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性犯罪、刑法の見直しで「性交の不同意」はどうなる? 法務省検討会の報告、弁護士が分析

2021年06月06日 09:11  弁護士ドットコム

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法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」は、性犯罪に関する施策のあり方について議論・検討した内容を報告書に取りまとめ、5月21日に上川陽子法務大臣に提出した。


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報告書は、強制性交等罪などが成立する要件や法定刑などについて、法改正の可否を含めた現行法の課題や論点を整理したもので、法務省のホームページで公表されている。



強制性交等罪などについては、「暴行・脅迫」や「抗拒不能」の要件が障害となり、同意なき性交が処罰されていないとして、「不同意性交等罪」の創設または「不同意」を犯罪の成立要件とすべきとの意見もある。



今回の報告書を受けて、法務省は法改正に向けた検討を進める。「同意なき性交」について、具体的な改正案などが明示されたわけではないが、今後どうあるべきなのだろうか。中原潤一弁護士に聞いた。



●同意があったかどうかの見極めは困難

——「不同意性交等罪」の創設または「不同意」を犯罪の成立要件とすべきとの意見が根強くあります。



現在、強制性交等罪は、刑法177条で以下のように定められています。




「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」




実は、これも「不同意性交等罪」の一つの類型を示しています。要するに、(反抗を著しく困難にする程度の)暴行または脅迫を用いて性交した場合には、それは相手の同意がないことは明らかであるから、その場合を処罰するというのが今の法律です。



また、準強制性交等罪(刑法178条2項)は、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による」と定められていますが、これも「不同意性交等罪」の一つの類型を示しています。



心神喪失状態であったり、抗拒不能状態である人に性交した場合にも、それは相手の同意がないことは明らかであるから、その場合を処罰するというのが今の法律です。



つまり、暴行・脅迫や、心神喪失・抗拒不能というのは、客観的に同意がないことの徴表として、不同意である性交を処罰するために機能しているのです。



——現行法でも「不同意性交等罪」の要素を一定程度持っているということですね。



今回の議論は、これをさらに超えて、暴行・脅迫や、心神喪失・抗拒不能以外の類型の強制性交等罪を作った方が良いのか、というのが一つの議論になっていました。



その最も極端な例が、暴行・脅迫や、心神喪失・抗拒不能がまったくない場合にも処罰するというケースでしょうか。



たとえば、現在の177条にならって条文を作るとしたら、「13歳以上の者に対し、同意なく性交をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する」というものになるでしょうか。単に「不同意」を処罰する条文ですね。



しかし、これでは、本当に同意がなかったのか、本当は同意があったのにその後に相手と関係がこじれ、相手を陥れるために嘘をついているのではないか等の場合に見分けをつけることができません。不同意を示す客観的な徴表がまったく存在しないからです。



実は、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」による報告書でも、「単に被害者の『不同意』のみを要件とすることには、処罰の対象を過不足なく捕捉できるかという点で課題が残り、処罰範囲がより明確となる要件を検討する必要があるという点では、概ね異論はなかった」とされています(報告書6~7ページ)。



したがって、「不同意」を犯罪の成立要件とすべきとの意見が強まってきているというわけではないと思います。



●「手段や状態を列挙することに賛成」

——単に「不同意」を要件にすることに懸念があるとして、現行の強制性交等罪などの要件は、今後どうあるべきと考えていますか。



報告書では、構成要件の明確化のために手段や状態を列挙することについて検討がされています。



たとえば、威力、威迫、不意打ち、欺罔・偽計や睡眠、催眠、酩酊、薬物の影響等です。



私個人としては、構成要件の明確化のためにこのように手段や状態を列挙することについては賛成です。



特に、刑法178条の「抗拒不能」の要件は非常に不明確で、裁判例を色々調べてみても、ある裁判では「抗拒不能には当たらない」とされているような行為が、違う裁判では「抗拒不能に当たる」とされていたりします。



これは、法的安定性に欠け、非常に不健全な状態だと思います。



そうであれば、あらかじめ国会で議論し、どのような行為が処罰の対象となり、どのような行為が処罰の対象とならないのかを明確に定めることが、法治国家としてあるべき姿だと思います。



なお、この場合には、日本の強制性交等罪の法定刑は諸外国の法定刑と比較して非常に重くなっていますので、それぞれの特徴に合わせた適切な法定刑を定めるべきでしょう。




【取材協力弁護士】
中原 潤一(なかはら・じゅんいち)弁護士
埼玉弁護士会所属。日弁連刑事弁護センター幹事。刑事事件・少年事件を数多く手がけており、身体拘束からの早期釈放や裁判員裁判・公判弁護活動などを得意としている。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:http://luminous-law.com/