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進撃ロスには『地獄楽』がおすすめ! 忍者×ダークファンタジーの魅力

2021年06月08日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 刺激的な作品が揃う「バトルロイヤル」ジャンル。高見広春の小説を原作とし、2000年には映画も公開された『バトル・ロワイアル』や、井上淳哉が世に輩出した累計発行部数450万部を超える『BTOOOM!』など、漫画界に名を残す作品も多い。そんな群雄割拠のジャンルに、「少年ジャンプ+」連載作品が、新しい風を吹き込んで見せた。その作品とは2018年から2021年1月まで連載された、ブラックな雰囲気が特徴の“バトルロイヤルファンタジー”『地獄楽』である。そこで本稿では来るアニメ放送に先駆け、『地獄楽』の他作品とも通じるダークファンタジーとしての魅力を、改めて紹介していく。


 『地獄楽』の舞台は江戸時代の日本である。本作の主人公である元最強の忍・画眉丸は里を抜けることに失敗し、罪人として捉えられていた。打首の刑に処せられた画眉丸だが、執行人は画眉丸の首を切り落とすことができず、その刃は綺麗に折れてしまう。彼は忍であったころの修行により、簡単には死ねない体になってしまっていたのだ。その他にも「火刑」「牛裂き」と様々な処刑を執行されても、ケロッとした顔で生き延びてしまう画眉丸。


『地獄楽』2巻(集英社)

 一方目付役人の佐切は、血も涙もなく人を虫のように殺してきた彼が、なぜ里を抜けようと思ったのかが気になっていた。その原因には、1人の女性の影がある。画眉丸はその働きにより、里の長に認められ、長の娘と結婚することになった。しかし画眉丸はその女性を本気で愛してしまったのだ。


 再度の処刑で画眉丸の目の前に現れる、目付役人の職務を脱いだ“打首執行人”としての山田浅ェ門 佐切。佐切は画眉丸に「貴方は妻を愛している」と事実を突きつけるも、彼はそれを認めようとしない。画眉丸はこれまで非情な忍として生きてきた自分が、普通の人生など歩める訳が無いと諦めていたのだ。


 しかしそんな画眉丸の前に「叶います」と語気を強め、佐切は一つの巻物を見せつける。この世にも奇妙な伝令を記した巻物が、画眉丸、そして佐切の運命を大きく変えることになるのだった。


 『チェンソーマン』作者である藤本タツキのアシスタント経験もある賀来ゆうじが、心と死を描くファンタジー作品として描きあげた『地獄楽』。本作の1番の特徴はやはり、バトルロイヤル作品として魅力あるアクションを描きながら、ダークファンタジーの王道をしっかりと押さえている点だろう。


 「神秘の孤島から仙薬(不老不死になる薬)を持って帰還せよ」。このなんとも漫画好きの心をくすぐる指令が、本作の主題である。これを受け画眉丸は、1つの島に上陸するのだが、そこではこの世のものとは思えない光景が所狭しと広がっていた。最初は訳がわからないまま奮闘するも、徐々に島の核心に迫っていく画眉丸。この絶望に打ちひしがれながらも壁を突破し、世界像が次々と明らかになっていく様子は、『進撃の巨人』の影響も感じさせる。


 また孤島には画眉丸と同じ死刑囚、佐切と同じ処刑人を務める首斬りの達人「浅ェ門」の面々が多く上陸する。目標に向かって戦闘を続ける死刑囚や浅ェ門、そして立ちはだかる強大な敵達が繰り広げるバトルは、いつ誰が死んでもおかしくないと感じさせるスリリングな展開と、ファンタジー要素も相まって圧倒的なスケールで描かれている。そしてその戦いの中核を担った「タオ」という力の存在も、『HUNTER×HUNTER』の「念」や『呪術廻戦』の「呪力」に通じるファンタジーの王道を外していない。


 その中で“各々に生まれ持った系統があり、修行することで練度が上がる”などの要素は押さえながら、その修行法に淫靡かつ酷な修行を入れることで、作品の闇に深みを持たせる手法も見事。


 もちろんバトルロイヤルの真骨頂である、“殺すことへの葛藤”や“過去に基づくそれぞれの信念”なども丁寧に描かれている。人間を殺すこと自体に抵抗を感じる佐切を筆頭に、殺さなければならない罪人に情が湧いてしまう浅ェ門の面々。妻の待つ場所へと帰ろうとする画眉丸を筆頭とした、くすんでいても信念を持った罪人達。こうした信念に基づき行動する敵同士であるはずの彼らが、いつしか島の闇に立ち向かうべく立場を越え共闘する場面などは、絶望と罪に塗れた中での人間ドラマを映し出す。罪人同士のバトルロイヤルから、いつしか未確認生物と戦うSFへと徐々に移行していく話の運びも、先を知りたくさせる漫画としての最重要事項をしっかりと押さえていた。


 ダークファンタジー要素の強いバトルロイヤル作品に仕上げることで、作品としてより磨きがかかっている『地獄楽』。少々ブットんだ設定も多々あるも、本作は賀来ゆうじの高い画力と引き込まれるストーリーで、ラストまで一気に読める仕上がりになっている。連載終了と同時にアニメ化も発表され、今乗りに乗っている『地獄楽』。パンチのあるダークなバトルロイヤル作品に興味がある人は、一度手に取って欲しい。


■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。