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コロナ禍で客層が荒れ、本番強要のあらし…立川事件「風俗嬢には何してもいい」の背景

2021年06月16日 17:31  弁護士ドットコム

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6月1日、立川のラブホテルでデリバリーヘルス店勤務の女性と彼女を助けようと駆け付けたスタッフが19歳無職少年に殺傷された事件。女性は70カ所以上刺され死亡、男性スタッフも一時は危険な状態だった。


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女性が部屋に入った直後「盗撮です。来てください」と助けを求める電話があったという。少年は「風俗業の人間はいなくていい」と供述していると報じられた。



日常的に素性もよく分からない男性と密室で二人きりで過ごすデリヘルのキャストにとって、この事件は自分たちの仕事がいかに危険に晒されているかを浮き彫りにしたに違いない。



事件についてどう感じたのか、ふだんの仕事で危険を感じることはどれだけあるのか。現在もデリヘルで仕事を続けるキャスト2人に話を聞いた。(ライター・谷寛彦)



●「危険を感じるのは日常茶飯事」


「私たちって何されてもいいって思われているんだなっていうのが率直な感想です」




いくみさん、年齢は40代後半。デリヘル歴は10年以上になる。現在は埼玉県内の店を2軒かけ持ちしている。




「ツイッターを裏アカウントで8年以上やっています。すると『お金をもらっているんだから文句を言うな』というような意見を男性からも女性からももらうことが多いんです。直接的な言い方ではありませんが。



男性はお客さんの立場なのでまだ分かるんですが、女性の多くはいわゆる〝昼職〟の人。そういう人たちから見ると私たちは最底辺の人間なんですね」




いくみさんは精神疾患のために昼職の仕事を辞めざるをえなくなった経験がある。ハローワークでは障害者枠で仕事を探しても精神疾患だと断られるか、最低賃金すれすれの給与の仕事しかなかった。



二人の子供を抱えたシングルマザーだったいくみさんは親子三人食べていくために風俗の仕事を選び、それを蔑む人がいることを感じながらも働き続けてきた。




「危険を感じることはありますよ。『やばい』のレベルはいろいろですが、日常茶飯事です」




多くは本番強要だが、酔っ払った70代の客に縄で縛られたうえに乱暴されたり、まともに会話が成り立たない客から、肛門性交も本番強要もされたあげく下着をよだれでベトベトにされ、気持ち悪いのを我慢して履いて帰ったこともあった。



●「店には期待しない」「自分の力で何とかするしかない」

だが、それでも実際にトラブルになった例は少ないという。それは「何かがおこらない」ように細心の注意を払っているからなのだ。実際に何かが起こってしまっては手遅れなのだといくみさんはいう。




「言葉尻にはとくに気を配りますし、どんなに気持ち悪いお客さんでも常にニコニコしているように心がけています。何かあっても助けには来てもらえないですから。助けに来てくれるという話を聞いたこともない。



片道30~40分かかる場所も多いので距離的に絶対無理なんです。送って来たドライバーさんも待っていてくれるとは限りません。だから自分の力で何とかするしかないんです。お店にはまったく期待していません」




店側からは「何かあったら店に電話しろ」とは言われているそうだが、「そうすれば助けに行くから」と言われたことはない。



現在在籍するお店では同僚の女性たちと同じ部屋で待機しているため、話す機会も多いそうだが、事件については軽くふれた程度だったという。




「本番強要とか盗撮は日常茶飯事なので、あまりにあるある過ぎて今さら話題にもなりません。もちろん、怖いので事件の話には触れたくないというコもいると思います」




彼女たちにとって立川の事件は、軽い気持ちで話題にできるほど、他人事では済ませられないのだろう。



●「コロナ禍で客層が悪化」さらにハードな女性も


「『お金を払えば何をしてもいい』という風潮は悲しいぐらいお客さんから感じます。私がいた1年で警察沙汰になったトラブルが7件ありました」




九州地方のとある都市で働くエマさん(21)の環境はさらにハードだ。彼女が働いているのは「ここで頑張れれば全国どこへ行っても通用する」と言われるほど競争が激しい土地柄。九州ならではの男尊女卑の風潮もお客の態度の大きさに拍車をかける。



エマさんは年間数百万円の大学医学部の学費と生活費のためにこの業界に入った。コロナでそれまでやっていた家庭教師などのアルバイトがなくなってしまったためだ。だが、コロナの影響はデリヘルの客層にも影響を及ぼしていた。




