ホリエモンこと堀江貴文氏の新著『やりきる力』(学研プラス)が先月発売された。言わずと知れたライブドア元代表取締役CEOで、刑務所に収監された辛い過去も持つ。最近はロケット事業などを成功させ、作家やミュージカルプロデュースなど幅広く活躍している
まさに経験の宝庫といった著者が、人生で成功するために必要なのは「やりたいことを好きなだけ、『やりきる力』だ」と伝える本である。
文章は著者の声が聞こえてくるようなストレートな語り口調でわかりやすく、厳しいながらも前向きになれる言葉をバンバン繰り出してくれる。先が見えない時代、閉塞感を抱える若者にとって、きっと背中を押してくれる一冊になるはずだ。(文:篠原みつき)
「やりきる力」を阻害するものが"まったく無い"のがホリエモン
タイトルは『やりきる力』。だらだら長い題名の本が多い中、2秒で考えたのかなと思う何のひねりもないシンプルさだ。しかしそれが悪いというわけではなく、結局これが、堀江氏が強調したいことだろう。
「絶対にあきらめないで、ひたすら愚直に、やれることをやりきる!そうしなければ夢は叶わないし、心の底からやりたいことにも、出会えない。世間のイメージ的には、ホリエモンは成功するための上手いコツとか、ショートカットの方法を知っているように思われているけれど、実際は、驚くほどに何のひねりもないことしかやっていない。僕のやっていることは、ものすごくシンプルだ。とことんやりきる、と覚悟を決めて、めちゃくちゃ努力しているだけだ!」
例えば、初めてのミュージカル出演で「嫌になるほどダンスが下手くそだった」という堀江氏は、共演者だった20歳そこそこの女優・寺田有希さんに教えを願った。寺田さんは、「超有名な起業家の堀江さんが、10歳以上も年下の私なんかに素直に頭を下げてくる」ことに感心したという。
だが、堀江氏は「上手い人に教えてと頭を下げるのは当たり前じゃないか?」とこともなげに語る。つまらない見栄やプライドで、下手くそのまま成長しないで歳だけ取って行くほうが、よほどバカにされるという。確かにその通りだが、そんな当たり前ができない人は少なくないだろう。
本書を読むと、「こう思われたらいやだ」という自意識過剰なプライドや、「失言がこわい」などの恐れが、発信や行動力、アイデアの創出や新しいチャレンジを邪魔することが分かる。そして、堀江氏にはこうした「邪魔要因」がまったくないことにも気づく。しばしば発言が炎上して世間から厳しい目を向けられてしまう堀江氏だが、「やりきる力」を阻害するものがないからこそ、自分の成長を止めず、様々な新しいビジネスを生み出し、成功させることができるのだろう。
読んだときには熱くやる気になるが、すぐに行動できる人はごくわずか
アマゾンレビューの評価は4.3と高く、「なんか勇気湧いてきました」「行動大事」など、やる気が出た人は多いようだ。とはいえ、堀江氏の著書は200冊を超えるというだけのことはあり、本書の内容はこれまで彼が何度も伝えてきたことも多い。一部を挙げれば次のような言葉だ(要約)。
・好きなことをして生きて行ける時代
・人生の貴重な時間を会社に取られるのはもったいない
・ネットで人脈づくりも資金づくりもできる
・能力よりスピード重視。悩んでいる時間はムダ
・人間関係は、一緒にいて楽しい人とつきあう。裏切られても恨まない
・失敗はストーリーづくりと思い、数をこなせ
・持ち家信仰を否定
・学歴、大学は不要
・睡眠をおろそかにするな
堀江氏の本を読んだことのある人にとっては、初めて聞く話ではないだろう。ただ、こうした自己啓発的な本は、読んだときには熱くやる気になるが、それですぐに行動できる人はごくわずか。堀江氏はそれを良く知っていて、他の著書では、僕の本を読んですぐに自分を変えて行動できる人は1%程度ではないかと語っている。
今回も、私を含めた99%の人に向けて、地道に「やりきる」ことの大切さを伝えてくれた堀江氏。彼の本が売れなくなるときは、世の中が「やると決めたらやり通す」「思い付いたら即実行する」という人ばかりになったときだろう。