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星一徹、磯野波平、海原雄山、さくらひろし……漫画キャラの父親たちが見せた“深い愛情”を検証

2021年05月27日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昭和の時代、父親は「地震、雷、火事、オヤジ」と称されるほど怖い存在だった。家長制度の名残もあり、暴力を振るうこともしばしばあったと聞く。


 ところが現在は父親のあり方も変化し、「厳しいオヤジ」は敬遠される傾向が強い。かつて漫画に登場した「日本の父親」と呼ばれた人物たちも、「古い」「怖い」などと揶揄されることもある。そんな日本の父親たちだが、決して「厳しいだけ」ではなかった。今回はそんな漫画に登場する父親たちの「優しさ」を検証してみたい。


星一徹『巨人の星』

 日本の漫画で描かれた父親で、現在最も厳しい評価を受けているのが、『巨人の星』の星一徹だ。


 自身が巨人軍に入団しながら戦争で受けた負傷が原因で引退を余儀なくされたことから、息子・飛雄馬に夢を託し、巨人の星を目指して英才教育を施す。


 その指導方法はまさに「スパルタ」で、スプリングを張り巡らせた「大リーグボール養成ギブス」の着用義務付けや、厳しい練習を義務として強制的にやらせるなど、非常に自己中心的と言わざるを得ないものだった。


 また、飛雄馬が巨人に入団し、「大リーグボール1号」を引っさげてスターになると、一徹は中日ドラゴンズのコーチに就任し、アームストロング・オズマを指導し、魔球を打ち崩す。さらに飛雄馬の親友で、巨人の同僚だった伴宙太を中日に入団させ、仲を引き裂いたのも一徹。厳しい仕打ちに息子の飛雄馬が絶望したこともある。


 そんな一徹だが、心の奥底では息子を想う一面を持っていた。貧乏長屋暮らしで高校進学が危ぶまれた際には、自身が日雇いの仕事などで貯金したお金を見せ、無事高校に入れている。また、幼少期の厳しい特訓で飛雄馬は巨人軍に入り、大金を手にしたうえ、花形満や左門豊作など良きライバルにも恵まれた。


 一徹が心を鬼にして野球の才能を授け、巨人軍に入り、良い生活をする。この事実が最大の優しさだったのだ。


磯野波平『サザエさん』

 星一徹とは違った古き良き「昭和のお父さん像」の代表格といえば、『サザエさん』の磯野波平だろう。


 アニメでは長年声優の草分け的存在である永井一郎さんが声を担当し、磯野カツオを「バカモン」と怒鳴りつけるシーンが有名だった。『サザエさん』はアニメと原作で作風が大きく異なるが、波平という家長を中心とした家族という点は共通している。


 「厳しい」「怖い」というイメージの強い波平だが、怒るときは決まってサザエやカツオが「間違ったことをした」ときのみだ。最近は怒る父親が減り、悪いことをしても「見て見ぬ振り」をしがちであると聞く。「悪いことを悪い」と指摘し怒る行為は教育であり、心の奥底に優しさを持っているからこそ、「バカモン」と注意するのだ。波平も優しさを持った人物と言えるだろう。


海原雄山『美味しんぼ』

 山岡士郎の父、海原雄山。妻に対する振る舞いを見た息子が憤りを持ち、自らの美術品を壊されたうえ家出してしまい、縁を切るという、かなり悲劇的な親子関係を構築してしまった父親である。


 常々「縁もゆかりもない」と言い放ち、息子を罵倒することも多かった雄山は「嫌な父親」の代表格ともいえる。しかし、実は士郎が幼少期に使っていた茶碗を手作りする、嫌いな食材を克服するメニューを考えるなど愛情を注いでいた。


 また、『究極対至高』の対決ではぶつかり合いながら士郎を鍛えており、対決に負けたにもかかわらず、息子の成長に満足しているような素振りを見せることもあった。結局、雄山の心の奥底に潜む優しさに気がついた士郎の嫁・ゆう子の尽力で、2人は仲直りすることになる。長い年月を要したが、息子への愛情が実ったのだ。ただの暴君なら、こうはいかなかったであろう。


さくらひろし『ちびまる子ちゃん』

 酒に酔っていることが多くつねにグータラで、その発言がまる子や妻・すみれから呆れられてしまうことも多いさくらひろし。また、まる子や自らの父である友蔵に嫌味を言うこともあり、「嫌な父親」と感じる人もいると聞く。


 しかし、ひろしの家族愛には深いものがある。13巻で自動車を買った際には、まる子を連れ中華街につれていくという優しさを見せている。お母さんとまる子が仲良くしていると、寂しそうな表情をしていることもしばしばだ。


 グータラで酒ばかり飲んでいるイメージのあるひろしだが、母・すみれや姉・さきこ、まる子に嫌味を言うことはあっても、暴力を振るうような描写はない。その辺りにも、ひろしの優しさが垣間見えていた。


時代の経過とともに父親像にも変化が

 父親のあり方は様々だが、「子を思う気持ち」は共通している。時代の変化とともに、愛情表現の方法が変わってきているのだろう。