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コロナのコールセンターは地獄…やり場のない怒りが殺到、非正規の女性スタッフが疲弊

2021年06月13日 09:31  弁護士ドットコム

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コロナ禍では、単に生活が不便になったというだけでなく、生命や財産の危機に直面したという人も数多い。それゆえコロナ関係の窓口には、やり場のない不満がぶつけられがちだ。


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派遣社員として持続化給付金やGoToトラベルなどのコールセンターで働いてきた高橋一子さん(仮名・50代)は、「怒鳴られるのは日常茶飯事。1時間を超えることも珍しくなかった」と明かす。



マニュアルや研修が不十分なこともあり、相談者から怒鳴られ、メンタル不調で多くの同僚が辞めていったという。補充の人員も長続きはしない。言葉通り、非正規雇用の労働者がすり減り、使い捨てにされるような職場だ。




「コールセンターでは通算5年ほど働いて、ある程度慣れている私でもお腹をこわす回数が増えたり、朝起きられなくなったりしました。時給自体は良かったけれど、それでも割に合わなかったです」




最近では、コロナワクチン関連のコールセンターでも労働者が疲弊していると報じられている。非正規の女性労働者が多いとされるコールセンターの労働実態を聞いた。(編集部・園田昌也)



●「馬鹿野郎」1時間以上も罵倒

高橋さんが昨夏働いていた持続化給付金のコールセンターでは、同じタイミングで働き始めた同期が約20人いた。ところが、1カ月後には片手で数えられるだけになった。多くはストレスが原因だったとみられる。



この職場では、給料にこそ反映されなかったが、受電本数にノルマがあった。1日8時間のうち、相談内容をデータベースに入力する時間以外は、電話応対に忙殺される。怒鳴られることも珍しくなく、多くは中高年の男性からだったという。




「いろんな規則があるので、伝えられない情報もある。『なんで答えられないのか』と押し問答になることが多いです。『馬鹿野郎』などと1時間以上罵倒されて、『上司を出せ』と言われたこともあります。



オペレーターは女性比率が高いのですが、高圧的な態度をとられやすい気はしますね。男性のSV(スーパーバイザー/現場監督)が電話を代わってくれると、トーンダウンすることも多いんですが…。ここでは滅多に代わってくれませんでした」




「現場監督」と言っても、この職場ではSVも派遣社員だったという。



●ぶつけられる感情は「怒り」だけじゃない

もちろん、女性から怒鳴られることもある。




「お孫さんが持続化給付金の不正受給をしていたみたいで、返還の手続をしたいと。こちらが警察との連携が必要で、時間がかかると言っても『なんで早く対応しない』と1時間半くらい怒鳴られました」




こうした顧客からの暴言や無理難題、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」的な内容であっても、電話を切ってはならないとされているため、オペレーターは疲弊していく。




「メンタルに来るのは直接的な暴言だけではないんです。自分が一番こたえたのは、年配の男性経営者の『給付金が入らないと死ぬしかないんだよ』という切実な電話でした。これはずっと記憶に残っています」




このほか、コロナ政策への批判を聞かされたこともあるという。これで時給は1450円。




「時給自体は良いのだけど、それでも割に合わなかったですね。ただ、当時は緊急事態宣言で派遣の仕事がなくなったので、辞めるわけにいかなかったんです」




●見切り発車の施策、現場にしわ寄せか?

高橋さんは秋になって、GoToトラベル関係のコールセンターで働くことになった。ただ、この仕事には研修段階で違和感があったという。




「想定問答集がしっかりしていませんでした。マニュアルも100ページほどあったのですが、研修は2日だけ。とてもじゃないけれど、全部は目を通せない。見切り発車で始めたキャンペーンなんだなと思いました」




勤務中に余裕があれば、空いた時間で自習することもできるだろうが、ひっきりなしに電話がかかってくれば、それもかなわない。



研修のときには10人ほどいた同期も、次の日にはおよそ半分になっていたという。




「入電対応が始まり、SVにサポートを頼んでも、人によって回答が違ったり、放置されたりしました。分からないのはオペレーターの勉強不足だとバカにするような人も多く、雰囲気がすごく悪かったです」




コールセンターでは、外部からの理不尽クレームだけでなく、内側からのパワハラも珍しくないという。時給は1500円だったが、交通費はなし。高橋さんもほどなく見切りをつけた。



「頑張ると言っていた知人も、胃潰瘍になって1カ月しかもちませんでした」というから、その過酷さがうかがえる。



●「精神的なケア」ほしかった

コロナ関係のコールセンターで勤務してみて、高橋さんは次のように話す。




「なんでもオペレーター任せにするのではなく、酷いときは上の人が対応してほしい。



理不尽な暴言を吐かれても、相手が悪かったのだと確信できず、自分の対応に問題があったのではと感じてしまう。精神的なケアであるとか、フィードバックをもう少し細やかにやってもらえたら…」




●「クレーマー」よりも問題にすべきは…

個人加入できる労働組合「総合サポートユニオン」の青木耕太郎さんはこの1年、コールセンターで働く人の相談を数多く受けて来た。




「ネットの誹謗中傷と一緒で、コールセンターは元々、相手と顔を合わせていない分、言葉が強くなりやすい面があります。



しかも、コロナ関連のコールセンターは、ほとんど蓄積がなく、急造でやっているため、オペレーターと相談者がぶつからざるを得ない」




もともとコールセンターは理不尽なクレームを受けやすい職場だが、今回は相手が切羽詰まっていたり、センターの体制が不十分だったりすることから、労働者が受けるストレスがより深刻化している。




「暴言を吐く相談者は確かにいますが、労働者とクレーマーという対立構造で考えるのではなく、なぜ対立構造ができるのか、という視点が必要だと思います。



雇用主による労働者へのフォロー体制の不備はもちろん、国がコロナ関連の窓口を民間に『丸投げ』しており現場の疲弊をきちんと把握し対処していないことが問題だと思います」




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