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ウーバーイーツ配達員が明かす、専業で稼ぐことの厳しさ 「電動アシスト自転車だろうが脚はガクガク」

2021年05月31日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ウーバーイーツで月100万稼ぐには?

 ネットで料理を注文すれば、指定した場所まで届けてもらえるサービス、ウーバーイーツ。2016年の日本上陸以降、東京など都市圏を中心に利用者を増やしてきた。配達員はスマホさえあれば簡単に登録でき、自転車やバイクなどの移動手段さえ確保すれば体ひとつで仕事を始められる。その働き始めるまでの簡単さの一方で、配達員の交通マナーの悪さや労働条件の劣悪さ、事故時の補償の貧弱さなどがたびたび問題になってきた。


 そんなウーバーイーツ配達員とライター・構成作家の二足のわらじを履いているのが、渡辺雅史氏。ラジオ番組の構成作家やライターとして仕事をしつつ、ウーバーイーツ配達員として2018年1月から働き始め、今年で4年目となる。そんな配達員の苦労や経験をまとめた書籍が、先日ワニブックスから発売された『アラフォーウーバーイーツ配達員 ヘロヘロ日記』。配達システムや報酬体系、客からのクレームやどこから入っていいかわからないタワマンとの戦いなど、知られざる配達員の苦闘が軽妙に綴られた一冊だ。


 今回は渡辺氏本人にお話を伺い、ウーバーイーツ配達員という仕事についてさらに詳しく質問を投げかけた。彼らが背負っている相当な苦労を知れば、見方も少し変わるかもしれない。(しげる)


ウーバーイーツで月100万稼ぐには?

ーーライター業と配達員を両立しているとのことですが、現在の仕事の配分はどういった感じなんでしょうか?


渡辺:まず、自分のライター業に関しては企画を雑誌の方に提案して、それが通れば仕事になるというパターンがほとんどです。だから企画がたくさん通れば忙しくなるし、通らないと暇になる。その暇になった時に配達員をやっているので、仕事の割合が毎月固定されている訳ではないですね。


ーー多い時だと、どれくらい配達の仕事をしているんですか?


渡辺:例えば去年の緊急事態宣言の前後はずっとやっていました。週に5~6万、月で25万くらいはウーバーで稼いでました。一番働いた時は週8万ほど。それくらいやると、体がボロボロになって人間としてヤバい感じになりますね。


ーー週に6~8万稼ごうと思うと、1日のスケジュールはどういう感じになるんでしょうか。


渡辺:大体朝8時から夜10時過ぎまで配達をしますね。注文が入らない日は深夜1時過ぎまで粘ることも。土曜日と日曜日はラジオのスタンバイなどがあるので配達をやってませんが、それ以外の日、週に5日くらいの間ずっと配達すると、大体それくらいの金額になります。


ーー5日間ずっと一日中自転車に乗りっぱなしですか! そこまでやって大丈夫なんですか……?


渡辺:もうケツは痛いし、電動アシスト自転車だろうが脚はガクガクになりますよ。冬場は寒さで顔も痛くなるし、手もバキバキになります。対策といってもスキー用の手袋つけてなるべく厚着するくらいしかできないし。あと、夏は本当に死んじゃうので、さすがに日中はやってません。朝方にちょっとやってから、日が落ちた18時以降にまた出発して夜までという感じですね。


ーー本当に大変ですね……。しかし、配達員だけで生活するのも不可能ではないんですね。


渡辺:自分が知っている人の中には、バイクとか使って月に30~40万くらい稼いでいる人もいます。理論上は月100万も可能ではあります。実際、100万稼いでいる人がSNSで売上画面をアップしているのを見たことがあるのですが、そこに記録されていたオンライン時間(労働時間)を計算すると、およそ400時間。これって過労死ラインをぶっちぎりで超えるんですよ。その間ずっとバイクや自転車に乗ってるのってどうなの、という話なんですよね。


ーー確かに……。あくまで理論値ですね。ただ、本の中でも触れられているように渡辺さんが乗っているのは電動のシェアサイクルですが、例えばロードバイクに乗り換えたらもう少し稼げる……みたいな考えはなかったのでしょうか?


