2021年F1第5戦モナコGPのクライマックスは、レース前にいきなり訪れた。レコノサンスラップでポールポジションからスタートする予定だったシャルル・ルクレール(フェラーリ)がドライブシャフトの不具合に見舞われて出走を断念したのだ。
これで予選2番手のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が事実上のポールポジションとなった。
問題は2番グリッドがアウト側だということ。そして、フリー走行でクラッシュが相次いだため、スタート練習ができていなかったことだった。
「条件はみんな一緒。これまで蓄えてきたデータや今年改良してきたやり方など、持てるもので臨むしかない」とホンダF1の田辺豊治テクニカルディレクターは冷静だった。それは今年のレッドブル・ホンダのスタートが総じて良いからだった。第2戦エミリア・ロマーニャGPでは3番手からフェルスタッペンがチームメイトのセルジオ・ペレスとルイス・ハミルトン(メルセデス)をパス。2番手からスタートした前戦スペインGPでも、1コーナーでフェルスタッペンがハミルトンのインを差している。
フェルスタッペンのスタートに賭ける気迫は、フォーメーションラップを終えて、グリッドに着いたときのマシンの向きからもうかがえた。
「1コーナーでインを取りに行くには、スタートしてから車線変更するよりも、そのまま自分の行きたいところに向かうのが一番理想的だったのではないかと思います」(田辺TD)
こうしてスタート直後の1コーナーでトップを死守したフェルスタッペンは、一度もその座を譲ることなく、78周のレースをトップでフィニッシュした。
「今日はクリーンにスタートを切ることだけを心掛けようと思った。すべてを僕がコントロールできていたように見えるかもしれないけど、あれだけ長い間集中してレースをするのは簡単じゃない。レースを大きくリードしてリラックスしているときこそミスをしがちなので、自分自身に『目の前の状況に集中し続けるよう』に言い聞かせていたよ」
モナコGPで自身初となる表彰台を優勝という最高の形で成し遂げたフェルスタッペン。この優勝でドライバーズポイントを105点となり、ライバルのルイス・ハミルトン(メルセデス)が7位(ファステストラップ獲得)に終わって7点しか加点できず、101点にとどまったため、チャンピオンシップでもリーダーに躍り出た。
またレッドブル・ホンダはチームメートのセルジオ・ペレスも4位入賞を果たし、コンストラクターズ選手権でも1点逆転して、トップに立った。
「この伝統のモナコでチームとして優勝できたことを本当にうれしく思います。これでドライバーズとコンストラクターズのふたつのチャンピオンシップでもトップに立ち、マックス自身もモナコ初優勝だし、そういった意味では本当にいいレースができたと思います」(山本雅史/ホンダF1マネージングディレクター)
今シーズンのメルセデスとの勝敗はこれで2勝3敗だが、3勝分の価値があると言われるモナコでの1勝は、タイトル獲得を目指すレッドブル・ホンダにとって、大きな1勝になったことだろう。