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古生物のビジュアル盛りだくさん! 『ダーウィンが来た!』敏腕ディレクターが迫る”生命大進化の系譜”

2021年06月09日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代~中生代・三畳紀)』

 2021年4月21日に日経ナショナル ジオグラフィック社から発行された、日経BPムック『ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代~中生代・三畳紀)』が熱い。


関連:『ダーウィンが来た! 生命大進化 第1集 生き物の原型が作られた(古生代~中生代・三畳紀)』


 著者はNHKの自然科学系番組『ダーウィンが来た!』のディレクター、植田和貴氏。植田氏は15年にわたり自然科学系の、特に恐竜や古生物の分野を中心に番組制作を手がけてきた。そのなかで、これまでに取り上げた内容を時代順に並べ、生命の進化を俯瞰的に楽しめるよう編集したのが本書である。


 書籍という形態ならでは、テレビでは伝えきれない部分を補完する役目もあり、いわば『ダーウィンが来た!』を視聴するにあたってのテキストの役割も担っている本書。番組内で用いられたCGなど図解や写真も多く掲載されており、幅広い年齢層が受け入れやすいムック(ヴィジュアル書籍)のスタイルだ。


 前編では、いくつかのポイントを挙げながら、本書の魅力を紹介。明日公開予定の後編では植田氏に実際にインタビューし本書の見所を訊いた。


 なお本書(第1集)の舞台となっているのは、46億年前に地球が誕生以来、最初の生命や多細胞生物が誕生する先カンブリア時代、多用な節足動物が登場する5億4000万年前以降のカンブリア紀を含む古生代、そして恐竜が登場する2億5000万年前の三畳紀である(三畳紀以降を中生代と呼ぶ)。


■「カンブリア大爆発」を境に一変する生物世界


 カンブリア紀に多様な動物たちが誕生した現象を「カンブリア大爆発」という。その過程のヒントになるのは、中国雲南省のチェンジャンにある「カンブリア紀の最初期の地層」から見つかった数ミリ程度の殻の化石。これらはケイ酸や炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのミネラルでできており「スモール・シェリー・フォッシルズ(SSF)」と呼ばれている。その出現がカンブリア大爆発の引き金だったと言われ、その後の地層からは、カンブリア紀を代表する三葉虫やハルキゲニアなど全身を殻で覆われた複雑な姿の動物たちが見つかっている。


 こうしたミネラルは、大陸から供給されたと考えられている。もともと海底だった場所が広範囲で海上に頭をだし陸地になったが、そこが雨や風によって何百万年もかけて浸食され、その後の世界規模の海面上昇によってさまざまなミネラルが海に溶け込んだという。


 そしてカンブリア紀が始まって2500万年後、殻の進化の集大成、カンブリア紀が生んだ最強の王者と言われているのがアノマロカリスだ。アノマロカリスは推定30センチ以上、中には50センチを超える個体もあったと考えられている。カンブリア紀の生き物の多くは数センチ~10センチくらいなので、アノマロカリスは破格の大きさ、恐竜時代でいうティノラサウルスのような存在だったのだ。


■眼点からカメラ眼へと進化して脊椎動物が台頭


 巨大節足動物のアノマロカリスは、大きな眼を持つことも特徴のひとつ。これは複眼と呼ばれるもので、現代の昆虫と同様に小さな眼の集まりだった。一方で、人間が属する脊椎動物の祖先は紐(ナメクジ?)のような姿だった。ピカイアは、脊索動物という脊椎動物になる一歩手前の生き物で、明るさを感知できる「眼点」を持っていたとされる。さらに一段階進化したメタスプリッギナは原始的な魚の一種(無顎類)に近い仲間と考えられており、人間と同じ「カメラ眼」を持っていたとされる。まさに、カメラ眼を持つご先祖というわけだ。


