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伊藤沙莉が語る、自分を肯定することの大切さ 「肯定すると、いろんなことが広がります」

2021年06月10日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 9歳の女優デビュー以来、『ひよっこ』『これは経費で落ちません!』『いいね!光源氏くん』など数多くの作品に出演し、第一線で活躍する伊藤沙莉。TVアニメ『映像研には手を出すな!』では、コンプレックスだったと語る”声”を武器にして声優にも挑戦。そんな今最も旬な女優と言っても過言ではない、彼女が初フォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』(KADOKAWA)を発売した。


 本書は自身のコンプレックスや生い立ちのこと、家族や親友、そして女優業について……。過去から現在、そして未来、伊藤沙莉のすべてが詰まった貴重なエッセイに仕上がっている。そこで今回「リアルサウンド ブック」ではインタビューを企画。初フォトエッセイに込めた想い、これまでの人生を振り返って感じたこと、収録カット撮影時のエピソードなど、余すことなく語ってもらった。(編集部)








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――本書のタイトルがTwitterの自己紹介文とまったく同じ、というのが面白いなと思いました。


伊藤沙莉(以下、伊藤):これは、すぐに決まりました。もともとタイトルについては全然考えていなかったんですけど、編集者さんから「どうですか?」と提案していただいて。このタイトルが書かれたイメージ見本を見たときに、たしかに“伊藤沙莉の本”として、一番簡潔でわかりやすいなと思ったんです。実際、名前も「さり」って呼ばれること多いので、いろんな面でちょうどいいと思って、しっくりきました。


――エッセイを書くことになったときのお気持ちは?


伊藤:本当に突然、「本を書いてみませんか」というお話をいただいて、とにかく驚きました。しかも、「私が本を書いたら面白そう」と思ってくださったから、声をかけていただけたわけで。シンプルに嬉しいのと、私に書けるかな、みたいな葛藤でしたね。いや、葛藤まではいかないかな。


――ちなみに今、発売を控えて、どんなお気持ちですか?


伊藤:すごい……遠くへ行きたい。


――えっ(笑)。自信なくなっちゃいました?


伊藤:自信なくなっちゃいましたね……だんだん。ほぼ直しが入っていないんですよ。100%私の言葉が届くので、結構、緊張しますね……何をどう思われるんだろうって。


――ドラマや映画と違って、「これが伊藤沙莉です」と全面に押し出すわけですもんね。


伊藤沙莉

伊藤:そうなんですよ。性格がモロに出た文章の書き方をしているので、ぐちゃぐちゃなんです。だから、世の方々がどう思うのかも気になるし、自分の周りの人たちが、自分を知っているからこそ、どう思うのかっていうのはちょっと怖いところもありますね。


――文章をあまり直さないことも、こだわりですか?


伊藤:そうですね。微調整はしていますけど、やっぱり最初にポロッとこぼれたものが、きっと素直な思いなので、なるべく生かしたいなっていうのはありました。


――本を作る上で、“こんな本にしたい”という思いはありましたか?


伊藤:自分が書いたものを、必ず1回は声に出して読むことにしていました。たとえば映画やドラマには、ナレーションがあるじゃないですか。そんなふうに、この本に書かれている出来事が映像で流れているとして、そのナレーションが、この文章ではしっくりこない。というのは嫌だったんです。だから、一つの作品が頭の中で出来上がるように書いたつもりではあります。


――それは役者さんならではの感覚ですね。


伊藤:はい、初監督作品です。    


――公開が楽しみです! もともと文章を書くことに、苦手意識は特になく?


伊藤:いや、苦手意識まではいかないけど、書けるわけがないと思っていました。でも、よくよく思い出したら、私、小学校低学年くらいのときに、戦争の話をおじいちゃんにインタビューして書いた作文で『郵便局長賞』をもらったんですよ。なので、そんな過去もあったぜ! って。


――引っ張り出してきて?


伊藤:そう、引っ張り出してきて(笑)。何か1個でも自信をつけないといけない気がしたので、それを引っ張り出しました。あとは、お兄ちゃん(お笑いコンビ・オズワルドの伊藤俊介)が自粛期間中にずっとnoteを書いていて。それを読ませてもらったら、文章でここまで笑わせることができるって、面白いなと。まぁ、彼はそれが仕事なのであれですけど、自分に書く理由とか、意味とかを叩き込みました。


――今回、かなり自分をさらけ出す内容になっていますが、「書くからには!」といった思いがあったのでしょうか?