「緊急事態宣言期間は格段に客層が荒れます。第一波のときはとくに酷かったです。やっぱりちゃんとしたお客さんは外出を自粛するんですよね。5本ついたら5本とも本番強要だった日もあります」




エマさんは勤務初日から警察沙汰に遭った。本番を強要されたうえに暴行を受けたのだ。捕まった客は生活保護を受けていたため示談ができず、警察に突き出すことになったという。



緊急事態宣言下では「夜のお客様は全員が本番強要してきてもおかしくない雰囲気」だったそうだ。あまりにハードな日々に客の部屋のドアベルを押す手が震えてしまうこともあったほどだった。




「これまでのトラブルの中でも酷かったのは大学生二人組のお客に無理やり押し倒されて無理やり本番をさせられたときでした。



二人がかりで押さえつけられ、馬乗りになられて顔が鬱血するぐらいまで首を絞められました。一歩間違えていたら殺されていた気がします。



たまたま誤作動でアラームが鳴って、それで相手がわれに返って絞めるのを止めたんです。しばらく仕事を休まなければならないほどのケガでした」(同前)




エマさんは警察に訴え出たものの、犯人は未だに捕まっていない。現在弁護士に相談しているという。



●問題客の取り扱い、店と温度差も

いくみさんの店と違ってエマさんの在籍する店では問題を起こしたお客に対してある程度対応はしてくれるようだ。ただし、スタッフが駆けつけるまでキャストは客を逃がさずに一緒に待っていなければならないという過酷なミッションが課せられる。




「スタッフが到着するまで早くても10分はかかるので、刺そうと思えば全然刺せますよね。強姦魔と10分間同じ密室にいろって言われても怖いです。



最近私がやったのは、違反行為をしたお客様の服を全部お風呂に沈めたんですよ。そうしたら逃げられないから。その状態で部屋の外で待っていました。それぐらいしないと身の安全を守れないですよね」




だが、問題を起こした客やその行為に対する認識はスタッフとキャストとの間ではけっこうな温度差があるようなのだ。エマさんは言う。




「プレイ中に身の危険を感じてヘルプコールをして退室したことがあったんです。そうしたら『プレイ時間が短いから』とバックを半分にされたんですよ。だって怖かったんですよ、と言ったら『そういうこともありきの商売だから』と。お店的にはそういう認識なんだな、というのを感じました。



お店としては残ったお金で残り時間別のコをつけたいんです、そのお客さんに。そうすれば次につながるからって。でも女のコが身の危険を感じるようなそんなお客さん要りますか? お店的には売り上げファーストで、どうしても女のコの安全はないがしろにされているのかなっていう印象を最近は持っています」(同前)




立川の事件が起きても、特に店のスタッフの反応はなかった。安全面で何か取り組む様子もない。エマさんは現在移籍も考えているという。



●「立川」で女性に迫る客も…

日ごろのトラブルの多い場所柄だけに、今回の事件の影響もいくみさんのケースよりも深刻なようだ。




「私の周りでも出勤を取りやめたコ5~6人います。デリとソープを掛け持ちしているコだったら、ソープ1本にしちゃったコもいます。



あと、名前が出たことに関しては皆言ってましたね。源氏名でわざわざ名前を隠しているのに、何で配慮がないんだろうねって。風俗に限らず被害者の顔と名前がバーンと出る今の報道ってどうなんだろうと思います」




また、客の中には立川の事件を逆手にとって本番を強要する不届きな輩もいるという。




「お客さんで〝立川〟というワードをやたらと出してくる人がいるんですよ。例えば本番を断ったら『立川の事件、怖いよね』みたいなことを言う。そんなクズなお客さんが、私が会っただけで2~3人はいました。



『えっ、刃物持ってるの?』と聞くとニヤニヤして『で、エッチできるんだっけ?』と言ってきたり。それで本番行為が断れないコが増えるんじゃないかという気がしています」




一般に風俗店での本番行為は禁止されているし、嫌がる女性に迫れば、強制性交等罪などに問われる可能性もある。



「風俗の人だから何をしてもいいと思った」というのは容疑者少年だからこそ発した特殊な言葉ではなかった。デリヘルのキャストに客として接する男性の多くが、そして風俗の仕事を色眼鏡で見ている昼職女性の多くが、「風俗の人には何をしてもいい」という意識を心のどこかに抱えているのかも知れない。



そしてデリヘルで働く女性たちはそのことを感じながらも、現在の危険な職業を続けなければならない事情がある。事件の背景は思ったよりも根深い。