トップへ

『天使なんかじゃない』『君に届け』の共通点は? 時代を超えて愛される学園恋愛マンガの主人公

2021年05月27日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

時代を超えて愛される『天ない』『君届』

 これまでに多くの高校、学園を舞台とした作品が生まれてきた。幼いころは「高校生になったらこんな学生生活が待っているのか」と胸をときめかせ、大人になってから読めば「こんな高校生活を送れていたならなあ」と苦笑いと共に、自分が過ごしたものとは違う青春に想いを馳せる。


関連:【画像】『天使なんかじゃない』『君に届け』主人公と親友たち


 数多くある学園ラブストーリーの中から今回ピックアップするのは1990年代の矢沢あい『天使なんかじゃない』と、2010年代にアニメ化、実写映画化もされた椎名軽穂『君に届け』だ。


■明るいヒロインが恋に泣き、生涯の友を得る


 創立されたばかり高校、私立聖学園に一期生として入学した冴島翠。元気で明るくクラスの人気者で、二学期早々、生徒会役員に推薦され、当選する。そこで出会ったのは以前から気になっていた「リーゼント頭の背の高いあいつ」須藤晃だったーー。『天使なんかじゃない』は、晃をはじめとした生徒会役員メンバー、クラスメイト、後輩たちと過ごした翠の3年間を描く物語だ。


 中心となるのは翠と晃の恋だが、その周りの恋愛模様にもときめく。特に生徒会役員の麻宮裕子(マミリン)と瀧川秀一(タキガワマン)の恋だ。中学時代から瀧川に想いを寄せていたマミリンだが、瀧川には恋人・志乃がいる。マミリンの想いを察した翠がおせっかいを焼くが、うまくいかずに喧嘩になることも。


 2人の恋の行方が気になるのはもちろんのこと、性格が正反対のように見える翠とマミリンが少しずつ心を通わせ、親友同士となっていく様子は何度読んでも涙するポイントだ。強いように見えて、脆い部分も持つ2人が支えあう姿は、女性が憧れる友情の形でもあったかもしれない。


■すれ違い“両”片想いのまどろっこしさ


 真っ黒で長い髪と青白い肌に陰気な表情。ついたあだ名は「貞子」という前代未聞のヒロイン・黒沼爽子。そんな爽子が想いを寄せるのはクラスでも明るく爽やかで人気者の風早翔太。実は“両”片想いの2人と、周りの人たちが絆を深めていく高校生活を描く『君に届け』。


 陰気な見た目ではあるが、実際の爽子はポジティブだ。周りからの言動を決して悪いほうにはとらえない。見た目のイメージ通りに怪談を覚えたほうがいいだろうか、などと言い出すギャグセンスも持ち合わせている。けれど、恋愛ごととなるとものすごくネガティブ。人気者の風早が自分のことを好きなはずがない! と思い込んでいるフシがある。そして風早のほうも――。とにかくすれ違う2人の様子に多くの人が身もだえたはずだ。


■恋だけじゃない、友情、イベント、進路の悩み


 話の中心は恋愛だが、高校3年間は現実でも濃密な時間だ。『天使なんかじゃない』も『君に届け』も高校3年間を描き切ることで、高校生活の良いところも、つらいところも詰め込まれている。


 体育祭や学園祭など、学校のお祭りでの非日常感。そして修学旅行では何かとトラブルが起きがち。高校生活ではそういったイベントでほんの少し関係性が変わったりする。当時『天使なんかじゃない』の学園祭で登場するイベント「赤い糸の伝説」を真似した学校も多かったのではないだろうか(そして大抵マンガのようにはいかないのである)。


 そしてこの2作の大きなポイントは、高校生活で「親友」ができること。10代のころはお互いの環境が変わると、すぐに疎遠になってしまう。それから道が交わることなく二度と会わなくなってしまう友人もいるだろう。高校から大学、就職へ。それぞれの進路を選び、物理的な距離ができてしまうことも少なくない。


 元気で明るく人気者の翠と、陰気な雰囲気で友達も少ない爽子。一見、正反対に見える2人だが、共通点は「他人のためにがんばれること」。だからこそ、2人は信頼しあえる友人とめぐり会えたのかもしれない。


 大人たちの1年間よりもずっと濃密な高校生の1年間。そのきらめきと、憧れを詰め込んだ物語は、世代を超えて愛される。現実と違ったとしてもがっかりしないのは、そのきらめきが、私たちに夢を見せてくれているからなのではないだろうか。


(文=ふくだりょうこ)