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エンジン単体での進化度トップはGT-Rか。最高速王はGR Supraが維持【2021年GT500テクニカル分析1】

2021年05月25日 10:51  AUTOSPORT web

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2021スーパーGT第2戦富士 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)
スーパーGT・GT500クラスにおいて、新規定『Class1+α』導入初年度だった2020年の富士スピードウェイ戦では、GR Supra勢の直線スピードの高さが際立っていた。

 NSX-GTとGT-Rはストレートで何度もGR Supraの後塵を拝し、その速度差は見た目にも明らかだった。

 では、2021年の第2戦富士はどうだったか。ライバル2車とのギャップは、昨年の5km/h程度から3㎞/h少々へと少し縮まったが、「レース全体をとおして見ると5㎞/h程度の速度差が常にあったと思われる」と、ライバル陣営のエンジニアは冷静に分析する。

 最高速に大きな影響をおよぼすのは、エンジンのパフォーマンスと、エアロダイナミクスのドラッグレベルである。

 このうち、エアロダイナミクスに関しては開発凍結により形状変更は不可能。レーキ角等、車高の前後バランスによってもドラッグは変化するため一概には言えないが、開発可能範囲が比較的広いエンジンの性能差が、富士においては最高速を左右する大きなファクターであることは間違いない。

■ニッサン/名称変更するほどの大幅改良
 2020シーズン前半、GT-R勢のパワー不足は明らかであり、信頼性についても充分に確保されていなかったが、バージョンアップを果たした2基目の改良型でその両方が向上した。

 そして、今季を迎えるにあたっては新たにエンジンの名称を従来の『NR20B』から『NR4S21』に変更。ネーミング手法が変わったことからも、ニッサン/ニスモが21年型エンジンをどのように位置づけているのか、ある程度想像がつく。

 ニッサン系チーム総監督の松村基宏氏は「20年は制御系が大きく変わり、それを使いこなすのに少し時間がかかってしまいましたが、適合が進むにつれてドライバーからも運転しやすくなってきたと言ってもらえるようになりました。とはいえ、20年の課題をすべて克服できたわけではありません」という。

 具体的な変更点の回答は得られなかったが、絶対的なパフォーマンスが向上し、それが最高速アップにつながったのは間違いない。また、ドライバビリティと燃費についても確実な進化を果たしたようだ。ドラビリと燃費の向上は、アンチラグシステムを効率的に使うことで両立できるが、アンチラグの制御以外の部分による燃費向上施策もなされているようだ。

 パフォーマンスに関しては混合、圧縮、点火といった燃焼に関わり、開発凍結規定に抵触しないパーツについては当然改良されているだろう。そのなかでとくに気になるのは、燃焼室の外部点火、いわゆるプレチャンバーが導入されているかどうかだ。

 トヨタとホンダがすでにプレチャンバーを採用しているのは明らかだが、ニッサンはどうか。それについて松村氏は「研究は昔からやっていますが、レースで使っているかどうかは言えません」と、否定も肯定もしない。しかし、パフォーマンスが大きく向上していることを考えれば、投入されている可能性は充分あるはずだ。

■ホンダ/“キログラム単位”のダイエットに成功
 HRD Sakuraの佐伯昌浩ラージ・プロジェクトリーダーは、「今年の1基目のエンジンは馬力も上がっていますが、それよりも軽量化のほうの取りぶんを重視しています」という。

 NRE(ニッポン・レース・エンジン)規定の4気筒直噴ターボは年々パフォーマンスが上がっているが、燃焼圧の高まりに伴いブロックやヘッド等「骨格」の強化が必要となり、重量が増す傾向にある。それはホンダに限ったことではないが、耐久性を求めるべく、エンジンの重量増につながっている。

 しかし、補機類に関しては余裕を持ちすぎた設計だったという反省もあり、今回徹底的に軽量化が進められた。たとえば、フロントに位置し運動性能にも影響するラジエターパイプは、ライバル車と比べても一目瞭然なほど細くなっている。細くなれば内部の保水量も減り、軽量化に大きく寄与する。

 それ以外にも、大型鋳物部品の開発が凍結され軽量化が困難なエンジン本体以外の部分で、グラム単位、ならぬキログラム単位の大幅な軽量化を実現したというから驚く。

 なお、従来からの美点であった燃費の良さは、ライバルにやや差を詰められながらも依然トップレベルにあり、それがピットウインドウを広げ戦略の自由度を高めている。

 燃費の良さについては、ホンダだけがアンチラグを多用しないことも理由のひとつと考えられてきたが、今シーズンのエンジンに関してはアンチラグの使用量、頻度をやや増やしているという。

「エンジン諸元との組み合わせで、完全にオフで走るにはちょっと物足りないなと。使わなくても走れなくはないのですが、昨年までよりも少しパワーを取りにいったりすると、バランス的に少し必要になってくるので」と佐伯氏。従来よりもやや高回転寄りの基本特性となり、それを補う必要が生じたと理解すべきだろうか。

■トヨタ/冷却系統の不具合は解決。燃費も改善
 トヨタは最高速王の座を昨年から今年にかけて堅持しているが、昨年のエンジンは真のパフォーマンスをフルに発揮できていなかったと、TCD(TRD)の佐々木孝博氏はいう。

「じつは冷却系統に不具合を抱えていました。2基目でも冷却系統の不具合を解決するためのパーツが間に合わず、本来のパワーを使い切れませんでした。ですので、今シーズンはターゲット出力の100%で走り切れるように改善しています」

 ターゲット出力の100%とはいっても、予選アタック時のピークパフォーマンスで決勝を走るということではない。持っているエンジンライフを精度よく使い切るために、予選やライバルを追いかけるときはパフォーマンスを上げ、大きく差をつけて先頭を走るときなど、余裕があるときはやや下げるなどしてマネジメントすることで、1基のエンジンを無駄なくきっちり使い切るという考えだ。

 燃費に関しても改善が進められた。そのひとつの手法として、ホンダのようにアンチラグを多用しないのも効果的だが、そうはしなかった。

「たとえばコース上で燃費を3%良くして、その結果給油時間が2秒短くなったとしても、ラップタイムを100分の2、3秒稼いだほうがいいかもしれないし、結局同じだよねという話です。また、GT300が出てきたときのアクセルの踏み直しとかも考えると、ドラビリを犠牲にしたくないという趣旨もありました」

 アンチラグを常用しながら燃費をホンダと同等レベルに向上させるという、かなり難易度の高いチャレンジであるが、開幕2戦を戦ってみて実際はどうだったのだろうか。

「まだ足りているとはいえませんが、オフのあいだに向上させたぶんは効果として発揮できたと思います」と佐々木氏。現時点でのパフォーマンスと燃費のバランスは、いまのところうまくとれているようだ。

 以上のように、3車のエンジンは性能が重なる部分が徐々に増えてきているが、当然2基目についてはライバルに差をつけるための「タマ」をどのメーカーも用意している。再びノーハンデで戦うことになる11月の最終戦富士で、果たして3車の最高速勢力図は変わっているだろうか──。