2021年06月10日 11:11 弁護士ドットコム
鳴き声やフンの処理などをめぐって、ときに深刻なご近所トラブルに発展しうるペット問題。弁護士ドットコムにも、隣人から「犬の鳴き声がうるさい」とクレームを言われたという女性が相談を寄せました。
【関連記事:親友の夫とキスしたら、全てを親友に目撃され修羅場 】
自宅で犬を10頭飼育している女性。20年前、犬を飼うためにわざわざ田舎に一軒家を建てました。家を建てた当時は「右も左も見渡す限り、田んぼ」でしたが、最近、隣に家が建ち、住人から「犬の鳴き声がうるさい」とクレームを受けてしまいました。
相談者は「最初から飼っている所へ引っ越してきて、文句を言われるのは心外です」と納得がいかない様子です。クレーム発生に伴い、保健所や警察が現場に来ましたが、特に指導はなかったそうです。
後から引っ越してきた隣人のために、防音対策をしなければならないのでしょうか。鈴木智洋弁護士に聞きました。
一般的には、犬の飼い主はその犬の鳴き声で他人に迷惑を掛けた場合は、動物の占有者として責任を問われることになります(民法718条)。
動物愛護管理法7条でも「動物の所有者又は占有者は他人の生命身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ又は人に迷惑を及ぼすことのないよう努めなければならない」と定められています。
過去の裁判例でも、犬の鳴き声がうるさいとして損害賠償を求めた事案で、裁判所が飼い主に対し、賠償を命じたものがあります(東京地裁平成7年2月1日判決・判時1536号66頁)。
この事案は、閑静な住宅街において被告の飼っていた4匹の犬が深夜及び早朝にわたり連日異様に泣き続け、被告飼い主が交渉にも応じなかったというケースです。
被告飼い主が防音設備を備えたことも踏まえた上でも慰謝料原告一人当たり30万円が認められました。
犬の鳴き声の違法性(不法行為の成立要件)については、受忍限度を越えたものが違法になると考えられており、その判断においては、その加害行為の性質・程度や被害の内容・程度、地域の状況、加害者側が被害を回避するためにどのような努力をしてきたか・その程度 その他の事情が考慮されます。
したがって、今回のケースにおいても、しつけの徹底、防音措置(多頭飼育者の責任として特に必要)、犬のストレス状態を発散する、夜間早朝は家屋内に入れる、等の方法を講じなければ責任を認められる可能性があります。
もっとも、今回のケースのように、相手方は田園地方で多頭飼育の家の隣で騒がしいことを十分認識の上引っ越してきたという事情も、犬の鳴き声の違法性の有無又は過失相殺(民法第722条第2項)において考慮されうる可能性があります。
ただ、基本的には住宅用地として一般に売却に出ていた土地である以上、それだけで犬の鳴き声の違法性がなく防音措置もしなくてよいということにまではならないと考えられます。
【取材協力弁護士】
鈴木 智洋(すずき・ともひろ)弁護士
専門は労働法(使用者側限定)、行政法(行政側限定)、動物法・ペット法。動物法・ペット法に関しては、ペット法学会に所属する他、国立大学法人岐阜大学応用生物科学部獣医学課程の客員准教授も務めている。
事務所名:後藤・鈴木法律事務所
事務所URL:http://www.gs-legal.jp/index.html