「ボイストレーニング」というと、歌のレッスンを想像する人も多いが、最近は仕事目的で通う人もいるという。 『相手に「伝わる声」の出し方』(あさ出版)を上梓したボーカルトレーナー、田中直人さんは、
「ボイストレーニング指導を始めて今年で26年目ですが、ここ10年で"ビジネスボイトレ"に興味を持つ人が増えましたね。レッスン受講生の2割がビジネスボイトレ目的で参加しています」
と話す。"話すためのボイストレーニング"で、何が変化するのか。田中さんに話を聞いた。
ボイトレをしてプレゼン成功した人や、自己最高売上を記録した人も
ビジネスボイトレの受講生は男性が多く、「プレゼン力が足りない外資系企業勤務の方や、相手に伝わるスピーチがしたい経営者といった人が増えています」と話す。
「女性で壊滅的に話すことや歌うことが苦手という人は、あまりいません。力まずに柔らかい声が出せるからだと考えています。一方、男性は"体を強く使う"ことに長けています。特に元運動部だと、大きな声は無理やり出すもの、と力んで声を出そうとするんですよね。それが自然な発声を妨げる要因になっているんです」
力が入りすぎている、呼吸が浅い、喉で喋っている、舌がかたい、表情が動かないなど、課題は人それぞれだ。個人個人に合わせたレッスンを行う。
聞きやすい声にはフィジカル(呼吸・姿勢・支え)、テクニック(音程・リズム・音量)だけでなく、メンタル(自信・笑顔)も重要だ。その中でも「まずはメンタルです。聞いてくれる相手に対して感謝の気持ちを持つよう伝えます」と話す。
「相手が聞いてくれないと"伝える"ことは成り立ちませんから(笑)。そして自信を持って笑顔でいること。その上で、呼吸や姿勢、話し方の強弱や音程などを意識して話す練習をします。でも突然『それをやって』と言っても出来ないので、体に馴染むようレッスンしていきます」
田中さんは「営業成績は声で決まると言っても過言ではありません」と話す。実際、ボイトレを受けた結果、プレゼンで有力競合他社を退けて受注に成功した人や、テレビショッピングで本人史上最高の売上をマークしたという人もいる。
デキる人だと思われる声は? 伝えづらいことを伝えるのに適切な声は?
初対面で「デキる人だ」と思われたい場合は、ゆっくり落ち着いて笑顔で話すことを意識する。「話し方や声のトーン、リズムを相手に併せたり、三度上下の音程でハモるように話したりするのもいいですね。相手が心地いいと思う音量を心がけてください」と説明する。
一方、相手のテンポが早すぎる場合は、あえてゆっくり話すことで自分が舵を取ることが有効だという。また、伝えづらいことを言わなければいけない時は、相手を思いやることが重要なようだ。
「これは声というより話す順序なのですが、まずは相手を褒めるなど"あなたを尊重しています"ということを伝えた上で、本題に入ります。その際、優しくゆっくり、柔らかい声で伝えてみてください。"これを言われたら相手はどう感じるか"を考えて話してください」
テレワークなどでオンライン会議も増え、相手に思ったように伝わらないとストレスを感じる人も多い。伝える際は、相手に配慮する気持ちを持った上で、効果的な"伝わる声"で話してみるのもよさそうだ。
■書籍情報
『相手に「伝わる声」の出し方』
著者:田中直人
価格:税込1540円
発行:あさ出版