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『ジョジョリオン』シリーズ屈指の“地味”な戦いが凄い 『ジョジョ』の集大成となるか?

2021年06月09日 10:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『ジョジョリオン』はシリーズの集大成か?

 『ジョジョリオン』(集英社)は、荒木飛呂彦の人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(以下、『ジョジョ』)の第8部としてスタートしたバトル漫画だ。


関連:【画像】『ジョジョ』=スタンド以前の第二部


 物語の舞台は『ジョジョ』第4部と同じ杜王町。震災直後にできた「壁の目」と呼ばれる場所で広瀬康穂によって発見された記憶喪失の少年は、東方家が後見人となり、東方定助と呼ばれるようになる。


 定助はスタンドと呼ばれる謎の力の持ち主であり、彼の元には同じような力を持つスタンド使いが次から次へと現れる。


 以下、ネタバレあり。


 最新巻となる第26巻では、怪我や病を等価交換(ある症状を治療すると別の場所に症状が現れる)で治すロカカカの実をめぐって対立する岩人間たちのボス・TG病院院長の明負悟と定助の戦いが大詰めをむかえる。


 追う意思を見せると“厄災がぶつかってくる”明負に対し、定助はロカカカの実から作られた薬が保存されている病院の実験室に立てこもり、豆銑礼と共に明負を待ち受ける。


 触れたものから「何かを奪う」シャボン玉を操るスタンド「ソフト&ウェット」を展開する定助に対し、明負は岩昆虫「ドゥードゥードゥー・デ・ダーダーダー」で応戦。実験室の床と同化して迫ってくる岩昆虫の攻撃で毒を流しこまれた定助は、豆銑礼の治療によって一命を取りとめるが、豆銑は戦いの中で命を落としてしまう。一方、広瀬康穂は明負の攻撃を受ける東方家で、新しいロカカカの実の鉢植えを手に入れるのだが、そこに彼女の元恋人で、TG病院でアルバイトをしている医大生の透龍が姿を現す。


 実は明負悟の正体は、透龍の遠隔操作型のスタンド「ワンダー・オブ・U」だった。岩人間の透龍は、康穂からロカカカの実を奪おうとするが、康子は病院にいる東方家の家政婦・虹村京に電話をかけて、透龍の正体を定助に知らせようとする。


 物語は東方家で透龍と対峙する康穂と、病院で明負悟と対峙する定助の姿が同時進行で描かれる。死ぬ間際に「回転している線だ」と言った豆銑礼の言葉をきっかけに、定助は「ソフト&ウェット」が作り出すシャボン玉の中に「回転」だけしている“見えないやつ”があることに気付く。


 回転している見えないシャボン玉は「この世の理から外れたもの」で、だから明負悟を攻撃しても厄災はぶつかってこない。定助は左肩にある星のアザから飛び出した「見えない回転」を銃弾のように明負に向けて撃つ。明負は二匹目の岩昆虫「オブラディ・オブラダ」を定助に放ち、防御を試みるが、「見えない回転」は康穂のスタンド「ペイズリー・パーク」の力でスマホの液晶画面を経由して、明負の本体である透龍に直撃する。


 「ワンダー・オブ・U」を操る透龍と定助たちのスタンドバトルは、一見地味に見えるが、『ジョジョ』の歴史の中でも屈指の名勝負となっていた。「ワンダー・オブ・U」は「追いかけると厄災がぶつかってくる」ため、どんな攻撃も通じない。だからこそ定助は、逆に敵が向かってくるように仕向けたのだが、この戦いが漫画として凄いのは、狭い部屋の中で定助と明負が対峙する場面だけで、かなりの話数を費やしていることだ。


 もちろん、康穂が「ワンダー・オブ・U」に襲われる様子も同時に描かれており、上空を飛ぶ飛行機のスライドパネルが外れて災厄として落下してくるというド派手な見せ場もある。だが、メインとなる定助と明負の戦いは、密室での会話劇が中心でキャラクターの動きも多くない。そんな地味な戦いでありながら、凄まじい緊張感が成立していることに、何度読んでも驚かされる。


 もちろんこの緊張感は荒木飛呂彦の圧倒的な画力によって成立しているのだが、そもそも、スタンドバトル自体が汎用性の高い表現なのだろう。広い空間を舞台にした壮大なスケールの戦いはもちろんのこと、刑務所を舞台にした第6部のような密室劇としても成立するのがスタンドバトルの面白さだ。


 『ジョジョ』以降、異能力バトルを描いた漫画は多数登場したが、今回のような緊迫した戦いを見せられると「本家が一番ぶっ飛んでいる」と改めて実感する。また、戦いの決め手となったのが第7部「スティール・ボール・ラン」に登場した“回転”の力だったことにも驚かされた。物語自体は前作と繋がっていて伏線も張られていたため、必然と言えば必然なのだが、「ここで繋げるのか」という予想外の展開だった。


 一方、定助たちが戦う岩人間たちの正体も少しずつ明らかになってきている。物語の節々で岩人間の情報が生態図鑑のように挟み込まれるのだが、その姿は第2部に登場したカーズたち「柱の男」と呼ばれた種族を彷彿とさせる。第3部以降、『ジョジョ』=スタンドというイメージが定着して久しいが、個人的には第2部の世界観が一番好きだったので、岩人間の登場は嬉しい。過去作の要素が多数盛り込まれた『ジョジョリオン』だが、最終的に全ての『ジョジョ』を一つにまとめてくれるのではないかと期待している。


(文=成馬零一)