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『呪術廻戦』「渋谷事変」が終結し、物語は「死滅回游」編へ 最新16巻は伏線が詰まった一冊に?

2021年06月11日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 6月4日、『呪術廻戦』のコミック16巻が発売された。発売前にから期待は大きく、公式も特設サイト「渋谷事変之景」をオープン。渋谷事変を五條悟、伏黒恵、釘崎野薔薇、虎杖悠仁4人の視点で時系列に振り返ることができるようになっていた。


※本稿には『呪術廻戦』最新16巻のネタバレを含みます。


 ファンたちの期待を一心に背負って発売された16巻では、10巻から続く渋谷事変が終結。偽夏油傑の正体も、加茂家の汚点であり史上最悪の呪術師・加茂憲倫であることが明かされている。とはいえ、「加茂憲倫も数ある名の一つにすぎない」存在で、脳を入れ替えることで他人の身体を乗っ取り、長い年月を生きてきた「羂索」こそが黒幕だ。


 「羂索」に関して本格的な説明があったのは『週刊少年ジャンプ』本誌145話であるが、16巻の扉絵で夏油のイラストに「羂索」と記されており、作者側も読者に共通認識として知っていてもらいたい事実なのかもしれない。


 そして、同作における全ての事象の黒幕として羂索は今後も登場するはずだが、夏油の姿で登場するのかは定かではない。同作では主要キャラであっても躊躇なく死亡していくため、もしかすると夏油の姿を見られるのもこれが最後……という可能性すら感じてしまう。


 偽夏油が獄門彊を持って姿を消したことで、一旦の幕引きとなった渋谷事変。16巻では、その次に描かれる新章「死滅回游」の序章が描かれている。そして、「死滅回游」が始まるにあたり欠かせないキャラたちが久しぶりに登場した。まず、渋谷事変の終盤で登場したのは九十九由基。東堂葵の師のような存在の彼女もまた、初対面時男性に女性の好みを聞いてくる。虎杖、脹相、西宮桃に裏梅の攻撃が当たりそうになった瞬間、「久しぶりだね 夏油君 あの時の答えを聞かせてもらおうか どんな女が好みだい?」と飄々と登場した場面では、彼女の実力の高さが伝わってくる。完全なる味方ではないものの、人類が呪力から脱却する未来を実現するため、高専側に付いた彼女はその後のストーリーにも関わってきている。


『呪術廻戦 東京都立呪術高等専門学校』0巻(集英社)

 そして、0巻である『東京都立呪術高等専門学校』から一度も登場していなかった、都立呪術高専2年でながら特級呪術師である乙骨憂太は、渋谷事変の幕引き後に登場。本誌を読んでいる方はご存知だろうが、とある事情があって虎杖の死刑執行人として現れた。ひどい隈と、目のハイライトが消失した姿は0巻の頃とは別人のよう。海外にいる間に何があったのか、非常に気になるところだ。しかし圧倒的強さは健在で、虎杖を着実に追い詰め、最後のページでは虎杖を引きずっている姿があった。


 さらに、乙骨が現れた場所に居合わせたのは、禪院27代目当主(候補)の禪院直哉だ。「三歩後ろを歩かれへん女は背中刺されて死んだらええ」と言ってしまうほどの清々しいクズっぷりを発揮している彼だが、読者からは人気が高いキャラだ。「五條悟が死亡または意思能力を喪失した場合、(中略)伏黒恵を禪院家当主とし、全財産を譲るものとする」という父・禪院直毘人の遺言を聞いて激昂した直哉は、伏黒と虎杖を殺害するために虎杖のもとへ向かったというわけだ。この先、禪院家のお家騒動が勃発するのだが、直哉はそこで良い働きをしてくれるキャラクターだ。


 様々なキャラが登場した16巻だが、中でも、脹相の活躍っぷりが目覚ましい。虎杖と対峙した際、血の繋がった兄弟にしか感じることのない「死」の異変を虎杖から感じ取ったことがきっかけで、虎杖に対する「お兄ちゃんだから」という思いが爆発。「とりあえず1回呼んでみてくれないか お兄ちゃんと」、「流石俺の弟だ」と虎杖に言ってみたり、兄弟が嫌いと言う直哉に兄のあるべき姿を説いてみたり、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎よりも長男の業を背負っている状態になっている。これだけ注目集めた脹相だ、今後虎杖にとってのキーパソンになり、次章にも大きく関わってくることが想像できる。


 また、これは同作のそもそもの特徴なのだが、様々な事象が複雑に絡み合っており、注意深く読まなければ理解できない部分も多い。それにプラスして16巻では「どういうことだ?」という仕掛けも少なくない。例えば、「私もいい加減天元と向き合わないとね」という台詞から漏れ出る九十九と天元の関係性、虎杖が乙骨に刺された時に見せた宿儺の微笑、「里香ちゃん」から「リカちゃん」に変わった呼び名……などの謎は、この先の伏線になっていくのだろうか。全く気が抜けない漫画である。


 他にも、緊張感がある中にもフッと緩まるギャグが入っているのも見どころだろう。もしかすると、一度読んだだけではなかなか理解できないかもしれない。だが、何度でも読み返しても面白く、新たな発見ができる。『呪術廻戦』16巻は、そんなコミックと言っても過言ではない。