渡辺:自分で所有しているロードバイクだと、家から乗って配達に行って、乗って帰ってこないといけませんよね。シェアサイクルなら配達で遠くに移動してもステーションに乗り捨ててそのまま電車で帰れるし、商品を取りに行ったり配達してる時に路上に止めても、いたずらされたり盗まれたりするリスクがない。自分にとってはメリットが大きいんですよ。


ーーそれは確かにそうですね! あと、注文する側としてはリュックで食べ物を運ぶと中でこぼれたりするのでは……と心配なんですが、そのへんはどうなんでしょう?


渡辺:それで言えば、ウーバーで何か頼むなら液体は避けた方がいいと思います。基本的にジュースとかコーヒー、あとスープとかが入っているテイクアウト用の容器って、横揺れには強いけど縦揺れに弱いんです。自転車は段差とかでどうしても縦に揺れるし、歩道を走るとこぼれるリスクが高い。しゃれた石畳の道とか、恐怖ですよ……! だから、自分は液体を運ぶ時、段差の少ない車道を走ることがあります。自転車通行可の歩道があるのに車道をわざわざ走ってる配達員は大体液体を運んでいる人です。


ウーバーイーツで頼むなら「ケンタッキー」

ーーへ~! 車道を走る配達員には、そういう事情もあるんですか。


渡辺:液体でいうと、スープカレーもヤバいですよね……。あれってシャバシャバしてる上に、具が大きい店が多い。特にジャガイモなんかは球形だから、ちょっと傾いただけでゴロゴロ転がって中で暴れて、それでカレーがこぼれる。ただでさえスープ状のものは運びにくいのに、具をデカくしないでほしい(笑)! 自分は今のところ派手にこぼしたことはないですけど、スープカレーを頼む際は覚悟して注文していただけたらと。


ーーご苦労様です……。反対に、運びやすくて届いた時にがっかりしなくてすむものってなんなんでしょう?


渡辺:チェーン店でいえば、ダントツでケンタッキーです! ケンタッキーはウーバーイーツでの注文の場合、ドリンクのオーダーを受け付けていないようなので、液体を運ばなくてすむし、チキンもビスケットも全部箱に入ってるから多少傾けても安心です。


ーー確かにケンタッキーはトラブルが少なそう。参考になります。あと本に書いてあったことでいうと、注文した食べ物を持って行って注文者と連絡が取れなかった場合、10分経ったら配達員が食べちゃっていいというルールも知りませんでした。


渡辺:さっきのケンタッキーとか、あと牛丼とかも食べたことがありますね。それでいうと、ウーバーイーツって、自分が配達している東京都心部エリアの場合、深夜1時まで注文を受けてるんですよ。だから、0時59分に牛丼を頼む人とかもいるんですね。その時間から配達員のマッチングが始まって、遅いタイミングだと1時20分くらいにマッチングが成立するわけです。そこから牛丼屋に向かって、着くのが1時半で、お客さんのところに到着するのが2時近くになったりする。そうなるとお客さんが寝落ちしてたりするんですよ。それで連絡がつかなくて10分経過すれば、その牛丼はそのまま食べちゃっていいんです。


ーーあ~! なるほど!


渡辺:もちろんその時間に起きてればちゃんと届けますし、時間がかかるとお客さんが怒ってBAD評価をつけられたりしますけど、寝落ちしてる場合はお客さんの都合だから、大体何にも言われない(笑)。夜中まで働いた上にBAD評価がつくか、タダ飯にありつけるかのギャンブルですね。今まで2勝5敗くらいの成績ですけど。


ーーそのBAD評価って、たくさんつくとどうなるんですか?


渡辺:噂では配達員のアカウントが停止されるとか聞きますけど、今のところ自分には「お前BADつきすぎだからしっかりしろ」みたいなメールが届いたくらいですね。どれだけBADがついてもお客さんは配達員を選べないし、どんな罰則があるのかもよくわからない。理不尽な理由でBADがつくこともあるし、正直僕はあんまり気にしてないです。


ウーバーの中はブラックボックス?

ーーウーバー、なんだかよくわからないところが多いんですね。


渡辺:ブラックボックスみたいな部分はすごくたくさんありますね……。あと、報酬についても先日変更されました。以前は東京エリアの場合、1回の配達での基本料金がおよそ390円で、それにプラスして距離料金が1キロ運ぶごとに60円ついたんです。ところが今は「ベース料金」が120円~280円ぐらいで、それに「配達調整金」という謎な名目のお金がプラスされる。で、ベース料金も、配達調整金も、何を根拠に計算されているのかという明示が一切されていない。


