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平川亮、トヨタのWECテストに挑む覚悟を告白「ヨーロッパに住んでもいいと思っている」

2021年06月04日 16:31  AUTOSPORT web

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トヨタからWECのテストに参加することが明らかになった平川亮
一度はその手からこぼれ落ちた“世界の舞台”へのチャンス。平川亮はいま、それを再び手中に収めようとしている。トヨタがWEC世界耐久選手権を戦うル・マン・ハイパーカー(LMH)、『GR010ハイブリッド』のテストドライブが実現するのだ。

 トヨタGAZOO Racingからテストへの参加が発表されたとき、平川はすでに日本を飛び出し、ドイツ・ケルンにいた。チームが第2戦のポルティマオへと出発する前に、WECの前線基地であるTGR-E(トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ:旧TMG)でシート合わせやシミュレーター・テストをする必要があったからだ。

 6月3日、渡欧5日目を迎えた平川に話を聞いた。

「昨日は丸1日、シミュレーターなどをやっていました。150周以上……200周近く走ったんじゃないですかね。結構、大変でした(笑)。今日、ドイツは祝日なので午前中はトレーニングをしていて、明日はまたTGR-Eに行きます。それで最後ですね」

 1週間にわたる事前の準備を終えると、週明けの火曜日(8日)には平川もポルトガルに向かう。6月15日からの3日間のテストに先立ち、第2戦のレースウイークもチームに帯同する。

 平川によれば、今回のテスト参加は2020年末くらいにもたらされた話だという。

「本来、コロナ禍でなければ、2月とか3月あたりのテストから参加させていただけるような話でした。ただ(年明けも)コロナの状況が酷くてなかなか渡航できず、一時はテスト参加は難しいかなと思ってました。今回、スーパーフォーミュラ(SF)は欠場になってしまいますが、テスト参加が実現できて嬉しく思っています」

 今回はあくまでもテストだが、「世界で戦いたい気持ちはずっとあり、アプローチはしていた」という平川としては、近い将来の“WEC最高峰クラスの実戦デビュー”も当然、意識はしている。

 ただ、今回のテストがどんな位置付けであるのかは、平川も明確には知らされていないという。オーディションの要素もありそうだが、チームにとってはル・マンを前に新型車両の開発を進める貴重な機会。レギュラードライバーもテストには参加する。「そこは、(オーディションと開発の)両方を兼ねてやっていくんだと思います」と平川は構えている。

「実力とかでは全然負けていないと思うので、しっかり適応して、テストを走れればいいなと思っています」

 昨年末に声がかかったということは、ここ数年に日本のレースで残してきた結果が評価されての抜擢と捉えることができる。

「そこを評価され、呼び戻してくれた形だと思っています。まだ将来的な話などは全然煮詰まってはいませんが、『SFを欠場してまで来てくれ』というくらいなので、可能性はあるかなと思っています。ただ、日本でのリザルトはテストに参加するためのきっかけに過ぎません。こっち(欧州)で実際に走って、実績とか、信頼関係を作っていかなければならないと思います」

■2017年、一度は確実かと思われたシートを失った悔しさ
 平川が「呼び戻してくれた」と語るように、今回のテストは平川にとって“世界挑戦の第二幕”とも言える。悔しい記憶として残るのが、2017年だ。

 前年からトヨタの育成プログラムの一環としてELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズ、そしてル・マン24時間のLMP2クラスに参戦していた平川は、オフの間にLMP1マシン『トヨタTS050ハイブリッド』のテストも経験。トヨタがスパとル・マンで3台体制を採ることになった2017年に向けて、サードカーのシート獲得が目前だった。

 年始にはWEC用のヘルメットも用意していたという平川。しかし3度目のテストで突如オーディション的な雰囲気が漂い、国本雄資が速さを見せ始めると、焦りが生じた平川は途端にすべてが噛み合わなくなってしまう。結果、3台目のシートを射止めたのは国本だった。

 その時の悔しさを、2017年末の取材で平川はこう語っていた。

「(テクニカル・ディレクターの)パスカル・バセロンに個室に呼ばれ『雄資でいく』と伝えられた時のことは、いまでもよく覚えています。これまでに感じたことがない悔しさと、怒りと、悲しさがあって、夜も眠れなかった」(auto sport No.1473)

 その悔しさをバネにした平川は、2017年はニック・キャシディとともにスーパーGT・GT500のタイトルを最年少で獲得。その後も、最終戦の最終ラップまでタイトルを争った2020年まで3年連続でランキング2位となり、同時参戦するスーパーフォーミュラでも昨年はシリーズ2位を得ている。

 そうして国内で実績を重ねる間にも、海外挑戦への思いは消えることはなかった。「世界でやりたいという気持ちは、ずっと変わらずにあります」と語る現在の平川には、2017年当時とは異なる種類の自信も見え隠れする。それは、ここ数年の実績に裏付けられたものだろう。

■ポルティマオは走行経験あり。「とにかく楽しみたい」
 現在、トヨタが抱える6名のレギュラードライバーは実力・経験ともに強力なラインアップであり、テスト&リザーブドライバーとしてはニック・デ・フリースも控えている。また、昨シーズンは山下健太が育成プログラムのドライバーとして、LMP2クラスで速さと強さを存分に発揮した。

 そんななか、今回のテストで平川は4年ぶんの進化をアピールしなければならない。

 プレッシャーもかかりそうな状況だが、平川はポルティマオでのテストを「楽しみにしている」と言う。

 幸い、以前にLMP1をテストした際のスタッフもチームには残っており、「そこはゼロからのスタートではなく、4年前の続きのような気持ちで臨めています」と平川。

 また、今回テストの舞台となるポルティマオも、LMP1時代のテスト、そしてELMSのレースで走行経験があるトラックだ。実際にどれくらいの時間、ドライブが許されるのかは分からないが、平川はそのチャンスを最大限に使い、将来の“可能性”に向けてアピールしたい構えだ。

「自信があるか、と言われるとちょっと分からないんですけど、とにかく楽しみにしています。自分の持っているものを全部使って、少しでもいい方向に進みたい」

 やや時期尚早な疑問ではあるが、仮にテストで高い評価を得ることができ、来季以降、念願のWECにフル・コミットすることになった場合、日本のレースはどうするのだろうか。

 平川は「コロナの状況や渡航制限次第ですが」と前置きしつつ、次のように自らの思いを口にした。

「自分の覚悟的には、ヨーロッパに住んでもいいと思っています。中途半端にはやりたくない。まだ、どうなるのかは全然分かりませんが、それくらい本気で臨む気持ちでいます」