伊藤:こういうインタビューでもそうですけど、せっかく話を聞きに来てくださったんだから、なるべく他の媒体とは違うことを言いたいって思うんです。きっと本も一緒で、せっかく本を手に取って、私を知りたいとか、私に興味を持ってくださったのであれば、ここでしか見られない伊藤沙莉がないと、意味がないなと思って。「本当にありがとうございます」っていう気持ちも込めて、「代わりと言ってはなんですが、こんな一面もあります」みたいな。この本を通して、何かひとつでも与えることができればいいなと思いますね。


――役者さんの中には、プライベートは見せたくないという方も多いかと思います。


伊藤:いや~、私も基本的には嫌です。人間・伊藤沙莉に対しての感想は、ほぼ必要ないものだと思っています。それもあって、ちょっと作品っぽく書いたところもあるのかなと。


――なるほど、すごく腑に落ちました。


伊藤沙莉

伊藤:ありがたいのが、漫画とかもそうですけど、それぞれ自分が一番面白いと思う“間”で読むじゃないですか。きっとこの本も同じで、みんなが思い描く“伊藤沙莉”がまた一つできるわけです。「それを100%信じるかどうかは、あなた次第です」っていう都市伝説みたいな話になるんですけど(笑)、それでいいと思うんです。こういう一面もあるなら、こんな一面もあるのかなって、想像が膨らむきっかけになってもいいし。声がない分、みんなが想像した“伊藤沙莉の間”で読むから、それは一つ作品としておもしろいところかなって。だからこれは、文章っていう少しミステリアスなフィールドというか、世界観の中でしかできないこと。「言葉で語って」と言われたら、キツいなと思うところまで書いてるので、それを語る日はこれ以上は多分ないんです。なので、本当にここだけ。もう、これをきっかけにSNSを続けるか迷っているくらいなんですよ。すべてを出し切ったので、これ以上、私を知る必要はないんじゃないかなって。


――丸裸ですね。


伊藤:もう、すっぽんぽんです(笑)。


――今お話をうかがっても、本を読ませていただいても、伊藤さんの根底には「自分に正直に生きていたい」という思いがあるのかなと感じたのですが、いかがでしょうか?


伊藤:そうしていきたいっていう大きな軸があるわけではないんですけど、性分的に嘘はつけないんですよ。バレるんです、ついても……秒で(笑)。だったら、嘘をついて弁解する時間が無駄すぎるなと思っています。「喋りすぎ」とか、怒られたりもするんですけどね(笑)。


――(笑)。エッセイを書くにあたり、あらためてご自身の半生を振り返ってみていかがですか?


伊藤:面白いなって思いました。文章にすることで、今まで経験してきたすべてのことに、ちゃんと意味が生まれたようにも思います。その時はキツくても、時間が経って文章として読み返したときに“見応えのある人生”っていうのは、なんてありがたいんだろうと思いました。


――当時はマイナスに思えた出来事も、時が経てばプラスに捉えられることもある。という考え方については、エッセイでも触れられていますね。


伊藤:いろんなことの考察とか、葛藤の結末が、全部本に入っている感じです。だから、私の物事の捉え方とか、感じ方みたいなものは、なんとなく想像していただけるのかなと思います。


――エッセイを拝読して、伊藤さんの「自分が納得しないと前に進めない」という考え方が印象的でした。とはいえお仕事では、自分は納得していない芝居を相手から評価される、といったアンバランスも生じるのかなと思います。


伊藤:自分が思っていることと、他人が思ってることが違うっていうのは、面白いなと思いますね。それこそ、試写を観て「なんだこの芝居! もう逃げ出したい!」と思った後に「すごい良かったです」とか言われると、「え~、じゃあもう訳わから~ん」ってなるけど、そこでもがくのが楽しくて、この仕事を続けている部分もあるんです。納得したら、終わっちゃうから。やっぱりいろんな意見があるんだなって思うし、自分だけの意見が正しいと思い込むと、どんどんどんどんつまらない人間になっていく。どんどんどんどん周りの意見を吸収していくことで、もっと広い世界が見れるんじゃないかなとは思いますね。


――役者としては、納得しない方がいいと思う部分もある、と。


伊藤:それでも一応、納得するところまで持っていこうとするんですけどね。何で評価されたのかを知らないと、何もわからないままだから。もちろん知らなくていいこともあるんですけど、人に聞くっていうことをよくしますね。「なんでそう思ったんですか?」って。子どもみたいに「なんで、なんで? どうして?」みたいなことは、よくあります。


――今回、「声がコンプレックスだった」というお話もある中で、Amazonの予約特典が“朗読ボイス”というのも、お洒落だなと思いました。


伊藤:これまで本を出した経験がないので、特典についても全部提案していただいたんですけど、最初に聞いたときには「それ面白い!」って思いました。エッセイでも声について書いているし、やっぱり声で覚えていただけることも多いですし。私の印象として一番強いものを特典にするっていうのは、「たしかに」と思いましたね。


