2021年05月24日 10:01 弁護士ドットコム
辞めた後に取得できるはずだった有給休暇を買い取って欲しい——。在職中に取得できなかった有給に関する相談が、弁護士ドットコムに複数寄せられています。
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ある相談者は、1年2カ月ほどアルバイトとして働いた会社を退職しました。採用面接時に「アルバイトには有給がない」と説明され、その通り信じていた相談者は、在職中に有給を取得することはありませんでした。
しかし、退職して2日後、アルバイトでも有給を取得できると知りました。そこで相談者が会社にメールで訴えたところ、やはり会社からは「アルバイトは有給を取得できない」と言われました。
取得できなかった有給について、その分の時給を支払ってもらうことはできるのでしょうか。鈴木謙吾弁護士に聞きました。
——面接での説明は、有給取得妨害と言えるでしょうか
有給休暇については、法的な取得要件を満たせば、アルバイトでも取得する権利が発生します。そのため、面接時の説明は法的には不正確であり、その意味では妨害といえるかもしれません。
しかし、在職中に何度請求しても会社に有給取得を拒否されたなどの事情があれば別ですが、「取得できないと言われ、その通り信じていたから」に過ぎず、就労前の面接時の一発言に過ぎない点も考慮すれば、「アルバイトには有給がない」との採用面接時の発言のみをもって、有給取得妨害とまでは評価されない可能性はあり得ると思います。
また、単に担当者において「アルバイトは有給を取得できない」と本当に誤解して間違えた対応をしてしまった場合は、そのことへの非難は当然あるべきでしょうが、積極的な有給取得妨害とまで評価されない可能性はあり得ると思います。
いずれにせよ、アルバイトの方にとって、面接時の担当者の発言は有給取得妨害に該当しうる有力な証拠の1つとは言えますが、その他の様々な間接事実等を十分に総合考慮した上で、会社側に「有給取得妨害」があったかどうかが判断されることになるでしょう。
——退職後でも有給休暇を請求、取得することはできるのでしょうか
まず論理的な問題点として、退職後にはそもそも在籍していない以上、休暇を取ることは物理的に不可能と言えます。
そのため、仮に会社の対応が「有給取得妨害」と法的に評価されたとしても、改めてアルバイトの方が有給休暇を請求・取得できるかという視点ではなく、損害賠償請求が認められるかどうかを検討することになるでしょう。
——その場合、いくら請求できるのでしょうか。
その場合には、損害額がいくらかという視点が問題になりやすいと言えます。
損害としては、まず妨害行為により取得できなかった有給休暇日数分に該当する賃金相当額分がイメージしやすいと思います。
しかし、妨害されたとはいえ、実際には有給休暇の取得申請行為を行っていない点には注意が必要です。と言うのも、「(有給申請していないことで)就労義務は消滅していないことから、精神的苦痛についての慰謝料のみに留まる」とする裁判例もあるからです。
以上の通りですので、アルバイトの方が在職中、有給休暇を取得することができないと誤認識してしまっていたのであればやむを得ないのですが、やはり退職前に有給休暇を請求するなどの早めの対処を検討することが重要であることは間違いありません。
【取材協力弁護士】
鈴木 謙吾(すずき・けんご)弁護士
慶應義塾大学法科大学院教員。東京弁護士会所属。
事務所名:鈴木謙吾法律事務所
事務所URL:http://www.kengosuzuki.com