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「授業で延々と一方的な発言」「性別違和を打ち明ける」気になる学生への対応法、中央大が充実の「Q&A」公開

2021年05月23日 09:11  弁護士ドットコム

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思春期から大人へと成長する時期である大学生。そのキャンパスライフは楽しいだけでなく、さまざまな悩みや困りごとが起きる。そんな彼らを陰ひなたに支えているのが、各大学で学生生活をサポートする「学生相談室」だ。


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中でも、中央大学の学生相談室はホームページで、実際にあった事例を参考にした教職員向けのQ&A「こんな学生を見かけたら」を掲載、その充実ぶりは他大の追随を許さない。



「まとまりがなく一方的な発言をする学生がいたら…」「遅刻や課題未提出が目立つ学生がいたら…」「性別違和があり、辛いことが多いと打ち明けてきた学生がいたら…」



次から次へと起こる学生の困りごと。中央大学生相談室はどう対処する?(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●丁寧かつ具体的なアドバイス

中央大学生相談室のホームページを開くと、「気になる学生に出会ったら(教職員向け)」というページを見つけることができる。



ここには、発達障害の知識やSNSとの付き合い方、セクシャルマイノリティの学生への配慮、交通事故に関する相談への対応など、専門家によるコラムが掲載している。その中に気になるものがあった。Q&A「こんな学生を見かけたら」である。



このQ&Aに掲載されているのは、たとえば「講義やゼミ中に、まとまりのない発言を延々と続ける学生がいます。考えを整理できていない一方で、こだわりは強いようです。授業の進行にも影響が出ているのですが、どのように対応すればいいでしょうか?」という質問。



これに対し、具体的な回答が詳細に書かれている。



「背景に発達障害の存在が疑われるケースです。講義やゼミの最中に、他の学生の前で、できていないことを指摘するのは避けましょう。もし発達障害であった場合、人前で教員から受けた注意や叱責、友人からの仲間外れ、家族との口論などが、数年以上も経ってから強い感情や表現を伴って想起され、トラウマ体験として蓄積されることがあります。



まずは授業外の時間に呼び出し、『いつも一生懸命発言してくれてありがとう。ただ、考えをまとめて話すのは少し苦手かな?』などと声をかけてみてはどうでしょうか。ネガティブな内容に入る前に、熱心に取り組む姿勢を評価することから始めると良いと思います。また、授業の進行に影響をきたしていることは伝えない方が良いでしょう。



本人から『いつも授業を止めてしまってすいません』などという話が出てこない場合は、周囲の状況を認知する力が弱いことが示唆され、発達障害の特性の一つを持ち合わせていると考えられます(後略)」



もちろん、言及したとしても急に学生のこだわりが解消されるわけでない。そのため、回答では「発言を求める質問を事前に提示し回答を準備してきてもらう」など具体的な対応方法が紹介されている。



●放置すれば命に関わる問題も

こうしたQ&Aは、23項目が掲載されている。中には、放置すれば学生の生命にも関わるような深刻な問題もある。



「学生から『戸籍上の性に対して異なる性自認があり、授業や日常生活で辛いことが多い』と相談がありました。どのような接し方が大事でしょうか?」



「顔のあざを隠して来ている学生がいます。ふだんより元気もないようですし、DVではと疑ってしまいます。しかし、下手に聞けません。かえって授業を欠席するようになるのではと気がかりです。何かうまい対処方法はありませんか?」



「『死にたいんです』『私なんかいなくなってしまえば』などと自殺をほのめかす相談を受けました。リストカットもしているようです。どのように対応すれば良いでしょうか?」



これらすべての質問に対し、ひとつひとつ丁寧な回答がされている。首都圏の主要な大学のホームページと比べてみたが、ここまで充実している学生相談室のページは見当たらなかった。中央大学生相談室はなぜ、ここまで「本気」をみせるのか。



「最初のスタート地点は、2000年に作成した教員向けのハンドブック『気になる学生に出会ったら』でした」と話すのは、中央大学生相談室の斉藤秀樹さん。



「学生に一番近い窓口は、やはり先生方になります。学生相談室に学生が来てくれても、普段の生活の状況がわかりづらいことが多かったので、まずは先生方に意識していただこうということで、作成しました。



本当に題名の通りなのですが、気になる学生に出会ったら、こういう対応をしていただいて、最終的に学生相談室につなげる必要がある場合は、どういうふうに連絡を取っていただくかが書かれていました」



当時、社会問題化しつつあったさまざまなハラスメントについても指摘したという。このハンドブックは学内で配布されたが、他の大学から「参考にしたい」といわれるほど、先駆的なものとなった。





●「学生相談室はよろず相談室」

このハンドブックは、内容を刷新して2012年、第二版が作成された。



「第二版では、うつ病や依存症、統合失調症などメンタルの健康に関する情報を新たに加えています。また、当時はまだ話題になり始めたばかりでしたが、発達障害についても説明しました」



この第二版をベースに2018年、作成されたのが、現在もホームページで紹介されている「気になる学生に出会ったら(教職員向け)」だ。2013年、米国精神医学会が作成した診断基準である「DSM5」が大幅に改定されたため、国内でも変更になった用語を反映。また、大学でも注目されてきたセクシャルマイノリティについても説明を加えたという。



いわば「第三版のハンドブック」をネットで公開した理由を、斉藤さんはこう語る。



「教員向けではありますが、学生さんや外部の方、どなたでも見られるように情報共有をしていこうということで、現在の形になりました。また、ホームページで公開することで、本当に必要な時に情報を検索して、アクセスしやすくなっています」



中央大学生相談室では例年、3500件から4000件の相談を受けている。精神科医やカウンセラー、場合によっては弁護士など専門家が対応できる体制をととのえているが、まずは学生が抱えている悩みや困りごとを早期に発見し、解決の糸口を探すことが目的だ。



昨年から今年にかけては、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために実施されているオンライン授業について、「講義についていけない」「リポートが多くて対応できない」といった新たな悩みも増えてきたという。こうした相談にも、中央大学生相談室は真摯に向き合っている。



「学生相談室はよろず相談室です。ペットを拾ってしまって大家さんとトラブルになったけどどうしようとか、失恋してつらいとか、さまざまな相談を受け付けています。



新型コロナでとくに自宅に引きこもりがちではあると思いますが、とにかく抱え込まず、気軽に来ていただきたいです」