 カンブリア紀には数センチだった脊椎動物は、進化を重ね、やがて巨大な姿となる。約1億4000万年後のデボン紀後期には全長8~10メートルにもなるダンクルオステウスが海を支配した。巨大な顎と骨でできた鋭い歯(私たちの歯とは異なる)を備え、噛む力は海洋動物としては史上最強と言われている。そしてダンクルオステウスのもうひとつの強みが10センチを超える大きさのカメラ眼である。3億6000万年前のデボン紀、脊椎動物は1億年以上の間、海に君臨してきた節足動物をついに追いやり、表舞台に躍り出たのだ。


■月が演出した最初の動物上陸


 2004年に放送したNHKスペシャル「地球大進化」では、3億6000万年前ごろのデボン紀に四足動物(テトラポッド)が川にいて、淡水域から上陸を果たしたと紹介されている。この説は現在も有力だが、2010年に新たな上陸ストーリーが出てきた。


 従来の説よりも3000万年以上も古いデボン紀前期末(3億9500万年前)の地層から、テトラポッドの足跡が発見されたのだ。この最古のテトラポッドは推定全長2~3メートルで、オオサンショウウオのような姿だと考えられている。こうした大型動物が海の王者であるダンクルオステウスよりも古い時代にもう出現していたのだ。この発見に基づけば、私たちの手足は従来の考えよりも3000万年以上も早く進化していたことになるという。
 
 デボン紀の当時、月は今よりも地球に近かったと言われ、例えば干満の水位差が5~6メートルの場所であれば当時は10メートル以上にもなったと考えられている。この満ち引きによって陸地に取り残された魚に目を付けたのがテトラポッド。日光(紫外線)の影響がない夜に上陸をしていたと考えられている。


 このような行為を長い年月の中で繰り返し、次第に陸上へと適応。陸上生活に適応した脊椎動物が誕生していったのである。


■いよいよ恐竜の出現


 恐竜が出現する三畳紀(中生代)の前、古生代最後のベルム紀(2億9800万年~2億5000万年前)に生息し、単弓類は母乳での子育てを成し遂げ大繁栄していた。しかし、ベルム紀末(2億5000万年前)にP/T境界の大量絶滅が起きる。破格の噴火活動が100万年も続き、気候変動、生物にとって必要不可欠な酸素濃度が激しく低下したと言われており、これにより陸上生物の7割が絶滅したとされる。その多くが単弓類だったという。


 時代は三畳紀(ここから中生代)に入るが、ここで単弓類に変わり幅を利かせたのが爬虫類だった。そして三畳紀末、まだ爬虫類たちの軍団が群雄割拠していた世界で出現した最古の恐竜の一つがコエロフィシスである。コエロフィシスは全長3メートルほどで、スリムな体ですばやく移動し、小動物などを捕食していた。最近の研究に基づけば、全身に羽毛を生やしていた可能性もあるという。


 三畳紀後期、世界は乾燥化が進んでいたらしい。その中で恐竜は乾燥に適応した体つきをしていた。それが直立二足歩行だった。それが長距離移動にも有利で、また前脚「手」がフリーになることで、カギ爪を生やし獲物を捕らえるようになるなどの利点が生まれ、恐竜成功のカギの一つになったと考えられている。


 もう一つ、中生代の生物進化を考える上で欠かすことのできない重要な動物が、人間の属する動物グループ、哺乳類だ。アメリカのニューメキシコで発見されたわずか1.5センチの頭蓋骨の一部は、哺乳類の起源を数百万年も遡る貴重な化石だった。アデロバシレウスと名付けられた推定全長10センチ前後のネズミのような動物が、最古の哺乳類とされている。私たちの祖先はこの後、恐竜とともに優に1億5000万年以上もの時間を共有していく。


 地球が誕生して46億年。海が小さな生命を育み、進化の過程で、ある者は陸に上がり進化を続けた。こうした途方もなく長い歴史を経て、2億年以上前に恐竜が出現。時間の割合で言うと、地球ヒストリーのほとんどの部分は恐竜以前ということになる。そして6600万年前に恐竜が姿を消し、ついに「ほ乳類の時代」が幕を開ける。この大いなるロマンは、今夏発売予定の第2集へと続く!