2021年06月08日 10:21 弁護士ドットコム
意図せずに当て逃げの加害者、被害者になってしまった場合、どのような法的責任が生じるのでしょうか。弁護士ドットコムには多くの質問が寄せられています。
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ある人は、社用車で当て逃げしたことがあとで判明したそうです。取引先を訪問した際、近くの駐車場に停車したところ、ほかの車にぶつけていた様子が、近くの防犯カメラに映っており、その後、この防犯カメラ画像を証拠に連絡がありました。
相談者は「知らずにぶつけていたとはいえ、相手方には大変申し訳なく思っており、謝罪、賠償をする気持ちはもちろんあります」といいます。しかし、当てた覚えがなくても当て逃げとして処分されるのか疑問に思っているようです。
また、駐車場に停めていた車に傷があることを後日気がついて、当て逃げの被害者になった人もいます。ドライブレコーダーによるナンバーの特定で加害者を捕まえてもらえるのかどうか、気になっているようです。
当て逃げの加害者となった場合、どのような処分があるのでしょうか。また、当て逃げの被害者となった場合はどう対処すればよいのでしょうか。山岡嗣也弁護士に聞きました。
——「当て逃げ」について、法律ではどのように定められていますか。
車両の交通による人の死傷または物の損壊があったときは、当該車両の運転者は、直ちに車両の運転を停止して負傷者を救護し道路における危険を防止する等必要な措置を講じる義務(危険防止措置義務)があります(道路交通法72条1項前段)。また、この場合、直ちに警察官に当該事故の報告をする義務(報告義務)があります(同法72条1項後段)。
一般に、人身事故で、負傷者を救護せず立ち去る行為を「ひき逃げ」といい、物損事故で、危険防止措置や事故報告をせずに立ち去る行為を「当て逃げ」といいます。以下では、交通事故で人の死傷がない「当て逃げ」に限定して説明します。
——当て逃げした場合の刑事処分、行政処分はどのようなものなのでしょうか。
刑事処分について、当て逃げで、危険防止措置義務違反の場合、1年以下の懲役または10万円以下の罰金の刑事罰を受ける可能性があります(道交法117条の5第1号)。また、警察への報告義務違反の点は、3月以下の懲役または5万円以下の罰金の刑事罰を受ける可能性があります(同法119条1項10号)。
2つの義務違反がある場合には、重い刑によって処断されますので、1年以下の懲役または10万円以下の罰金の刑事罰を受ける可能性があります(観念的競合、刑法54条1項)。
また、行政処分においても、たとえば、割り込み運転など道交法違反によって事故を起こした当て逃げの場合、道交法違反による点数とは別に5点の付加点が加算されます。
——加害者に当てた覚えがなくても当て逃げとして処分されるのでしょうか。
当て逃げの認識(物の損壊という認識)がなかった場合、危険防止措置や警察への報告を期待することはできませんので、刑事処分も行政処分もありません。
ただ、物が確定的に損壊したとの認識がなかったとしても、「もしかしたら損壊したかもしれないけど、まあいいか」という程度の認識があった場合には当て逃げの認識がないとは言えず、危険防止措置義務違反及び報告義務違反として、上記刑事処分や行政処分の対象となります。
なお、「損壊」について、塗装の一部が剥離した程度であっても「物の損壊」を認めた判例があります。
実際に車両が接触したときには、接触対象が損壊した可能性があることは認識できるでしょう。軽い接触であっても、ある程度の音がするものです。また、車両の近くに物があれば、慎重になって運転していたはずです。運転中の接触にまったく気づかなかったという状況は想定しづらいように思います。
——当て逃げの当事者になったかもしれないと気づいた場合、警察に連絡するべきなのでしょうか。
被害者であっても加害者であっても、事故かもしれないと思えば、すぐに警察に連絡すべきです。
駐車場内の事故であっても、事故の場所が道路交通法上の「道路」と評価される余地はあります。このため、駐車場内の事故であっても、危険防止措置及び報告義務を尽くすことが必要です。
道交法は「道路」に適用されるものであり、事故の場所が「道路」でなければ、前記の報告義務等はありません。しかし、駐車場であっても、その場所が不特定多数の人や車両の通行が許されている場所であれば、「道路」と評価される可能性があります。
被害者となってしまった場合、警察は、ドライブレコーダーに記録された相手方車両のナンバーから、車検証に記載された情報を取得することができます。なお、弁護士も弁護士会を通じた照会によって相手方車両のナンバーから、車検証に記載された情報を取得することができます。
【取材協力弁護士】
山岡 嗣也(やまおか・つぐや)弁護士
関西大学法学部卒。平成18年弁護士登録。広島弁護士会。
広島県呉市の弁護士。主な著作(共著)は、「Q&A会社のトラブル解決の手引」(新日本法規出版)、「談合被告事件・副市長の職を奪った冤罪事件」(季刊刑事弁護2009年60号)
事務所名:山岡法律事務所
事務所URL:http://www.yamaoka-law.jp/