2021年05月29日 09:01 リアルサウンド
「このマンガがすごい!2021」オンナ編で1位になった『女の園の星』。最新刊である2巻が発売されると、瞬く間にTwitterでトレンド入りを果たした。
2巻の電子書籍版には「チェンソーマンがアツいっショ~」と話す女子高生が描かれた特典ペーパーが収録され、発売当日に『チェンソーマン』の作者である藤本タツキ氏が「女の園の星の二巻も面白かったのでよかったです。」とTwitterでつぶやいた。注目を集める作家同士のやり取りが、一読者から見ても楽しい。
本作は、女子高で教師を務める「星先生」の視点から、女子高生や教師が織り成す学校生活が描かれる作品だ。影で教師を「ポロシャツアンバサダー」や「無印良品」と呼んだり、教師から預かっている犬に油性ペンで眉毛を描いたりと、現実にいそうな女子高生の少し可笑しい日常を覗くことができる。
また教室の壁にクルクルと回る円形の分担表が貼られていたり、黒板のマグネットが顔みたいに配置されていたりと、背景には多くの人が目にしたことのある学校の景色が描かれる。遊び心のある女子高生や丁寧に描かれた学校の様子から、高校時代の懐かしさを感じられる点も本作の大きな魅力。
女子高の様子をリアルに描く本作であるが、登場人物は皆個性豊かだ。
例えば、第1巻で登場する女子生徒「松岡」。彼女は授業中に漫画を描いているのだが、その漫画はパンを咥えた女子高生とぶつかるなどの理由から、登場人物が次々と死んでいくというもの。本人はラブコメやミステリーを描きたいと話し、「面白くて好きだよ」という感想にも「面白くしたつもりはない」と返答する。彼女はふざけているのではなく、真面目で素直なだけであり、ゆえに傍から見たら少し変で面白く感じるのである。
熱い視線が注がれる『女の園の星』の2巻の見どころは星先生をはじめとした、謎に包まれていた先生たちのプライベートが濃く描かれる点だ。
例えば数学科の担当であり2年3組の担任を務める「小林先生」の弟が登場し、週末に家に来るような関係であることが明かされる。また中学時代の星先生の写真や、教室で飼っていたクワガタとの思い出も語られる。第1巻でも星先生の酒癖について明かされたが、今回は小林先生の家族や星先生の過去にも焦点が当てられるのだ。
女子生徒の一人が食事中の星先生を見て「ウケる」と発する一コマがあるが、第1巻では、別の生徒が書いた星先生の観察日記でも、食事をする先生を見たときの心境が記載されている。
5月20日(水)
職員室に行ったら
星先生がサンドイッチを食べていた。
当たり前だけど
「この人ごはん食べるんだ」と思った。
(文:鳥井毬子)
彼女たちの教師に対する印象について、作者の和山氏自身も同様の心境を抱いていたことをインタビューで話している。
それと、私は学生時代、教師を人間だとは思っていませんでした。悪い意味ではなく、「教師は教師」でしかありませんでした。(中略)「あ、この人笑うんだ」と、人間なので当たり前のことですが、生徒が普段見ることができない先生の顔に、ドキッとしたりしたものです。
(特集放送直前!『女の園の星』和山やま先生スペシャルインタビュー/フィール・ヤング / on BLUE 編集部)
子どもたちが学校で過ごす時間は多いが、教師との接点は授業や部活動など限られたひと時であるはず。生徒から見えないところでカロリーメイトを食べたり、トイレで歯を磨いたり、お掃除ロボットを愛おしく思ったりする教師たち。本作は自分が生徒だった頃には見えていなかった、教師のリアルで人間的な一面を知ることができる。
2巻に収録されるエピソードで、自習中に騒ぐ女子高生を星先生が注意するシーンがある。彼女たちを見ながら発した星先生の心の声は、作中で初めて描かれた心境であった。先生のプライベートな一面に加え、これから先生の内面も明かされていくのだろうか。続きが気になって仕方がない。
■あんどうまこと(@andou_ryoubo)
フリーライターとして漫画のコラムや書評を中心に執筆。寮母を務めている。