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『美味しんぼ』山岡士郎に学ぶ”鈍感力” 栗田ゆう子との結婚に至った道筋を考察

2021年06月07日 09:01  リアルサウンド

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 後に妻になる栗田ゆう子から「世界一の鈍感男」と称された『美味しんぼ』の主人公、山岡士郎。彼は栗田や二木まり子ら女性陣から猛烈なアタックを受けるのだが、なぜかそれを好意として受け取らず、流してしまう。鈍感のレッテルが貼られる一方で「本当は気がついていたのではないか」という指摘も。本当に山岡士郎は「鈍感男」なのだろうか。エピソードから検証したい。


栗田ゆう子を自宅に呼び出す

 二木まり子の出現で、山岡への想いが一層強くなっているようだった栗田。そんな彼女に、山岡は家に電話をかけ、「今から家に来てほしい」と連絡を入れる。


 独身女性を家に呼ぶということは、間違いも起こりかねない状況。電話で栗田は「で、でも…」と尻込みするが、山岡との結婚を望む祖母が強引に電話を替わり、勝手に承諾してしまう。結局、好きという気持ちを隠せない栗田は、電車で山岡宅に向かうのだった。


 そんな覚悟を持って訪れた栗田を待っていたのは、2人の子供。一緒に暮らしていた母親が蒸発してしまい、家主のおじいさんから預かってきたそうで、山岡は「自分が子供の親を探す。この事件を部長によく話して長期休暇の許可を」と話す。はしごを外された形の栗田だが、特に落胆した様子はなく、「自分が子供の親を探す」と名乗り出た。(23巻)


 同僚とは言え、独身女性を家に呼び出し、意を決して家に来た女性に好意すら見せない。鈍感と言われても、仕方ないのかもしれない。


腕を組んでも手を出さず…

 ラーメンライスをこよなく愛する平川から、「良いフランス料理の店を教えてほしい」と頼まれた山岡と栗田。山岡は「理由を教えろ」と迫るが、平川はモジモジして「つまりその…」と言ってわかりやすく汗をかく。


 それでも「だからなんだって言うんだよ」と怒る山岡に、栗田は「鈍感男」とバッサリ。そして「好きな女性ができたんでしょ? それでフランス料理に…」と、平川の状況を言い当てる。


 平川の意中の女性でお嬢様育ちの松井季理子と平川、そして山岡と栗田はフランス料理店へ行き、食事をする。ところが平川は「僕は居心地が悪い」と話し、雰囲気が悪くなる。ここで栗田がラーメン屋へ行くことを提案。実際に訪れると、ラーメンライスの食べ方を季理子に指南し、「生きる世界が違う」と交際を諦めようとするが、季理子は「ラーメンライスが好き」と話し、付き合うことになった。


 ラーメン屋を出た山岡は「どっかで口直しになにか食べるか?」と栗田を誘う。すると栗田は目を閉じて「いいのよ、このままで」と話し、腕を組んでどこかに歩いていった。(29巻)


 男性であれば「脈あり」と感じてしまいそうなこの状況。しかし山岡は何故か行動に出ない。やはり、鈍感なのだろうか。


数々の際どい発言にも…

 42巻では、山岡の鈍感ぶりが顕著になっている。小野と橋田つた子の仲を取り持って帰る際には、山岡が「俺は女性に優しいのが欠点でね」と話すと、栗田が「へえ、優しくしなければいけない人を忘れてはいませんか?」と話すが、「へえ俺がかい?」とトボける。


 さらに癖が強い小説家志望の多里と栗田の友人鳥辺の仲を取り持ったあとも、栗田が「特ダネ賞もらえるわね。全額新婚旅行に積み立てしよう」とつぶやくが、山岡は「全額? 俺の分はどうなるんだ?」と真顔で抗議した。


 甘味処を救う話でも、東西新聞社から女性と歩く山岡を尾行し、休業にもかかわらず店に押しかけてきた栗田に、山岡は「あれれ、君たち、なんで僕がここにいるのがわかったの?」と真意を読み取れない。


 店主の男性が「馴染みの店に行ったら山岡さんがいて…」と話すと、栗田は「ひとりでした?」と食い気味に質問する。これも自らへの好意の裏返しだが、「?」という反応だった。


鈍感男ではなかった?

 鈍感ぶりを見せ続けた山岡だが、42巻の最後で団社長と山岡、栗田で食事をした際、団社長から「僕と近城カメラマンがプロポーズをしたら山岡さんは中立を守ると言ったそうな」と告げられ、栗田が露骨にムッとすると、目線を下に向けて冷や汗をかいている。山岡が本当は全てを知っていて、あえて気が付かないふりをしていた可能性をうかがわせた。


 そして43巻で栗田に「俺は両親のことで結婚なんてものに疑いを持っていて、君のことを、ええと…、あの、ずうっとあれだったんだけど…、それが言えなくて…」と話している。この発言を見ると、「鈍感男」というわけではなかったように思える。


 山岡士郎は「鈍感男」だったのか? 栗田ゆう子は「世界一の鈍感男」と称しているが、実際はそうではなかった可能性も否定できない。真相は、山岡士郎のみぞ知る。