り組むのか。改善を願っています。



私が批判を受けているような、「電車に乗る時に車イスなら待たされても仕方ない。事前連絡も当然だ。我慢するべきだ。わきまえたほうがよい」などの考えは、本人が頑張って障害を克服しようという古い考え方(医学モデル)がもとになっています。



しかし、日本が批准している障害者権利条約では、障害は個人ではなく、社会の側にあるという「社会モデル」と言う考え方に基づくものです。整っていない社会を変えていくことで障害を取り除けるという「社会モデル」の考えです。



よって車イスの人が階段しかない駅や無人駅で電車に乗れないことは、条約批准国の日本では差別だと言えます。



バリアフリーが整ったことが前提で、さらに障害者からの申し出をうけて、事業者側がより個人に合わせて提供するのが、合理的配慮です。しかし日本では社会モデルの考え方や、バリアフリーそのものといった、合理的配慮をする前の土台が整っていない現状があります。



個人の申し出に対応する駅員さんの負担が重い場合もあることはよくわかっています。私は駅員さんを責めているわけではありません。



しかし、交通の現場からの意見として、経費削減、人員削減がおこっている現状では、バリアフリーが整っていないことは仕方ない、合理的配慮の提供が難しいことがあっても仕方ない、というのは問題のすり替えではないでしょうか。



頑張っている従業員に負担させられないとか、バリアフリー対応にお金がかかるという意見がありますが、それは障害者の問題ではなく、労働環境や政策の問題です。駅員さんの働きやすさのためにも労働環境や政策が整えられることを切に願います。



一方でバリアフリー化をすすめて、みんなが便利な社会にしようという思いは、誰しも共通しているはずです。難しくする必要は全くないのに、労働環境や政策の問題と障害者が置かれている状況を混ぜ、時には問題をすり替えてしまうから、ややこしくなってしまうのではないでしょうか。



●心のバリアフリーだけではなく、移動の権利がほしい

――国交省では、駅の無人化におけるガイドラインの策定が、障害者当事者団体とJR東日本も含む鉄道事業者の話し合いによって進められています。どのような展開を期待していますか



全体の流れとしては、合理的配慮についてよい方向に進んでいます。



国交省鉄道局鉄道サービス政策室から4月14日、各地方運輸局を通じ、全国の鉄道事業者に向けて、来宮駅での介助を求めた利用者に乗車拒否として受け取られる事象が起こったことへの改善を求める注意喚起の連絡がなされました。



私は障害者の代表ではなく、ひとりの当事者として声をあげています。障害者の生活の理解を広めて、いろいろな人が生きやすい社会を目指すのが理想です。



しかし同時に、今日は理解のある駅員さんにあたったから、特別に電車に乗れた、今日は駅員さんの人数が少なくて乗れなかった、という不安定な現状をなくしていきたいのです。障害のない人による障害者への理解次第で乗車できるかどうかが決まる現状を、変えていきたいのです。理解を促し、心のバリアフリーを広め、アライを増やすのと同時に、障害のある人の移動の権利がより守られることを願います。





●JR東日本は障害当事者の意見も参考としていく

以上が伊是名さんの一問一答のインタビューだ。



ちなみに、国交省では「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関するガイドライン」が取りまとめられる予定だ。ガイドライン策定に向けて、JR東日本社内で、どのような取り組みがなされているのか聞いたので、最後に紹介したい。




〈国土交通省主催の「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者・国土交通省の意見交換会」に当社も参加しており、同意見交換会の中で国土交通省が示した指針策定に向けたスケジュール案については承知しています。



これまでも、お客さまのご利用状況も踏まえながら駅の運営体制を検討し、無人駅における障害者の介助については可能な限りの対応に努めてきたところですが、事業者の置かれた環境もご理解いただきつつ、障害をお持ちのお客さまにご利用いただくために事業者として努力できることについて、現実的対話、建設的対話を行っていきたいと考えております。



これまでも、マニュアルなどを用いた社員教育を継続的に行うとともに、通年で「声かけ・サポート」運動等を実施しています。



また、介助技術やホスピタリティマインド、心のバリアフリーを学習するサービス介助士の資格取得を2005年より推進しており、2019年度から全系統の新入社員に取得講座を受講させています。その中で合理的配慮の提供についても触れており、障害当事者から直接話を聞くプログラムも実施しています。



今後も共生社会の実現に向け、引き続き障害当事者の意見も参考とし、ソフト面では障害者差別解消法の改正もふまえ、「合理的配慮の提供」の理解促進などに取り組み、より快適で安心してご利用できる公共交通機関を実現してまいりたいと考えています〉




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(6月21日13:36追記  国交省から出された「通達」に関して、訂正しました。訂正前の文章:国交省から4月14日、各鉄道会社宛に、来宮駅での介助を求めた利用者に対して、乗車拒否として受け取られる事象が起こったことへの改善を求める注意喚起の通達が出されました。)