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舞台化決定で話題! あだち充『虹色とうがらし』が“異色作”と称される理由とは?

2021年05月25日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

あだち充『虹色とうがらし』は異色作?

 あだち充『虹色とうがらし』の舞台化が決定され、タイトルがSNSのトレンド入りを果たすなど話題となった。


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 1989年より「週刊少年サンデー」にて連載された本作は、異母兄弟である7人が集いそれぞれの故郷をめぐり、一人ひとりの母親の墓参りをする旅に出る。だが行く先々で命を狙われることに。父親は一体誰なのか? そしてなぜ7人は命を狙われるのか……。謎を解明するべく兄弟が奮闘するストーリーで、いわゆる“時代もの”漫画に読めるが、実際は地球によく似た星の江戸という町の“未来”が舞台というSF作品でもある。


 あだち充の作品群の中でも「異色」とされている『虹色とうがらし』について、あだち充ファンを公言するアイドル専門ライターの岡島紳士氏に話を訊いた。


「あだち充先生は、中学生や高校生が主人公の現代が舞台の青春もの、特に高校野球などのスポーツものを多く書いた作家で、“時代劇”という設定の本作は異色作といえます。ただ、あだち先生は『みゆき』では異母兄弟を、松たか子と田村正和でドラマ化された『じんべえ』では血の繋がらない親子を描くなど、家族との関係をモチーフにすることが多い作家であり、今連載中の『MIX』(ゲッサン)でも血の繋がらない兄と妹の関係を描いています。その点では『虹色とうがらし』も異母兄弟の話なので、作風がガラリと変わっている訳ではありません。代表作の『タッチ』『H2』などに比べると、コメディー要素が強いですね。江戸風の世界観でありながら、『アルバイト』『セールスお断り』などの英語が普通に使われていたり。作中に『時代考証に口出し無用』という看板が何度も出てきて、そういったことをギャクにしています」


 あだち充といえば、1981年より連載が開始され、1985年にはアニメ化して社会現象にもなった『タッチ』が広く知られているが、『虹色とうがらし』はそのキャリアにおいていつ頃の作品なのだろうか。


「『ナイン』『陽あたり良好!』『みゆき』などの人気作を手掛けたのち、あだち充は『タッチ』で国民的な作家になりました。誰もが知っている野球青春漫画ですよね。その『タッチ』の後に『ラフ』という水泳漫画の作品を描いたんですが、これも熱血スポーツ漫画でラブコメ。ファンの間ではあだち作品のベストとして挙げる声も少なくない傑作です。そして、その『ラフ』の後に同じサンデーの連載として描かれたのが、『虹色とうがらし』です」


 ではなぜ、あだち充はスポーツ漫画ではない『虹色とうがらし』を描いたのか。


「これはあだち先生本人がインタビューで言っていたことなんですが、『タッチ』や『ラフ』といった熱血スポーツものとはちょっと離れて、元々好きだった時代劇や落語といった要素を取り入れた、お気楽でコメディ色の強い作品をやりたかったそうなんですよ。『タッチ』によってサンデーの看板作家となり、『ラフ』も描き切った。看板作家として、看板作品足りうる作品をずっと描き続けるプレッシャーを跳ね除けるために、一旦自分が単に描きたいものを思いっきり描く、っていうことをされたのだと思います。ご本人も「『虹色とうがらし』があったからこそ、またその後の作品を描き続けることができた」といった内容のことを語られています。つまり、それ以降の『H2』や『クロスゲーム』、『MIX』を先生が描くことができたのは、『虹色とうがらし』があったからなんですよね。


『虹色とうがらし』は、先生がすごく楽しんで描いた作品。あだち先生はヒット作の合間に、いい意味で行き当たりばったり的な(笑)『いつも美空』といった連載や、読切作品をちょくちょく挟むんですよね。ただ、中でも『虹色とうがらし』については、のちに『いちばん力が入ってます』と語っているくらい、先生の好きなものが詰め込まれた作品。あだちファンにとっては言わずもがな、そうではない読者にとっても肩の力を抜いてリラックスして楽しむことができる作品になっているんじゃないでしょうか」


 今回の舞台化については「あだち充というヒット作を数多く持つ作家が描いた連載作の中で、メディアミックスされていなかったのは『虹色とうがらし』くらいしか残ってなかったんだと思います」と話す岡島氏だが、それでも本作は「隠れた名作」だと推す。


「『虹色とうがらし』は、トレンド入りするくらい名前は知られていても、『タッチ』や『H2』などに比べると世間的な評価はさほど高くないかもしれません。でも僕は、ストーリーもテンポよく進み、クライマックスへの畳み掛け方や見せ方もうまく、名作だと思っています。単行本も全11巻と長くはなく、話もきれいに完結していてスッキリ読めるかと。読んだことのない人はもちろんですが、しばらく読んでいない人も久しぶりに手に取って読み返すと、新たな発見があるかもしれません」