ーー距離あたりいくら、という形ではなくなったんですね。


渡辺:そうです。名目を変更することで、ウーバーの都合で勝手に下げることができるようになりました。だから大阪とか福岡の方では勝手に減額されて、何キロ運んでも一回の配送で300円という現象も起こったそうです。


ーーそもそも、地方によって支払われる金額が違うんですね。


渡辺:東京が一番恵まれてるんですよ。全国に手を広げたのはいいけど、「そこで営業して大丈夫か?」みたいなところでも配達サービスを展開しちゃってるんですよね。注文する人とウーバーに対応した飲食店とがある程度密集していないと成り立たないじゃないですか。東京の環境で成り立ってるビジネスを、地方にそのまま持ち込んで成立するのかという問題点を、配達員に支払うお金を絞る方向で調整しているように見えます。


ーーう~ん、なかなかひどい……。


渡辺:お客さんとトラブルになった時に電話するサポートダイヤルというのもあるんですが、ここが全くサポートしてくれないというのも配達員の間では有名です。例えば、ウーバーはある時期から現金払いができるようになった関係で、古くからやっている配達員は、現金払いの発注を受けるか拒否できるかが選べるんですよ。僕はお釣りを持ち歩きたくないから現金払い以外の人だけに届けてるんですが、アプリのバグで現金払いの注文が入ってきたことがあって。


ーーそれは大変ですね。


渡辺:自分は悪くないからサポートダイヤルにかけたんですが、そこで言われたのが「頑張って配達してくれ」ってことだけで。「なんとかしろ」しか言われないんですよ。あとこれも聞いた話ですが、配達中の事故に関しては一応保険があるんですよ。でもその保険を使うとアカウントが停止されて、いきなりクビになるんです。


ーーヒドいな~!!


渡辺:あとこれも公式には認めてないですけど、ウーバーの保険って交渉特約がないんです。だから事故の相手との交渉とか弁護士との話し合いから、示談になるまでの交渉を全部自分でやらなきゃいけない。でもウーバーは「保険があるから安心です」って言い張ってるんです。実際はもう本当に放りっぱなしだし、とにかく謝らない。関係者を諦めさせる天才ですね。「配達員にお金は払ってるんだからいいでしょ、嫌なら辞めれば」ということなんですけど、でもその賃金すら勝手に下げたりしますから。


ーーそんな状況なのに、配達員が確保できているのはなぜなんでしょうか?


渡辺:誰でも採用されるからだと思います。どんな人間でもアカウントを作れば働けるから、「もうウーバーしかない」という立場の人でもとりあえずなんとかなる。あと、お金を払うまでのスパンが短いんですよ。週払いで、その週に働いた分が翌週火曜の午前中には入金されてる。最悪、日曜に丸一日自転車に乗って1万5000円くらい稼げば急場がしのげる、という人間にとってはありがたいと思います。そういう意味では貧困層を狙い撃ちにしたビジネスですし、そういう使い方のものだと割り切った方がいいですね。


ーー本当に、ライター業の合間にやるという使い方が正解な気がしてきました。


渡辺:ライター業のネタ集めのツールとしては使えるんですよ。普段行かないようなところに強制的に行かされるから、「こんなところに行列ができてる店があるのか!」とかがよくわかる。全国の都市部で同じことができるのも利点ですね。もちろん本に書いたように自分の健康のこともありますが、例えば緊急事態宣言で普通の人はあんまり外に出られない時でも外出できたから、誰もいない新宿とかを写真に撮りまくってレポート記事を一本書けました。ウーバーで稼げなくても、それで得たネタで雑誌の仕事が増えたりするんです。


ーー自分もライターですし、やったほうがいい気がしてきました……。


渡辺:ただ、本当に専業でやるのは危険です! ウーバーって「嫌だったら辞めればいい」っていう社会の声をうまく利用してるところがあるんですよ。でも、本当にウーバーしかなくて辞めたくても辞められない人だっている。「全部自己責任だし、甘いことを言うな」というのを繰り返した結果が今のひどい社会だし、働き方としては最底辺なんだから、本当はもっと補償がないとダメなんですよね。本ではなるべくそういうテイストを抜きましたけど、実のところはそういう点がヤバいと思ってます。まず専業で働くのはおすすめできないし、でも後がない人ほど専業で働かざるを得ない。そこだけは本当に気をつけてほしいですね。


■書籍情報
『アラフォーウーバーイーツ配達員 ヘロヘロ日記』
著者:渡辺雅史
出版社:ワニブックス
価格:本体1,000円+税