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F1第6戦木曜会見:「僕らもただの人間だ」大坂なおみを擁護するハミルトン。メディア対応時のサポートの重要性を語る

2021年06月04日 19:41  AUTOSPORT web

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2021年F1第6戦アゼルバイジャンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2021年F1第6戦アゼルバイジャンGP開催直前の木曜会見は、ある意味『心』がテーマだったかもしれない。まずはマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が、ルイス・ハミルトン(メルセデス)とのタイトル争いをめぐる『心理戦』について言及した。

 今季ここまでのふたりは、5戦中4戦でバトルを繰り広げてきた。前戦モナコGPだけはハミルトンが7位に終わり、両者の直接対決はなかった。それでもレース後にはそれぞれ、お互いを十分に意識するコメントを発していた。

 木曜会見に最初に登場したフェルスタッペンは、「ハミルトンとのマインドゲーム(心理戦)の準備はできているか」と訊かれると、「もし心理戦を仕掛けられても、別にどうってことはない」と語った。

「何よりルイスはそういうことはしたくないと、モナコのレース後に言っていたはずだ。もちろんレースの前後には、感情的になることはある。でも僕らはお互いを尊重している。それこそが、一番大事なことだと思うよ」

 フェルスタッペンとハミルトンの間には、すでに数年前からお互いを尊重する気持ちは存在していたと思う。そしてそれはハミルトンが7回のタイトル獲得を始め数々の記録を塗り替え、フェルスタッペンが人間的にも成熟していったことで、いっそう深まった印象だ。

 今週末のバクーはモナコと同じ市街地コースだが、コース特性はまったく違う。それもあって今回もレッドブル・ホンダが優位に立てるとは、フェルスタッペンも考えていない。

「通常のサーキットでは、依然としてメルセデスが強いと思うか」という問いに、フェルスタッペンは「絶対にそうだと思う」と即答した。ちなみに原語では「I do still think~」という言い回しで、メルセデスの強さはそれほど骨身に染みているということなのだろう。

■「プレッシャーを受けながらメディア対応をするのは間違っている」

 一方のハミルトンも、バクーのレースに向けての強い決意を見せていた。「今週末の勝算は?」という問いには、「コース特性も違うし、気温も違う。なにより僕らは前回の失敗から、チーム全員が多くを学んだ。必ずしも同じ展開にはならないはずだ」と、コメントした。

 しかしハミルトンの会見で一番盛り上がったのは、大坂なおみに関するやりとりだった。テニスの全仏オープンで記者会見を拒否して1万5000ドル(約165万円)の罰金を科され、その後「長くうつ状態に苦しんでいた」とトーナメントを棄権した一件だ。

 ハミルトンは以前から、大坂なおみの人種差別問題などへの積極的な発言を称賛してきた。今回の件についてもすでにSNSで、「メンタルヘルスはジョークで済まされない問題だ。なおみはひとりじゃないことを理解すべき」と、連帯の意思を表明していた。

「同じようにメディアから常に注目を浴びている者として、大坂なおみにアドバイスはありますか」と質問されたハミルトンは、「何か有益な話や彼女の助けになるアドバイスをするのに、自分がふさわしい人間だとは思っていない」と言いつつ、時折り考え込みながら、こんなふうに話し始めた。

「なおみは超一流のアスリートだし、人間的にも素晴らしい。そして彼女の活動は信じられないほどの影響力を世界に及ぼしてきた。彼女のようにごく若いうちから世界的な活躍を始めると、両肩にいろんなものがのしかかってくるのは避けられない。そして若いがゆえに、その事実への準備はできていない」

「僕がF1に来た時もそうだった。プロモーション活動に連れ回されて、カメラに晒されて。そこでどう対処すべきか、誰かが適切に導いてくれたことは一度もなかったね。僕だけじゃなく誰もが、そういうことに何も準備できていない状態で、この世界に飛び込んできた。たくさんのミスを犯しながら、少しずつ学んでいくしかなかった。ものすごく精神的にキツいことだったよ」

 そしてハミルトンは、「自分たちも生身の人間だ」ということを繰り返し強調した。

「今後も若い人がこの世界に入ってくる時、同じような状況にさらされる。もっとサポートが必要だと思うし、プレッシャーを受けながらメディア対応をするのは間違っている。なおみに関して言えば、彼女を攻撃する人々は、なおみがひとりの人間であることをまったく考慮していない。本当に馬鹿げているし、彼女をサポートするべきだ」

「そしてF1を戦う僕らも、いつも自分の限界を押し広げる努力を続けている。そんなときは、精神的にも限界なんだ。そんな僕らも、ただの人間なんだよ」