2021年06月15日 10:01 リアルサウンド
「トーチweb」で2019年4月から配信されている『自転車屋さんの高橋くん』。SNSで人気を呼び、第10回ananマンガ大賞準大賞受賞も受賞している。
飯野朋子(通称パン子)30歳の悩みはなかなか本音が言えないこと。上司からのセクハラに強く言うことができず、同僚からの誘いも断れない。そんなパン子が出会ったのはヤンキー風の年下の青年・高橋遼平。近所の自転車屋さんで働く彼とふとしたことがきっかけで距離が縮まっていき……。
ネガティブなアラサー女性とヤンキー風青年のピュアなラブストーリー、と聞くとある意味王道のようにも感じるが、王道とはまたひと味異なる、抗いがたい魅力を放っている。
■自分に嘘がつけない高橋くん
高橋くんは考えるよりも先に、心で感じたことを口に出してしまうし、手も出る。見た目も明らかにヤンキーなので、ごく普通の朋子からするとつい腰が引けてしまう。
高橋くんはそんなことは承知の様子だけれど(おそらく、そういう反応をされるのに慣れている)、気にせずグイグイと朋子にアプローチしていく。そんな高橋くんのことを朋子は距離が近いし、ちょっと怖いと思うが、不思議と嫌ではない。
高橋くんからすると、自分を殺して、我慢をして誰かに合わせることなんて信じられないことだし、そのせいで好きな人が苦しんでいるのが許せない。だから、高橋くんはそう思っていることを隠さない。正論は時として乱暴だけど、人の目を覚まさせる。
■「ヤンキーなのに優しい」ギャップはずるいのか
雨の日にヤンキーが捨て猫に傘を貸していたらその姿にキュンとしてしまう、というのはこれまでにもよく見てきたシーンだろう。「ヤンキーなのに」と枕詞がつくとそのギャップにグッと来るわけだ。でも、最近そんなシーンを見ると、「人を見た目で判断するな」という言葉に逆行していっているのでは、という不安に駆られる。
人の中身は見た目に出るというけれど、ヤンキーというのはあくまで格好の話である。金髪にしたければするし、ピアスをたくさん開けたければ開ける。
朋子の周りの人は、朋子が高橋くんとつるんでいることをよく思わない。それはヤンキーだからだ。最初は朋子だって気おくれした。でも、次第に反論できるようになっていく。高橋くんはいい人だから。「ヤンキーなのに優しい」でキュンと来るのは、単純に先入観だけで判断してしまった過ちから来た勘違いなのではないか。
■優しくするのは自分が優しくしたいから
高橋くんが好きな子にだけ優しいタイプだったらまた違ってくるのだが、誰にだって優しい。自分に攻撃してこなければ、ではあるが。ベタに荷物を持っているおばあさんに手を貸してあげる、ということをサラッとやってのける。中には、おばあさんが大変そうなのも気がつかない人もいるだろうし、気がついても申し出を断られたら恥ずかしいと思う人もいるだろう。逆に手を貸したことで周りからよく見られたいという人もいるはずだ。
でも高橋くんが助ける理由は「目の前に困っている人がいたから」。朋子がセクハラ上司に絡まれていたときは、上司を断罪するのではなく、朋子を助ける。好きだから好きっていうし、嫌いだったら嫌いだって言う。
人の気持ちはシンプルなのに、大半の人はその気持ちに理由をつける。理由をつけるから、警戒もしてしまう。ネガティブな朋子も「良いように利用されているのではないか」と不安に思う。けれど、高橋くんは嘘をつかない。それを知ったから、朋子は救われた。シンプルな気持ちは人を救う。
(文=ふくだりょうこ)