――そのような“声”に対する思いもそうですが、今作には「自分を肯定すること」についても書かれています。


伊藤:肯定すると、いろんなことが広がりますよね。やっぱり否定的だと、本当に何もできなくなっちゃうので。「これでいいじゃん」とか、「それはそれであなただよ」って自分の中で思ってあげると、次に進めるっていうか……納得と似てるかも知れない。前に進むために、無理やり肯定したこともあったし、肯定できるように導いてくださる方との出会いも多かったですし。だから、切り拓いていくとか、何か新しいことにチャレンジするときは、自分を一瞬でも肯定できたほうが、やりやすいかなって思います。


――お写真も拝見しましたが、今までに見たことのない表情がたくさんあって、とても素敵でした。


伊藤:あぁ~、嬉しい。これまで撮ってもらった写真の中で、自分が一番好きだった写真のカメラマンさんにお願いできたことも、本当に贅沢だなって思いました。エッセイの内容もそうですけど、結果として、今まであまり見せていなかった私が詰まった1冊にできたことが、すごくありがたかったです。


――お気に入りの1枚はできましたか?


伊藤:なんだろう……でも一番、自分を俯瞰で見ないようにしたのは、白い服を着てるときです。三つ編みしている写真なんですけど、かなり“かわい子ちゃん”な感じで撮ってくださったので、ちょっと油断すると「私は一体、何をやってんだろ」ってなっちゃうんですよ。だから、そうならないように「私は広瀬すずなんだ!」って思いながら撮りました(笑)。「かわいいんだ、私は!」って、だましだまし。


――自分を肯定して、ですね。このサイトは「リアルサウンドブック」ということで、ふだん本はお読みになりますか? 過去のインタビューで、松岡茉優さんからたくさん本をいただくというお話は拝読したのですが。


伊藤:そうなんですよ。松岡からもらった本がなかなか読めなくて、たまっていく一方で申し訳ないんですけど。この前、“殺されかけて、自分がドMということを知りました”みたいな漫画は読みました。なんちゅう本をくれたんだって思うけど、それはめちゃくちゃ面白かったです。お兄ちゃんも読んで、面白いって言ってましたね。


――とても内容が気になります(笑)。今はお忙しくて、なかなか本を読む時間も取れないのでは?


伊藤:家にはたくさん本があるんですけど、もともと集中力を持続させることが難しくて。だから、読んでは違うことをして、また読んでは違うことをしてっていう。でも、読もうという気持ちはあるので、一つの作品を読み終わるまでの時間は長いけど、常に持ち歩いてコソコソ読んだりはしていますね。本自体はすごく好きなんですよ、小説も。


――ありがとうございます。では、本の発売を心待ちにしている読者の方へメッセージをお願いします。


伊藤沙莉

伊藤:見どころは、やっぱりみんなが知らない伊藤沙莉。私と同じように、自信がなかったり、コンプレックスに足を引っ張られたりすることって、意外とあると思うんです。この仕事をしてると、キラキラしている世界にいるとか、ちょっと人とは違うように思われがちだけど、そんなことはない普通の人間なので、普通の観点でしか書いていなくて。特別なのは、この業界に入ってから起きた出来事くらいで、それ以外は本当に普通の“千葉の女の子”の話。となると、自分を投影したり、共感したりできるところも少なくないのかなと。そこで何か1個でも励ましになったり、ちょっとした支えになったら嬉しいし、ありがたいですね。


 あとは、InstagramのDMとかで「写真集を出してください」って言われたときには、「需要がないから絶対に無理だよ」と言っていたんですけど、それもなんとなく叶っちゃったよ!っていうくらい、写真もてんこ盛りに入れてくださいました。いろんな表情をしていると思うので、そこも楽しみにしていただけたらと思っています。


伊藤沙莉プロフィール

1994年5月4日生まれ。千葉県出身。A型。ドラマ、映画、舞台で活躍中。天性の芝居センスでシリアスもコメディもこなすマルチ女優。2021年はエランドール新人賞、第63回ブルーリボン賞助演助演女優賞を受賞。6月パルコ劇場「首切り王子と愚かな女」に出演。


■書誌情報
『【さり】ではなく【さいり】です。』
著者:伊藤沙莉
発行:株式会社KADOKAWA
定価:1,980円
発売日:6月10日


■スタイリングクレジット


ニットボレロ
¥39,000
シャツワンピース
¥45,000
/NAKAGAMI
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NAKAGAMI nakameguro
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